遺伝性腫瘍
Online ISSN : 2435-6808
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総説
  • 村中 徹人
    2025 年25 巻2 号 p. 44-48
    発行日: 2025/10/03
    公開日: 2025/10/03
    ジャーナル オープンアクセス

     本論文では神経線維腫症1型:NF1(レックリングハウゼン病)の乳癌発症リスクについて述べる.分子生物学的研究からは,NF1遺伝子の機能喪失がRAS経路の持続的活性化,代謝リプログラミング,内分泌抵抗性の発達,ゲノム不安定性の促進など,複数の機序を通じて乳癌発症リスクを増加させることが報告されている.疫学研究からは,NF1患者,とくに若年女性(50歳未満)における乳癌リスクの有意な上昇(標準化罹患比は約4~11倍)が一貫して報告された.とくに30~39歳のNF1女性の年間絶対リスク(359人に1人)が50~59歳の一般集団(363人に1人)と同等であるという知見は,若年NF1女性に対する早期スクリーニングの必要性を示唆している.また,NF1関連乳癌はより大きな腫瘍サイズ,より高いグレード,ER陰性腫瘍の高い割合など,不良な予後因子を示すことが明らかになった.

症例報告
  • 赤羽 智子, 平沢 晃, 井本 逸勢, 増田 健太, 杉森 弥生, 荻島 大貴, 小倉 加奈子, 青木 大輔, 山上 亘
    2025 年25 巻2 号 p. 49-55
    発行日: 2025/10/03
    公開日: 2025/10/03
    ジャーナル オープンアクセス

     本邦のゲノム情報を基盤とした医療体制構築にはバリアント意義の正確な分類と情報の蓄積が欠かせない.卵巣癌例のがん遺伝子パネル検査で検出された生殖細胞系列のBRCA1 NM_007294.4:c.3927_3930del p.(Asn1309Lysfs*8)が日本人特有の希少病的バリアントと推測されるため報告する.症例は40代女性.バリアントは検出当初にClinVarで病的意義不明(VUS)に分類されていたが,ENIGMA分類基準により直後にpathogenicに変更された.腫瘍細胞にはBRCA1タンパク発現消失とプロモーター領域にメチル化が検出され,発がん機序に片アレルの生殖細胞系列バリアント(第1ヒット)と対立アレルのDNAメチル化(第2ヒット)によるBRCA1の機能不全が考えられた。検出バリアントは本症例のほかには日本人卵巣癌例の1例が報告されているのみであることから,日本人特有の卵巣癌発症リスクに関与する希少バリアントと示唆された.

  • 太田 千寿瑠, 本間 大器, 田中 克侑, 本多 隆也, 神尾 卓哉, 廣津 竜也, 野中 雄一郎, 柳澤 隆昭, 深澤 寧, 竹内 千仙, ...
    2025 年25 巻2 号 p. 56-60
    発行日: 2025/10/03
    公開日: 2025/10/03
    ジャーナル オープンアクセス

     われわれは,けいれん重積に対する精査で行った頭部MRI検査で左側頭・頭頂葉に腫瘍性病変を認め,開頭生検術によりびまん性小児高悪性度グリオーマと診断された4歳男児を報告する.患児の父親はLi-Fraumeni症候群(LFS)の家族歴があり,17歳のときに右下肢の骨肉腫を発症したが,遺伝学的検査もがんサーベイランスも受けていなかった.さらに,父親は患児の母親にLFSの家族歴があることを共有していなかったため,患児はがんスクリーニングを受けられていなかった.患児の末梢血と脳腫瘍組織を用いてがん遺伝子パネル検査を行ったところ,父方家系ですでに同定されている病的バリアントc.1041delC(p.L348fs*22)をTP53遺伝子に認めたことからLFSと診断した.本症例の経験は,LFS患者としての父親の心理的負担の大きさを理解すること,その子どもの出生直後からのがんスクリーニング検査の重要性を示している.

  • 長谷川 庚美, 三嶋 千恵子, 下登 志朗, 柳川 雄大, 久保 杏奈, 伊藤 友里恵, 鳥 正幸, 文 正浩, 千原 陽子, 後藤 孝吉, ...
    2025 年25 巻2 号 p. 61-66
    発行日: 2025/10/03
    公開日: 2025/10/03
    ジャーナル オープンアクセス

     遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer;HBOC)の原因遺伝子であるBRCA1/2遺伝子の病的バリアント保持者では,乳癌,前立腺癌,膵癌,卵巣癌に加えて,胆道癌,胃癌,食道癌のリスクが上昇することも明らかになってきた1).しかし,HBOCの男性患者に関する報告は少ないほか,これら新しく関連が報告された消化器癌についてのサーベイランスは確立していない.症例は77歳男性,食道癌術後フォローの画像検査で左乳腺腫瘤の指摘があり受診した.精査の結果,左乳癌の診断となり手術を施行した.男性乳癌であるほか,前立腺癌・食道癌の既往歴,乳癌・卵巣癌の家族歴があることからBRCA1/2遺伝学的検査を施行したところ,BRCA2遺伝子に病的バリアントを認めた.今回3つのHBOC関連癌に罹患したBRCA2病的バリアント陽性男性患者を経験したため,多重がん発症に至った要因などの文献的考察を加えて報告する.

臨床経験
  • 市川 直明, 上野 真由美, 南澤 晴海, 溝口 亜衣, 佐藤 恵子, 佐藤 秀太, 玉田 恒, 佐藤 碧
    原稿種別: 臨床経験
    2025 年25 巻2 号 p. 67-71
    発行日: 2025/10/03
    公開日: 2025/10/03
    ジャーナル オープンアクセス

     長野赤十字病院がんサポートセンターは,がんゲノム医療関連の面談同席からがんゲノム医療外来へシームレスな対応につなげている.2019年にがんゲノム医療連携病院に指定されて以降がんゲノム医療中核拠点病院,2020年9月以降はがんゲノム医療拠点病院にエキスパートパネルを依頼し,エキスパートパネルのレポートを受理してから結果説明をしていた.2024年以降にエキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院が指定されることとなり,自院でもエキスパートパネルを開催できる体制にすべく取り組みを強化した.2024年11月には厚生労働省よりエキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院の指定を受け,エキスパートパネルの運用を開始した.その結果,エキスパートパネルレポート返却までの期間が短縮され,院内の連携もとりやすくなったため報告する.

編集後記
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