水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会2019年度研究発表会
選択された号の論文の131件中1~50を表示しています
I. 口頭発表
【気候変動・地球環境(1)】
  • 胡 茂川, 田中 賢治
    p. 2-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    The regional water resource and environment have been changing due to climate change. It is essential to predict the impact of climate change for better water management at the regional scale. The objective of this study is to assess the impact of climate change on water resources in the Kiso River Basin from the present (1981-2000), near future (2031-2050) and future (2081-2100) using different 4 climate models. First, bias correction was done using APHRO_JP precipitation data and AMeDAS temperature data. Then, A water and energy budget based integrated water resource model named SiBUC-RRI-ROM was used to predict the impact on water resources. The results indicate the river discharge and dam inflow were various among different climate models. Overall, the ensemble average annual precipitation will increase from present to near future at the basin.

  • 小坂田 ゆかり, 中北 英一
    p. 4-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    平成30年7月豪雨ではそれほど強くない雨が長時間持続し,西日本を中心に広範囲で多くの総雨量がもたらされ,各地で甚大な被害が発生した.大量アンサンブルデータd4PDFの解析の結果,平成30年7月豪雨が発生した際の大気場と類似した大気場パターンは,将来増加はしないことが示唆された.しかし一方で,将来は平成30年7月豪雨発生時以上の水蒸気量が日本域に流入し始める.さらに,高解像度領域気候モデルRCM05の解析の結果,今回災害をもたらすきっかけとなった線状の強雨は,将来その強度が増すことも示されている.すなわち,将来気候において必ずしも同様の豪雨が増加するわけではないが,もし同様の豪雨が発生した場合は,平成30年7月豪雨以上の総雨量がもたらされる可能性があり,災害もより甚大な被害をもたらす危険性が示された.

  • 田中 賢治, 田中 茂信, 正木 隆大
    p. 6-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    本研究ではd4PDF-NHRCM20を用いて気候変動による水文量変化の不確実性を評価した。現在気候と将来気候それぞれ50、90アンサンブルの気候シナリオが提供される。陸面過程モデルSiBUCで地表面水・熱収支を計算し、分布型水文モデルHydroBEAMで河川流量を計算する。将来気候では、蒸発散量が増加し、多くの河川で渇水流量が減少する。日本の広い範囲で水資源量が減少する可能性が高い。

  • 山本 浩大, 佐山 敬洋, Apip Apip
    p. 8-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    東南アジアの気候変動影響研究において、高解像度MRI-AGCM(水平解像度 20km)の将来降雨を降雨流出モデルに入力し、洪水氾濫への影響を定量的に評価した1)。近年では、極端現象の再現性の向上を目指して、高解像度の領域気候モデル(以下、NHRCM, 水平解像度5km)が開発2)され、詳細な東南アジア流域での気候変動影響評価にも適用されている。本研究は、東南アジアの熱帯湿潤流域において、NHRCMの将来降雨を用いて、流域規模の洪水氾濫への影響評価を目的とする。

     現在気候のNHRCMの流域平均日雨量を、GSMaPを基準に、クオンタイルマッピング法(以下、QM法)を用いてバイアス補正をした。上記の手法に加えて、NHRCMの空間的な変動係数の平均値を、降雨非発生日を除き、上位から順に1パーセンタイルと各5パーセンタイル毎に求め、対応するGSMaPの変動係数に補正した。各格子の雨は、流域平均雨量が補正後の値と一致するように、流域一様に補正前に対する補正後の降雨の比を用いて補正した。NHRCMは時間雨量なので、日雨量を保つように補正前に対する補正後の比を用いて補正した。補正手法の検証のため、現在気候の補正前、補正後の雨量とGSMaPをRRIモデルに入力し、年最大氾濫量に着目し、各補正手法を用いた結果の比較を行った。また、将来気候(RCP 8.5シナリオ)の降雨を各補正手法を用いて補正し、氾濫への影響を定量的に求めた。

     最大氾濫量に着目した結果、単純にQM法を適用するよりも、NHRCMの降雨の空間分散を考慮したQM法がよりGSMaPの最大氾濫量の累積分布に近づくことがわかった。また、下流の地域で氾濫頻度が大幅に増加することがわかった。この地帯は、主要産業であるオイルパーム林を含む農地が広がっており、氾濫量および頻度が増加することによる影響が懸念される。

【気候変動・地球環境(2)】
  • 艾 治頻, 花崎 直太
    p. 10-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    Bioenergy and bioenergy with carbon capture and storage (BECCS) technologies can achieve zero or even negative CO2 emissions, hence have been considered as one of the essential technologies in achieving the 2-degree climate target. With ambitious climate policy, the demand for bioenergy would be up to 200-300 EJ per year based on recent predictions. At this level, a large volume of biomass is needed to generate energy. In order to enhance the simulation performance in bioenergy crop yield, we modified the algorithm and adjusted parameters of a state-of-the-art global hydrological model termed H08. Overall, overestimation or underestimation seen in the original H08 have been largely suppressed in this enhanced H08, which performs much better in simulating yield of Miscanthus and Switchgrass. Results also showed that irrigation significantly increased the yield for both Miscanthus and Switchgrass especially under dry climate condition.

  • Boulange Julien, 花崎 直太
    p. 12-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    The global hydrological H08 model and a new generation of routing model, CaMa-Flood, were successfully coupled to represent the effect of dams on river discharge and hence inundation dynamics. While, at the end of the 21st century, change in flood frequency highly depends on geographical factors, implementing dams reduced flood frequency for the majority of locations. In addition, implementing dams also reduced maximum flooded areas in major basins, up to 39%, compared to the same scenario with no dam.

  • 花崎 直太, 吉川 沙耶花, 鼎 信次郎
    p. 14-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    水資源の逼迫を表せる適当な物理量がないため,全球規模の水資源評価には水逼迫指標が用いられてきた.これまで最もよく用いられてきたのは取水水資源比(Withdrawal to Availability; WTA)と一人当たり水資源量(Availability per Capita; APC)である.WTAは年水資源量に対する年取水量の割合で,経験的に0.2および0.4を上回ると水逼迫と判定される.APCは一人当たりの年水資源量で,やはり経験的に1700 m3/year/personおよび1000 m3/year/personを下回ると水逼迫と判定される.どちらも世界的に広く受け入れられているが,これらの閾値の根拠が示されたことはなかった.そこで,最新鋭の全球水資源モデルH08を利用した水循環と水利用の詳細な全球シミュレーションを行い,WTAとAPCの閾値がどのような水資源の状態を表しているのか精査した.本報告は2018年にWater Resources Research誌に出版された論文の抜粋である.

