遺伝性腫瘍
Online ISSN : 2435-6808
22 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
解説
  • 中野 嘉子, 加藤 元博
    原稿種別: 解説
    2023 年22 巻3 号 p. 61-67
    発行日: 2023/02/15
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル オープンアクセス

     DICER1症候群は、胸膜肺芽腫をはじめ、嚢胞性腎腫、結節性甲状腺腫、甲状腺癌、卵巣セルトリ・ライディッヒ腫瘍、子宮頸部の横紋筋肉腫、まれな脳腫瘍などさまざまな臓器に及ぶ腫瘍の発症に関連する疾患である。小児期からの遺伝学的検査とサーベイランスが推奨される遺伝性腫瘍の1つであり、欧米ではその指針や提言がまとめられている。頻度は高くはないが、がんゲノム医療の普及による関心の高まりや、近年あらたにDICER1関連腫瘍と認識される病型も増えていることから、本邦でも本疾患の鑑別や診療にあたる機会は増えつつある。本稿では、DICER1症候群の遺伝学的検査やサーベイランスを中心に解説する。

原著
  • 今井 芳枝, 阿部 彰子, 村上 好恵, 武田 祐子, 川崎 優子, 板東 孝枝, 高橋 亜希, 井上 勇太, 阪本 朋香, 吉田 加奈子
    原稿種別: 原著
    2023 年22 巻3 号 p. 68-74
    発行日: 2023/02/15
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル オープンアクセス

     本研究は,遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome;HBOC)と診断された乳癌罹患患者のリスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing birateral salpingo-oophorectomy;RRSO)後の思いを明らかにすることを目的とした.対象者は,HBOCと診断された乳癌罹患患者でRRSO後の20歳以上の成人患者12名とし,半構造化面接方法でデータ収集をした.結果,HBOCと診断された乳癌罹患患者のRRSO後の思いとして【がんという恐怖から解き放たれて安らいでいる】【タイミングがよかったので、手術を決心できた】【後続の人のために自分の手術経験を役立てる】【RRSOが終わった今だからこそ身内のがんに向き合う】【手術をしても自分の状態を思い煩う】【手術で卵巣を取り除いたことに負い目がある】の6つのカテゴリーが導き出された.HBOCと診断された乳癌罹患患者はRRSOの意義を十分に理解しており、RRSOは自身のがんのリスク低減だけではなく身内のためでもあり,HBOCの家系が関わる遺伝の特徴が見出されていた.一方で、RRSO後にも自分の身体状態に対して不安や心配などネガティブな心情を持ち続けていたことが示された.

症例報告
  • 氏原 悠介, 泉谷 知明, 樋口 やよい, 田代 真理, 前田 長正
    原稿種別: 症例報告
    2023 年22 巻3 号 p. 75-79
    発行日: 2023/02/15
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル オープンアクセス

     遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome;HBOC)における卵巣癌のほとんどは高異型度漿液性癌(high grade serous carcinoma;HGSC)であり,低異型度漿液性癌(low grade serous carcinoma;LGSC)やその発生母体となる漿液性境界悪性腫瘍(serous tubal intraepitherial carcinoma;SBT)はまれである.今回,BRCA2に病的バリアントを認めたSBTの症例を経験したので報告する.

     症例は66歳,女性.40歳代で卵巣腫瘍の診断で手術を行い,組織診断はSBTであったが,細胞異型や間質反応が強く,卵巣癌Ⅰa期(FIGO 1988)に準じて治療をした後,定期検診を行っていた.本人がBRCA1/2遺伝学的検査を希望したため実施したところ,BRCA2に病的バリアントを認めた.HBOCにおける卵巣腫瘍としてSBTは非常にまれだが,SBT症例においてもBRCA1/2病的バリアント保持者が一定の頻度で存在するとの報告が複数あり,卵巣境界悪性腫瘍に対しても,HBOCに関する遺伝診療の観点に基づいた介入が必要と考える.

