2025 年 25 巻 2 号 p. 49-55
本邦のゲノム情報を基盤とした医療体制構築にはバリアント意義の正確な分類と情報の蓄積が欠かせない.卵巣癌例のがん遺伝子パネル検査で検出された生殖細胞系列のBRCA1 NM_007294.4:c.3927_3930del p.(Asn1309Lysfs*8)が日本人特有の希少病的バリアントと推測されるため報告する.症例は40代女性.バリアントは検出当初にClinVarで病的意義不明(VUS)に分類されていたが,ENIGMA分類基準により直後にpathogenicに変更された.腫瘍細胞にはBRCA1タンパク発現消失とプロモーター領域にメチル化が検出され,発がん機序に片アレルの生殖細胞系列バリアント(第1ヒット)と対立アレルのDNAメチル化(第2ヒット)によるBRCA1の機能不全が考えられた。検出バリアントは本症例のほかには日本人卵巣癌例の1例が報告されているのみであることから,日本人特有の卵巣癌発症リスクに関与する希少バリアントと示唆された.