  • 佐々木 織江, 藤田 耕史, 平林 由希子, 鼎 信次郎
    p. 16-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    氷河からの流出水は下流地域において重要な水資源の一つである.しかしながら,気候変動に伴う氷河の急激な縮退により,流出量は一時的に増加し,その後,氷河体積が十分に小さくなるとこで減少に転じると言われている.流域水資源への影響を予測するために,これまでにも広域氷河モデルによる氷河の融解予測がされてきたが,そのほとんどは積算気温法と呼ばれる簡易的な融解計算によるものであった.特に,広域かつ氷河個々の質量収支を計算できるモデルについては,全てが積算気温法によるものである.しかしながら近年,積算気温法による氷河融解計算は,気温上昇に対して過敏であり,気候変動化では氷河融解量を過大評価するという可能性が指摘されている.そこで本研究では,熱収支式による広域氷河モデルを構築し,中央ヨーロッパを対象として氷河の体積及び流出量の将来変化を計算した.シミュレーション期間は1958年から2100年までの142年間である.結果として,中央ヨーロッパにおいて,氷河からの流出量は1980年頃から上昇をはじめ,2007年にピークをむかえ,その後2100年まで減少を続けると予測された.また,氷河からの流出量を構成する要素のうち,氷河融解水の割合が減少し,積雪融解水の割合が増加することが示された.流出量の主な構成要素が氷河融解水から積雪融解水へと変化することにより,流出が最大となる月が7月から6月へと変化した.これは,通常積雪の方が氷河よりも早く融解することに起因する.また,8月の流出量はRCP8.5において2100年までに2010年と比較して-50%という大きな減少率を示した.この減少率は積算気温法による先行研究で示された値よりも小さく,積算気温法が熱収支法よりも気候変動に敏感であることが確認された.このように,熱収支法による氷河融解の広域計算は,氷河流出量の将来変化や不確実性の幅を考える上で重要な比較材料であり,また,氷河の広域モデリングの発展という面においても重要なステップである.

  • 平岡 ちひろ, 田中 茂信, 田中 賢治
    p. 18-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    中央アジアは,ユーラシア大陸の広大な乾燥・半乾燥地域の中央に位置する.降水量は概して少なく,特に乾燥帯の広がる中央部は年間平均降水量が200mm以下である.よって中央アジアの人々は主に,水利用を氷河の融解水に依存して生活している.いつ,どれだけの水が利用可能かを知るには,年間の水・熱収支の把握だけでなく季節性の再現も必要であり,さらに将来の気候変動に伴う河川流量の変化を知ることが必要となる.当研究室は,2017年7月からキルギス共和国の東部のイシククル湖の南東側に位置するKara-batkak氷河にて気象観測を行っている.本研究ではそのデータをもとに,陸面過程モデルSiBUCを用いて解析を行った.対象地域は, Kara-batkak氷河の標高3429mに位置する氷河観測地点と,そこから7.45km離れた標高2571mのベースキャンプの2点である.対象期間は2017年7月24日から2018年7月3日までで,使用データは現地観測データと再解析データである.観測データは,各要素1時間間隔である.再解析データJRA-55の降水量は1時間毎,気温,比湿,風速そして気圧は6時間毎,下向き短波放射と下向き長波放射は3時間毎に記録されている.解析の際には降水量以外の6要素を1時間毎に時間内挿している.本研究に使用したVaisalaのセンサーWXT436は,降雨量は計測できるが降雪量は計測できていないことが判明した.対象氷河地点ではSWEを観測していないため,氷河観測地点における冬季の降雪量は実測の積雪深と推定される密度を用いて再現する必要がある.そこで,ベースキャンプにおける実測のSWEと積雪深を用いて密度を調べ,その密度を氷河観測地点に適用することで対象氷河における降雪量を再現した.また,JRA-55と観測データを比較し,SiBUCの入力データとなる気象要素7つについて誤差を調べ,それがSWEの計算にどう影響するかを調べた.結果として,特に長波・短波放射の精度がSWEの再現精度には重要で,短波放射は単純な内挿だけでは誤差が大きくなることがわかった.また平均気温が-10℃近い時期はそもそも融解が起こりにくいためSWE値に大きな誤差は出ないが,融雪期の短波放射の精度はSWEの計算に大きく寄与するため,今後は衛星のデータを援用しつつ融雪期の短波放射の精度向上を図る必要がある.

【流出・水災害(1)】
  • PADIYEDATH GOPALAN SARITHA, KAWAMURA AKIRA, AMAGUCHI HIDEO, AZHIKODAN ...
    p. 20-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    The existing rainfall-runoff models require discharge data for their calibration even though there will be uncertainties in the discharge data resulting from errors in rating curves. The direct prediction of observed water level will reduce the model uncertainties which is often sufficient to make an early warning about the flooding.

    In this study, therefore, we aim to propose a generalized storage function (GSF) model for the water level prediction from the rating curve relationship by considering the spatial distribution of rainfall over the basin and incorporating all the possible inflow and outflow components in order to reduce the uncertainties involved.

    The results revealed that the GSF model performed well in reproducing the water level hydrograph.

  • ERNESTO ORLANDO RODRIGUEZ ALAS, 吉谷 純一
    p. 22-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    一級河川である千曲川立ヶ花観測所の実時間洪水予測のために運用されているモデルは、立ヶ花からその上流観測所である小市及び杭瀬下の区間は、3つの分割河道区間で構成され,貯留関数法で追跡する手法が用いられているが,計9つのパラメータ値設定根拠は不明である.更に,この実時間洪水予測モデルは平成17年以降発生した洪水データで更正されていない.本研究では,最新の水文データも利用して,当該区間の貯留関数法による実時間洪水予測モデルを構築した。解析手法として、当該区間への横流入量を解析した後に、小市と杭瀬下の流量を一つ河道区間に入力し,立ヶ花での流量を出力とする貯留関数法を用いた。新しい実時間洪水予測モデルは、6 時間先までの高精度な予測が可能となった.また,4 時間先までなら立ち上がり部とピーク流量発生時刻をより正確に予測することが可能となった.