臨床経験
  • 加藤 花保, 鈴木 修平, 佐藤 千穂, 菅原 恵, 天野 吾郎, 今野 亜希湖, 堤 誠司, 鈴木 民夫
    原稿種別: 臨床経験
    2023 年22 巻3 号 p. 80-84
    発行日: 2023/02/15
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル オープンアクセス

     山形大学医学部附属病院は,2019年にがんゲノム医療拠点病院に認定を受けた.県内に2施設あるがんゲノム医療連携病院と連携を取り,包括的ゲノムプロファイル検査(Comprehensive Genomic Profiling;CGP)を実施している.2019年11月~2021年5月の期間に245名がCGPを受け,9名で新たに遺伝性腫瘍が確定した.このうち6名は検出された生殖細胞系列遺伝子とがん種に関連があった.また,7名は第3度近親者内に関連腫瘍家族歴があった.NCCNガイドラインの遺伝学的検査基準には7名が該当した.CGP受検者への事前説明においては,一定の症例で遺伝性腫瘍が見つかることを説明することが必要である.また,CGPを受ける前から各主治医が遺伝性腫瘍を念頭に置いて診療にあたり,必要時は遺伝部門へ紹介する院内連携が重要である.

  • 足立 未央, 有賀 智之, 熊木 裕一, 才田 千晶, 中津川 智子, 岩本 奈織子, 米倉 利香, 石場 俊之, 本田 弥生, 井ノ口 卓 ...
    原稿種別: 臨床経験
    2023 年22 巻3 号 p. 85-90
    発行日: 2023/02/15
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル オープンアクセス

     遺伝性乳癌卵巣癌症候群の診断とオラパリブのコンパニオン診断の保険適用に伴い,BRCA遺伝学的検査の機会が増えたが,病的バリアント保持者の乳房サーベイランスの報告は少ない.2010~2020年の間にBRCA病的バリアント保持者と診断され,フォローアップ中の39例を検討した.乳癌・卵巣癌未発症者が5例,乳癌既発症者が25例,卵巣癌既発症者が11例(重複あり)であった.乳癌・卵巣癌未発症例,対側リスク低減乳房切除未施行の根治可能な片側乳癌術後を合わせた14例中,13例で乳房サーベイランスを行っていた.転移・再発乳癌患者は,12例全例でCT検査 のみを行っていた.根治可能な卵巣癌4例中2例,転移・再発卵巣癌7例中5例で乳房サーベイランスを行っていた。BRCA病的バリアントが判明時の状況はバリエーションが多く,保険適用状況や全身性疾患,画像検査関連の合併症などの因子と照らし合わせサーベイランスを実行していく必要があると思われた.

  • 伊藤 郁朗, 永井 あや, 黒住 未央, 青木 宏
    原稿種別: 臨床経験
    2023 年22 巻3 号 p. 90-95
    発行日: 2023/02/15
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル オープンアクセス

     2019年6月,卵巣癌Ⅲ/Ⅳ期に対する初回化学療法後の維持療法としてオラパリブが承認され,コンパニオン診断としてのBRCA1/2遺伝学的検査も保険収載された.当院では2019年8月から検査を開始し,2021年8月までに13例に施行した.BRCA1の病的バリアントを2名に,臨床的意義不明(variant of uncertain significance; VUS)を1名に認めた.病的バリアントの2名は,オラパリブによる維持療法で完全奏効(complete response; CR)を継続している.この2名は遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer;HBOC)の確定診断となり,本人の乳癌などのリスク低減手術や血縁者への遺伝学的検査の検討などの遺伝カウンセリングが必要となった.しかし,当院は遺伝カウンセリング体制が整備されておらず他院と連携しているため,抗がん剤治療中であることや本人の遺伝に対する不安などから遺伝カウンセリングは未施行である.病的バリアント本人や血縁者の言葉から受け止めを振り返り,他院との連携体制のみでは遺伝カウンセリングを施行する障壁が多く,院内での遺伝カウンセリング体制の確立が必要であると考えた.

編集後記
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