定量的な全球洪水リスク評価を行うため,これまでいくつかの全球洪水リスクモデルが開発されているが,堤防や遊水地等の洪水防護施設の考慮は全球洪水リスクモデルにおいて大きな課題となっている.原因としては,洪水防護施設に関する公開されている情報が少ないことや,全球で利用可能な衛星データやDEMは解像度が粗いために地形情報としての洪水防護施設を直接は表現できていないことが挙げられる.現状唯一存在する全球洪水防護レベルデータFLOPROSは文献調査とモデルの推定によって地域スケールの洪水防護レベルを洪水の再現期間として表現したものである.しかし,FLOPROSでは洪水防護施設を物理的に表現できておらず,全球河川モデルによる水の流れの表現に物理的な洪水防護情報を導入することで堤防導入による下流の流量増加等が考慮でき,より適切な洪水リスク評価につながると考えられる.
全球で利用可能な洪水防護情報は少ないが,米国ではU.S. Army Corps of Engineers (USACE) によってNational Levee Database (NLD)と呼ばれる堤防位置,周辺施設等の情報を示したデータベースが整備され,高解像度のDEMも広範囲で利用可能な状況にある.そこで、まずは米国を対象として堤防位置と標高データから堤防高,堤防と河川間の距離といった物理的な洪水防護パラメータを整備し、全球河川モデルの河道断面に堤防を導入することを考えた。本研究では米国の内,アラスカ州とハワイ州を除く地域においてNLDの堤防位置情報,高解像度DEM,全球Hydrographyデータを用いて堤防データを河川と関連付け,物理的な洪水防護パラメータを広域自動抽出する手法を提案する.