  • 藤塚 慎太郎, 河村 明, 天口 英雄, 高崎 忠勝
    p. 24-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    都市域では降雨から流出までの時間が短く,河川水位を事前に精度良く予測する手法の開発が重要である

    が,都市流域の複雑な流出機構を精度良くモデル化することは困難であり,簡易で精度が良い都市流出予測

    モデルの開発が課題となっている.近年,深層学習技術の向上にともない第三次 AI ブームと呼ばれるほど

    人工知能(AI)技術の発展がめざましく,様々な分野への応用が進められている.人工知能技術を応用し

    た深層学習モデルはデータ(学習・教師)があれば,自動的にモデルのパラメータを調整してくれることか

    ら,モデルの構築が容易である.洪水予測分野においては,過去の洪水事例の観測データを用いて,ニュー

    ラルネットワークや深層学習を用いた予測モデルの研究が試みられているが,流域ごとに実測データを用

    いるため,異なるデータによりモデルが構築されている.しかし,一般に深層学習モデルの入力データセッ

    トが異なる場合,モデルの誤差要因を切り分けることが困難であり,適切なモデルの精度評価ができない.

    そこで,本研究では著者らが構築した都市流出モデルを深層学習モデルでエミュレーションできるか確

    認することを目的として,都市流出モデルの入力降雨を入力層に与え,都市流出モデルを介した出力結果を

    出力層に与え,深層学習モデルを構築し,深層学習モデルのエミュレーション性能を評価した.

    深層学習モデルを用いた都市流出モデルのエミュレーション性能を確認するため,VHとVQを

    用いて深層学習モデルを構築した結果,学習用洪水が20洪水以上の場合に非常に精度良く,また1洪水の場合

    でも精度良く,深層学習モデルで都市流出モデルをエミュレーションすることが可能であった.今後はその

    他のハイパーパラメータを変更した場合のエミュレーション性能について研究を実施していく予定である.

  • 若槻 祐貴, 中根 英昭, 端野 典平
    p. 26-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    ここ数年で急速な発展を遂げている深層学習は, ニューラルネットワークを多層に積んだ構造を持つ. 計算機の性能向上により, 深い層, 複雑な構造を設定することが可能となり, それによって, 強い非線形性の表現や複雑な事象への応用に成功した. 従来の機械学習では, 特徴抽出を明示的に人が行うが, 深層学習ではコンピュータが自発的に特徴を学習する. この高い汎化能力から, 多くの課題・問題に応用されている. 水象においては, 様々な物理要素が相互に複雑に絡み合い, これら要素が各条件下で異なる物理特性を持っていることや, カオス性によって, 物理法則に基づく現象のモデル化が困難であるという側面がある. Shen(2018)1) によれば, 「他の分野と比較して, 水文学においては深層学習が広く使用されていない」ことから, 深層学習の導入により, 上記だけでなく, 多くの水文学における課題を解決できる可能性がある. 中根・若槻2) は, 長期の雨量時系列を入力とすることで, ダムへの流入量や河川水位の推定を, 増水期・渇水期ともに連続的に行うことができることを明らかにした. 本研究では, これまでの研究を基に, 四万十川のような大河川においても,長期の雨量時系列を入力とした深層学習モデルが有効であることを示す.

    (1)Shen, C. (2018)., A Transdisciplinary Review of Deep Learning Research and Its Relevance for Water Resources Scientists., Water Resources Research, Volume 54, Issue 11, https://doi.org/10.1029/2018WR022643.

    (2)中根英昭・若槻祐貴; 環境分野への深層学習応用研究の立ち上げについて,高知工科大学紀要15巻(1),111-120(2018).

  • 高崎 忠勝, 河村 明, 天口 英雄, 石原 成幸
    p. 28-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    近年,AIを用いた降雨流出に関する検討が数多く行われている.しかし,各検討が対象としている河川や洪水が異なり,取り扱っているモデルの優劣を判定することが困難である.このため,AI 降雨流出の性能向上を図る上で共通のデータを用いた検討が望まれる.このような背景の下,AI 降雨流出ベンチマークテストに資する都市中小河川実流域データセットを作成した.

【流出・水災害(2)】
  • 中村 要介, 池内 幸司, 山崎 大, 近者 敦彦
    p. 30-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    本研究は2018年に整備された日本域表面流向マップを用い、RRIモデルの与条件となる地形データに活用することで洪水波形の再現性が向上するかを確認した。また、下流に位置する市街地を不浸透域として表現することの効果も合わせて確認している。なお、市街地はJAXA高解像度土地利用土地被覆図(30mメッシュ)を用いた。

    対象河川は筑後川水系花月川であり、流域面積は136.1km2、流域の81%を山地が占める典型的な中山間地河川である。対象降雨は平成29年7月九州北部豪雨である。

    先行研究で構築したRRIモデルを2017Modelと呼び、日本域表面流向マップで地形モデルを入れ替えたモデルを2018Modelβ、さらに市街地を追加したモデルを2018Modelとする。

    各モデルを比較した結果、ピーク付近では共通して過大評価であったが、2018Modelβでは水位上昇中の精度向上が確認でき、2018Modelでは低水部からの立ち上がり部を含めて再現精度が向上している。これは下流域に位置する日田市街地をモデリングしたことによって、洪水初期の早い表面流を表現できるようになった効果と考えられる。また、定量的な評価をするためにNash-Sutcliffe 係数を算出した。2017Modelであっても0.955と高スコアであるが、2018Modelβでは0.976、さらに2018Modelでは0.983とモデリングの高度化に伴いNS係数も向上していることが定量的に証明できた。

    また、粒子フィルタによるデータ同化を組み込んで水位予測実験を行った。ここでは水文モデルとしての予測精度を確認するため、6時間先までの予測雨量が完璧に的中できていたと仮定するシナリオで予測実験している。この結果、2017Model+PF(図中のグレー実線)ではモデル精度に由来して観測水位に同化しきれない時刻もあった(例えば7/5 14:00)。一方、2018Model+PF(図中の赤点線)では立ち上がり部から観測水位に同化できるとともに、過大評価していたピークについてもPFで改善できていることがわかる。

    日本域表面流向マップを活用することでモデリング時間の短縮や均質なモデリングが期待できるだけでなく、洪水再現性についても向上した。これによって、水位上昇部での予測精度が向上し避難に要するリードタイムを長くできることを示せた。

