本研究の目的は、自閉症の脳機能障害説という医学理論が日本の教育制度に採用されたプロセスを明らかにすることである。2000年代に自閉症が脳機能障害として制度上に位置づけられたことを契機に、自閉症が脳の障害であることが多くの人に知られ始めた。これを受けて、社会学では問題行動や自己に関する語りにおける自閉症の脳機能障害説の役割が分析されてきたが、制度面の研究は少数であり、教育制度に脳機能障害説が持ち込まれた背景は未検討である。本研究では資料調査を通じて、医学では1970年代に脳機能障害説が定説化したが、制度上は医学的な正確さよりも教育機会確保のために自閉症を心因性の「情緒障害」の枠内で扱ったこと、2000年代に入ると障害児教育制度改革において障害の「特性」に応じた教育が目指され、把握すべき「特性」は障害の原因によって異なるという考えから自閉症が脳の障害として位置づけ直されたことを明らかにした。