  • 山口 悟史, 楠田 尚史
    p. 32-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    SCE-UA法による分布型流出モデルのパラメータを一級河川豊川に適用した結果について報告する。著者らは、一級河川豊川水系(流域面積724 km2)を対象に、分布型流出モデル・河川1次元不定流モデルからなるモデルを構築した。分布型流出モデルとして、飽和・不飽和流れを考慮したモデルを使用し、メッシュサイズを100mとした。1次元不定流モデルには200 mおきに河道断面を与えた。モデル化にはDioVISTA Floodを用いた。流出モデルのパラメータのうち、4個を調整の対象とした。対象とした洪水イベントを、近年の中〜大規模の洪水3件とした。推定にPCを用い約7時間30分を要した。得られたパラメータによる再現シミュレーションでは、3洪水に対しそれぞれピーク流量誤差が9%以下、ピーク時刻誤差が5分以下となった。提案手法により優良なパラメータ推定ができることを示した。

  • 山田 真史, 知花 武佳, 渡部 哲史
    p. 34-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    気候変動による降雨強度の増大など災害外力の強大化が想定され,一方で将来的な公共事業財源の不足も危惧される中で,河道整備・ダム整備等のハード対策に留まらず,都市計画・土地利用計画や風水害保険等のソフト対策を組み合わせた,流域を主体とした治水対策の設計が重要となる.流域内の各地先において適切な対策を選択するためには,各地先における被害額とその発生確率の関係である点的なリスクカーブや,各地先における浸水深とその発生確率の関係である点的なハザードカーブといった,点的かつ確率的なリスク情報・ハザード情報を活用する必要がある.本研究では,特に水害ハザードに着目し,点的かつ確率的なハザード情報の活用手法の例示,および,これに基づいた流域の地理的構造の分析を目的とする.

    吉野川流域本川右岸域を対象に,d4PDFを用いた雨量解析とRRIモデルを用いた氾濫解析から,1500仮想年に関する年最大浸水深およびハザードカーブを,30mメッシュの各セルで算出した.その後,ハザードカーブの形状が各セルの確率的ハザード特徴を表していることに着目し,カーブ形状の類似性をクラスタリング分析により評価・類型化することにより,流域の地理的構造を分析した.その結果,谷底平野区間では上下流方向に確率的ハザード特性が変化する地理的構造が抽出される一方,蛇行原区間では蛇行原を横断する方向に確率的ハザード特性が変化する地理的構造が見いだされた.この要因として,本川両岸の地質差異に起因する大地形・微地形の差異や形成を指摘し,流域を主体とした治水対策を検討する際には,様々なスケールでこれらの観点から検討を行う重要性を指摘した.

    また,点的かつ確率的なハザード情報のみを用いた流域の地理的構造化により,自然堤防や旧河道等の治水地形分類が抽出されることを示した.この知見は,治水地形分類に代表される自然地形分類を具体的に考慮する必要性を示唆するとともに,点的かつ確率的なハザード情報の活用を促すものである.

  • 横山 光, 小森 大輔, Thapthai Chaithong
    p. 36-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    近年,地球温暖化に伴う豪雨が増加していること,さらに林業の低迷化に伴い森林の荒廃が進んでいることは,河川流域内の流木の発生を促していると考えられる.流木は,河川環境内に様々な負の影響を及ぼすことがある.流木が土石流と共に流下すると,家屋や橋梁などの破壊を助長する.また,流木がダム湖に流出することにより,湖面を覆いつくしたり,取水口を閉塞したりと,ダム機能にも甚大な被害を及ぼす.したがって,河川の流域管理を的確に行うためにも,各流域における流木流出の一連のメカニズムの理解とその流出特性を把握することは重要である.助川(2018)は,流木流出の特性について,降水イベント時の流木発生を伴う大規模流木流出と通常時の流域内に堆積した流木が再移動する基底流木流出の2種類の流出特性が存在すると推測した.そしてその流出特性を反映させた貯留関数モデルを提案し,岩手県北上川水系のダム流域を対象に解析を行った.また,Seo et al(2015)は日本の流木流出の傾向について,南日本が北日本よりも流域内の堆積流木量が小さいことを示し,その原因は南日本が北日本に比べて洪水氾濫が多く,流域内に堆積した流木が流出しやすいためであると推測した.そこで本研究は,九州北部地域において助川の貯留関数モデルを用いて過去の流出流木量の再現計算を行い,岩手県の結果と比較することにより,Seoの推測を定量的に示すことを目的として行った.貯留関数モデルを用いて九州北部地域の4つのダム流域において計算を行った結果,1つのダム流域(寺内ダム流域)でのみ再現性を得ることができた.その他のダム流域において再現性が得られなかった原因として,大規模流木流出と基底流木流出の2種類の流出特性では説明できない流域であったためと考察した.また,寺内ダム流域と岩手県のダム流域を比較すると,寺内ダム流域は岩手県のダム流域に比べて大規模流木流出が起きやすく,流域内に堆積した流木が基底流木流出として流出しやすいことが定量的に示され,北日本と南日本の流木流出特性の違いについてのSeoの推察を貯留関数モデルを用いて説明することができた.ただし,今後の課題として,今回の研究において比較したダム流域の数が少ないため,より多くのダム流域で検証を行うことが必要である.

【水質水文・農地水文・流域水管理】
  • 森 正憲, 嶋寺 光, 松尾 智仁, 近藤 明, 古賀 佑太郎, 鈴木 元治
    p. 38-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    1990年代後半より瀬戸内海東部の播磨灘では貧栄養化が進んでおり,その原因のひとつとして流入河川からの栄養塩供給の減少が考えられている.貧栄養化対策を検討するためには、河川からの栄養塩流入負荷を推定し、それを基に海域の栄養塩濃度を予測する必要がある.本研究においては,播磨灘へ栄養塩を供給する役割を果たす流入河川の中で最大の流域面積を持つ加古川を対象に,水文・水質モデルを構築し,降雨時及び平水時における全窒素の動態解析を行った.全窒素の発生源としては,流域内の点源として下水処理場と事業所,面源として土地利用別の原単位に基づく降雨流出を考慮した.計算結果を観測結果と比較したところ,降雨時、平水時共に全窒素負荷の再現性は良好であった.今後は播磨灘に流入する他河川へ計算領域を拡大する予定である.

  • 久保田 富次郎, 申 文浩, 李 相潤, 錦織 達啓
    p. 40-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    集水域からの放射性セシウム流出量の算定法の検討のため、L-Q式と連続濁度観測によって、観測・評価を行った。発表では、ため池集水域における観測データにそれぞれの算定手法を適用したときの得失について報告する。

  • 田中丸 治哉, 立林 信人, 多田 明夫
    p. 42-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では,兵庫県淡路地区のため池における事前放流による洪水軽減効果を検討し,洪水軽減効果が大きなため池の選定方法を提案した.第一に,ため池事前放流は改修済みのため池で行うこととして,1,902箇所のため池において設計洪水流量を安全に通過させることができる洪水吐の幅を設定した.第二に,全てのため池において10年確率モデル降雨による洪水流出解析を実施し,総貯水量の10%ないし30%の放流に対するため池流出量の低減率によって洪水軽減効果を検討した.第三に,事前放流によって確保された空き容量の雨水保留量換算値,すなわち空き容量を流域面積で除したもの(mm単位)が大きいため池ほど,ピーク低減率が大きくなることを示した.よって,空き容量の雨水保留量換算値は,事前放流のピーク低減効果を示す指標として有用である.

  • メルカド ジーンマーガレット, 河村 明, 天口 英雄
    p. 44-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    フィリピンの首都圏メトロマニラをはじめとする発展途上国の大都市においては,洪水リスクが余り考慮されずに都市が進展拡大してきたため都市型洪水が頻発している.特に,メトロマニラは世界の都市の中でも最も洪水の影響を受けやすい都市となっており,洪水対策は長年の懸案事項となっている.洪水対策としては,世界の都市においてハード及びソフト対策を組み合わせた総合洪水リスクマネジメント(Integrated Flood Risk Management,以下IFRM)が導入されているが,特に発展途上国の環境下においてはそれを的確に履行することは極めて困難な状況にある.フィリピンで初めて2012年にIFRMのマスタープランを策定したものの,その具体的なハード及びソフト対策のほとんどは,様々な理由(障壁)により実際には履行されず現在に至っている.このようなIFRM上の障壁を抽出し分析を行うことは,IFRMを履行可能なものとするために必要不可欠であると考えられるが,そのようなIFRM上の具体的な障壁の抽出・分類に関する研究はほとんど見受けられない.そこで本研究では,メトロマニラを対象として,具体的なIFRM上の障壁を抽出し,ISM(Interpretive Structural Modeling)法を用いてそれぞれの障壁間の関係を分析・評価した.

  • 乃田 啓吾, 飯田 晶子, 渡部 哲史, 大澤 和敏
    p. 46-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    土地資源は人類にとって欠かすことのできないものであるが,その利用方法は地域の自然条件および社会条件によって大きく異なる.本研究では,パラオ共和国バベルダオブ島における過去3時点での土地資源利用(自給自足、資源開発,自然保護)を対象とし,効率と持続性の観点から土地資源利用を評価する方法を提案した.本研究で提案した土地利用効率の指標は,自然条件と社会条件の両方を考慮した土地資源利用間の比較が可能であり,土地利用効率は,自己供給,自然保護,資源開発の順に高かった.一方,土地資源利用の持続性は人口増加に応じて,人口密度が15人/ km 2以下の場合は自給自足,それ以上の場合は自然保護が最も持続性が高かった.

  • Leong Chris, Yokoo Yoshiyuki
    p. 48-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    This study explores the potential use of a disaggregated flow duration curve (FDC) to estimate runoff in island catchments under humid conditions. The study disaggregates the FDC into three sections (top, middle and low) and attempts to estimate runoff in each section independently using simple hydrologic models. The results show the Curve Number method and the mean monthly flow (MMF) are able to make proper runoff estimations in the top and middle components respectively. For the low flow section, in perennial catchments the MMF or a process based Tank model is able to make proper estimations but not in ephemeral catchments. The ephemeral catchments low flows are estimated using the precipitation index. The study shows that in island catchments, climate is possibly the main control of the hydrologic nature.

【研究グループ発表】
  • 児島 利治, 粟屋 善雄, 村岡 裕由, 玉川 一郎, 丸谷 靖幸, 原田 守啓, 斎藤 琢, 早川 博, 駒井 克昭, 呉 修一, 手計 ...
    p. 50-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    人間の多様な活動の場である流域圏では,様々な要因による自然災害(例えば洪水,土砂災害,雪害など)が発生することで,人間とその営みだけでなく,多様な生物を含む生態系や水環境に大きな影響が生じる.このような流域圏における現象を解明し問題を解決するには,例えば水文学,農学,気象学,生態学,社会学など様々な学問分野を統合させた超学際的研究を進める必要がある.これは,「従来の各学問分野で発展してきた体系を縦糸とし,"水文・水資源学会"という横断的な研究組織の創設」という"水文・水資源学会"の設立趣旨にもよく通じる.しかし,近年では"水文・水資源学会"への参加者は特定の分野に偏っており,設立当初の4本柱の「学際的かつ総合的研究を重視する」は達成されていないように感じられる.そこで本研究グループでは,流域圏における様々な課題を解決すべく,超学際的な研究コミュニティを設立し,"流域圏保全学"という新たな学問分野を醸成する.これにより,流域圏を構成する自然環境・生態系・生物多様性の保全と適応的管理,および人間社会の持続的発展の両立に貢献することを目的とする.本研究グループは2017年度に設立し,”流域圏保全学”に関する研究集会やワークショップを開催し,超学際的な研究・技術開発に関する知見およびニーズの集約を行い,関連コミュニティの連携に取り組んだ.2018年度は,昨年度に引き続き流域圏に関する研究集会の開催,学総会・研究発表会時のプロポーザルセッションの提案の2点に取り組んだ.これらの活動について,研究発表会において報告する.

  • 小坂田 ゆかり, 谷口 陽子, 松浦 拓哉, 岡地 寛季, 塩尻 大也, 渡部 哲史, 綿貫 翔, 丸谷 靖幸, 田中 智大
    p. 52-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    水文・水資源学若手会(以下,若手会)は2009年から活動を開始し,主に水文・水資源学会に所属する博士課程学生や若手研究者を中心に構成されている研究グループである.これまで本若手会は,分野を超えたネットワークの構築を目的として他分野交流を中心に活動を行ってきた経緯がある.そして,当時若手会の中心であったメンバーが徐々に学位を取得していくにつれ,水文・水資源学に関わる若手〜中堅の研究者,技術者のコミュニティWACCA(Water-Associated Community toward Collaborative Achievement)といった新たな先進的研究グループも本若手会から発足している.今年度の本グループ活動では,学位取得後も続く他分野交流や学際性の取得を目指して,学位取得前の若手の間でも継続した活動の基盤づくりを行うことを目指した.もちろん学生は自身の研究テーマを深めることが重要であるが,今後はより学際性が求められていくことに加え,学生のうちから様々な分野の同世代と意見交換・議論を行うことで,学位取得後にも役立つ幅広い視野とネットワークが得られると考えた.これらの背景,目的を踏まえ,本要旨では,本年度我々若手会の活動について報告する.

  • 中村 晋一郎, 岡崎 淳史, 木村 匡臣, 土井 祥子, 西原 是良, 山崎 大, 渡部 哲史
    p. 54-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    近年,欧米を中心として人間社会と水循環の相互関係を扱う研究が盛んに行われるようになってきており,特に2010年代に入りSivaparanらを中心に「社会水文学」(socio-hydrology)が提案されて以降,人間活動と水循環の相互関係を中心課題として扱う研究・学問分野が体系化されつつある.本発表では、このような背景を踏まえて,水文・水資源学会内に設置された研究グループ「社会水文学の我が国での推進に向けた可能性研究」の2018年度の取り組みについて報告するものである.

【降水】
  • 上米良 秀行, 松田 曜子
    p. 56-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    新潟県長岡市を流れる太田川(信濃川支流の一級河川)を対象に、上流域や下流の摂田屋五丁目地域の空間平均雨量を、ウェブサイトで公開されていて誰でも無償で利用できるパブリックな雨量計データを用いて簡便に把握する方法について検討した。

  • 近藤 孝洸, 吉谷 純一
    p. 58-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では綿密な観測精度評価の第一歩として、長野市で実際に発生した降雨を対象に、国土交通省と気象庁のレーダ雨量計観測値の相違を把握することを目的とする。解析資料として国土交通省の同時刻全国合成レーダと気象庁の全国合成レーダーGPV、アメダス「長野」を用いた。対象降雨期間は2012年7月19日〜21日(以下、期間1)、2013年8月22日〜24日(以下、期間2)の降雨とする。まず、対象期間の国土交通省レーダ、気象庁レーダを元に総雨量図を描いた。次に、アメダスで観測された地上雨量とアメダス真上のメッシュで観測されたレーダ雨量を比較した。その結果、長野市において、国土交通省レーダと気象庁レーダの観測値には総雨量で30mm以上の明らかな相違が存在した。さらに、期間1と期間2共に対象地域南西部において、気象庁レーダで観測された降雨が国土交通省レーダではより小さく観測されていた。

  • 高尾 充政, 中北 英一, 新保 友啓, 山口 弘誠, 中川 勝広
    p. 60-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    近年,都市域でゲリラ豪雨が多発している.中北らの研究を利用してゲリラ豪雨早期探知システムが開発され実用化されている.一方,ゲリラ豪雨早期探知の更なる高度化を目的とした渦管構造の研究も行われている.本研究では,空間時間分解能の高いフェーズドアレイレーダーを用いて鉛直断面内の渦度の階層構造,タレットを観測できたことを示した.

  • 山口 弘誠, 土橋 知紘, 小西 大, 中北 英一
    p. 62-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    ゲリラ豪雨(局地的豪雨)はその時間・空間スケールの小ささから予測が困難であり,その結果重大な被害をもたらしている.ゲリラ豪雨の予測に関して,これまで気象レーダやビデオゾンデなどを用いた積乱雲発生後に雲中の上空で降水粒子が生成される段階である豪雨のタマゴ,またタマゴからの成長時に焦点をあてた研究・観測が行われてきた.その研究の新たな段階として,積乱雲の発生する前の段階に着目し先行研究で開発された都市気象LES モデルを用いて、渦管形成過程の解析を行った.その結果,都市の熱的効果が積雲生成量に及ぼす影響の大きさを確認できた.また都市上空において建物背面で生成した渦が上昇流により持ち上げられ発達するメカニズムを異なる2つの乱流状態で確認できた.

  • 黒田 奈那, 山口 弘誠, 中北 英一
    p. 64-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    昨今,2014年の広島豪雨や平成29年7月九州北部豪雨のような,梅雨期の線状降水帯豪雨による中小規模河川の氾濫や土砂災害が頻発している.防災の観点でいうとリアルタイムに豪雨の発生,継続,またその雨量を予測することが重要である. また,近年では線状降水帯のスケールの現象の予測にもアンサンブル予測が利用できる状況になってきた.本研究では線状降水帯豪雨の発生,継続のリアルタイム予測のためのアンサンブル予測情報の高度利用手法を考える.

    線状降水帯豪雨といった予測困難な現象に対するアンサンブル予測では,予測が更新されてもアンサンブル平均が現実に近づかない特徴(パターン1)と,ばらつきが小さくならない特徴(パターン2)が表れると仮説を立てた.線状降水帯豪雨が起こる時間帯や量の予測に向けて,降水に先行する物理量である水蒸気予測情報におけるこれらの特徴の表れ方を調べる.対象事例は平成29年7月九州北部豪雨である.線状降水帯豪雨が長時間停滞した福岡県朝倉市周辺だけでなく,朝倉への水蒸気流入の上流側である,朝倉の西に位置する地点の予測情報も調べた.パターン1は豪雨であった朝倉市周辺で強く見られた.パターン2は朝倉市周辺の他、水蒸気流入の上流側でも見られた.これらの特徴は豪雨の時間帯と対応してみられていた.

  • 西山 浩司, 広城 吉成, 井浦 憲剛
    p. 66-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では,古記録に基づいて,享保5年に筑後国の耳納山麓で起こった土石流災害をもたらした豪雨の特徴を調べた.その結果,その土石流災害は,東西方向に走行を持つ線状降水帯が耳納山地の西側から東側にかけて豪雨をもたらしたことが要因であることが推測できる.その結果は,地域の災害リスクを明確化し,地域住民に危機意識を持たせる意味で極めて重要である.

  • 近森 秀高, 工藤 亮治, 近藤 祐平
    p. 68-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    夏期に発生する豪雨時に観測される記録的雨量は,極値の中でも外れ値となることが多く統計的評価が難しい。本報告では,外れ値の統計的評価に地域頻度解析の手法を適用し地点頻度解析による結果と比較した。

     解析対象地点には,近年,大規模な豪雨を記録した川井,只見,五十里,福井,尾鷲,岡山,高知,朝倉,津和野,宮古島の10カ所の雨量観測点を選定し,地域頻度解析では,これらの各地点の年最大日雨量データにそれぞれ一般化極値分布をL積率法により適応した。また,地域頻度解析では,気象庁所管の全国155地点を対象とした。まず,これらの地点において1988〜2017年の40年間に観測された年最大日雨量を対象に地域分類を行い,分類により得られた各地域内の各地点の年最大日雨量を各々の平均値で基準化した。地域内全ての観測点における基準化雨量を対象に複数の確率分布を適応し,最も適合度が高い確率分布を採用した。以上のようにして得られた地点頻度解析および地域頻度解析のそれぞれの確率分布を用いて,10カ所の各観測点における外れ値を統計的に評価した。

     その結果,解析対象資料の外れ値の非超過確率は,地域頻度解析でより大きく評価され,適合する確率分布の外れ値への適合度が高くなること,その確率年の推定値は地点頻度解析に比べて長くなることが示された。

     これらの結果から,地点頻度解析で「外れ値」となる年最大日雨量は,地域頻度解析を適応した場合に,地域頻度解析で上位に位置づけられる基準化雨量は,その非超過確率が地点頻度解析よりも大幅に大きく評価される場合があることが分かった。このことは,低頻度の確率水文量の推定値は,地点頻度解析と地域頻度解析とでその推定結果が大きく異なる場合があることを示している。

  • 瀬戸 心太
    p. 70-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    GSMaPとモンテカルロシミュレーションを用いて日本の一級河川流域での流域平均24時間降水量の推定を行った。東北地方西部や北陸では、直接計算した値に比べて相当高い値となっており、積雪と降水の誤判定に注意が必要である。そのほかの地域では、妥当な結果が得られた。

【流域圏保全学】
  • 児島 利治, 太田 貴大, 橋本 啓史, 長谷川 泰洋, 竹島 喜芳
    p. 72-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    流域圏を構成する自然環境・生態系・生物多様性の保全と適応的管理,人間社会の持続的発展の両立のためには,相互に影響しあう様々な現象について統合的に評価し,より良い流域圏の保全を目指していく必要がある.本研究では流域圏を構成する森林において,森林生長モデル,降雨流出モデル,生物多様性評価モデルを用いて森林機能の統合評価を試みた.1)森林管理を行わない,2)生産優先林に対して間伐を行う,3)生産優生の高林齢林を伐採,再植林する,4)環境優先林を広葉樹林化する等の森林施業を組み合わせた複数の森林管理シナリオを想定し,洪水抑制機能,渇水抑制機能,生物多様性機能,及び森林管理コストの評価を行った.特定のシナリオが全ての森林機能で良い評価を示すのでは無く,各シナリオでそれぞれ長短が存在するため,ある特定の機能だけで最適なシナリオを選択する事はできない事が示唆された.

  • 林 義晃, 丸谷 靖幸, 山田 真史, 武藤 裕花
    p. 74-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    流域や全球といった様々なフィールド規模において,これまでに様々な視点から水文・水資源学に関する現象解明に向けて研究がなされてきた.しかし,例えば,流域内では降水〜樹冠遮断・蒸発散〜表面流・浸透流・地下水流などといった経路,流域圏では大気・気象〜斜面・河川流出〜沿岸域といった経路を経ており,水の流れ一つとっても正確に理解するには,様々な分野の連携が重要となる.また,水を介した物質移動・循環やそれを基盤とする動植物の生態系の成立など特に複雑なメカニズムを有する現象,あるいは社会科学が関連する事象の解明には,単分野における取り組みに留まらず,多くの分野が横断して取り組んでいく必要がある.

    近年,平成30年7月豪雨に代表されるように気候変動の影響が現実として現れてきており,豪雨に限らず気温の上昇という部分にも影響が現れている.気温上昇は,積雪寒冷地域においては降雪から降水へ変化することに伴う降雪量の減少や融雪時期の早期化に伴う,春先の水資源量の減少といった影響が懸念される.このような予測結果は多くの既往研究で示唆されているものの,気候変動が降雪に及ぼす影響に派生して生じる,流域圏での現象については今後分野横断的な研究により更なる検討が必要である.そこで本研究では,上述のような現象の解明に向けて,様々な分野の基礎データである降水観測に着目し,特に降水量推定が難しいとされている降雪現象を対象イベントとして,レーダーと衛星による観測特性の解明に向けた基礎的検討を行った.

  • 駒井 克昭, 武内 聖佑, 中山 恵介, 広木 駿介
    p. 76-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    河川水中に溶存する物質の濃度パターンを利用して,流域からの溶存態物質の輸送割合や人為由来物質の影響の推定手法について検討した.対象流域は釧路川流域とし,主要イオンの濃度パターンを用いた起源推定においては,流域を構成する小流域と下流域の物質量に対して重回帰分析を適用し,推定誤差を最小にする回帰係数を小流域からの輸送割合(寄与率)として算出した.さらにベイズ理論を適用し,結果の比較を行った.事前に統計的検定によって使用するデータの違いによる結果の比較も行った.14種の希土類元素の濃度パターンについては工業的な用途を考慮して分類し,規格化された濃度を用いてそれぞれクラスター分析した.ベイズ理論を利用した結果,適用しない場合に比べて小流域からの下流端への輸送割合が妥当な結果が得られ,季節的な傾向も矛盾のない結果が得られた.また,希土類元素のクラスター分析の結果は市街地との対応がみられ,工業的な用途を考慮してREEを分類することで人為起源の物質の水環境中への広がりを推定できることが示唆された.

  • 丸谷 靖幸, 玉川 一郎, 渡部 哲史
    p. 78-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    流域圏から流出する大量の炭素を含む溶存有機物(DOM)は,河川・沿岸域生態系の重要な微量栄養塩も含んでおり,現在の豊かな流域圏を保全するには,炭素循環を理解することは非常に重要である.また,上述のように気候変動の影響を受け,流域圏における水・炭素動態が,過去から現在にかけてどのように変化しているかを理解することは,将来予測を行う上でも重要となる.しかし,森林が多く存在するような標高の高い場所では,長期の気象データを得ることは困難であり,現在から遡り長くても10〜20年程度であることが多い.このように気象観測データが不足する場合,多くの研究では再解析データが利用されるものの,再解析データは計算値であるため,観測データとの間に差が存在する.そこで本研究では流域圏における水・物質動態推定に供することが可能な準観測データの作成手法について,特に山岳部における気象データに着目し,検討を行った.

  • 丸谷 靖幸, 綿貫 翔, 渡部 哲史, 吉田 浩平
    p. 80-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    気候変動適応計画の策定により,様々な対象において気候変動の影響を把握しそれらに適応することの重要性が益々高くなっている.気候変動の影響やそれらへの適応を検討する際には,気候予測情報の取り扱いが必要となる.しかしながら,気候予測情報は日常的に慣れ親しみのある気象データとは異なり,統計的な扱いが必要となることや,ダウンスケールやバイアス補正といった処理も必要となることなどから,その利用には一定のハードルが存在する.本研究では,産学官で広くこの予測情報が活用できる方法を検討すべく,湖沼を含む流域圏の水環境を対象として手法の検討を行う.まず,気候変動が湖沼や流域圏の水環境に及ぼす対象に関する研究の事例に関して,産官学のそれぞれの観点および連携による取り組みについて調査を行い,予測情報利用に必要な条件について明らかにすることを目的とする.

【超学際研究による水文・水資源学の新展開の探索】
  • 谷 誠
    p. 82-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    洪水による災害の減少について、学際的・超学際的観点から考察した。流域条件の流量に及ぼす影響を評価するためには、学際的研究が重要である。さらに、環境問題などの社会の多様な要求項目が治水計画策定にかかわるため、超学際研究が必要になる。本研究では、洪水対策に関する現状維持を重視する控えめな対策が超学際の観点から重要であることを説明する。

  • 木村 匡臣, 渡部 哲史, 中村 晋一郎, 辻岡 義康, 西原 是良, 乃田 啓吾, 丸谷 靖幸, 田中 智大
    p. 84-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    我が国には約20万か所ものため池が存在し,その大部分が中山間地域に位置している.ため池は,農業用水や集落の生活用水の確保という面で中山間地域の農村にとって極めて重要な施設であるとともに,各地域特有の水環境やそれらに依拠する生態系を構成し,地域の自然環境を決定づける役割も有している.このようにため池は中山間地域において多面的かつ重要な機能を有するインフラであるが,その維持管理に関する問題は,中山間地域の少子高齢化・農業の担い手減少により深刻化している.管理が粗放化あるいは放棄されたため池は,農村における持続的な営農の支障となるだけではなく,洪水の際には下流域の水害リスクを増大させる可能性もある.ため池をめぐる諸課題は,さまざまな要因が複雑に関連しあうものであり,そのため中山間地域の持続的な治水・利水戦略を考える上では,自然科学・社会科学分野を絡めた学際的な研究アプローチ,さらにはステークホルダーとの協働による超学際的取り組みが不可欠である.

     本発表では,著者らが農業農村工学,農業経済学,河川工学,環境水文学,水文気候学など,さまざまな分野を横断的に形成した研究グループにより愛媛県西条市において実施中の,ため池群を対象とした学際的研究取り組みについて概説し,これまでに得られている成果や今後の展望について紹介する.

  • 阿部 紫織, 小槻 峻司 , 山田 真史 , 渡部 哲史 , 綿貫 翔
    p. 86-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    近年,気候変動の影響と見られる激しい気象変化や水象災害が世界中で問題となり,安全な人類生存環境の保全に,その変動を考慮した社会システムデザインの必要性が高まっている.我が国においても,気候変動適応法が公布され,産学官が一体となって気候変動適応を推進する枠組みが整っている.気候変動適応法の対策に対して,地方行政などの「官」の側にはまず,何ができるかわからないというニーズがあり,これは,「産」のビジネスチャンスであるが,その具体的なアプリケーションは未だ確立されていない状況である.「学」である研究者は,世界の潮流を標榜しつつ卓越した技術を習得・開発していく一方で,具体的な出口・アプリケーションを意識することは少なく,「何を出来るか」は知っている一方で「何に使えるか」に関する知識には疎い.

    そこで,本研究の目的は,「気候変動適応法に向けた社会実装モデルケース」を,産学の共同体制から開発し,官の側に示していく事である.具体的なアプリケーションの1つとして,『氾濫域エミュレータ開発による将来氾濫リスク変化の推定』への取り組みを始めている.この共同研究は,単純に一方通行の解析依頼ではなく,産学双方にメリットをもたらす技術開発である.この取り組みを皮切りに,ダム管理における気候変動適応や河川水質リアルタイム予測計算など,より広く現場が認知する問題に取り組んでいくことを目標にしている.

  • 中村 晋一郎
    p. 88-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    西洋文明の近代化とその世界への波及とともに,人々の生活や経済活動は自然環境へ多大な影響を与えるようになった.いまやその活動は,地球全体の気象・水循環システムへまで影響を及ぼすほどに拡大・膨張を続けている.洪水・渇水の激化,淡水の塩水化,上下流での水争い,森林減少や降水パターンの変化に伴う流出量の変化といった水に関する課題群は世界各国で報告されている.日本においても,水資源管理の急激な近代化とともに水資源は近代インフラシステムの一部として管理・利用されるようになり,上に挙げたような課題が各地で観察されている.持続可能な水管理を検討するためには,以上のような人間社会が水循環へ与えるもしくは与えてきた影響を,長期的且つ人間社会と水循環の相互的な関係の中で理解する必要がある.

    近年,欧米を中心として人間社会と水循環の相互関係を扱う研究が盛んに行われるようになってきており,特に2010年代に入りSivaparanらを中心に「社会水文学」(socio-hydrology)が提案されて以降,人間活動と水循環の相互関係を中心課題として扱う研究・学問分野が体系化されつつある.これらの一連の研究は日本の水循環や水資源管理を考える上でも極めて有益と考えられる.一方でアジアモンスーン域に位置し,過去1世紀で急激な近代化を果たした日本において,社会水文に関する事象は欧米諸国で観察されているそれとは異なると考えられ,既往研究で指摘された欧米各国での現象やその観察によって構築された理論やモデルが日本へどの程度適用・応用可能か検証が必要である.

    そこで本発表では,社会水文学に関する研究の世界的動向を俯瞰するとともに,日本での社会水文学研究の展開の可能性について考察する.社会水文学については,Pande and Si-vapalan (2016) 等の総論が既出であることから,詳細はこれらの論文に譲ることとし,本発表では具体的な社会水文学の研究事例を紹介しつつ,その学問体系を概説し,日本でのこれまでの社会的視点から実施された水文学研究を踏まえたうえで,日本における社会水文学研究の展開の可能性と課題について考察する.

  • 伊藤 悠一郎, 中村 晋一郎, 芳村 圭, 渡部 哲史, 平林 由希子, 鼎 信次郎
    p. 90-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では,平成30年7月豪雨で深刻な被害が発生した岡山県倉敷市真備町と愛媛県大洲市大洲を対象に,氾濫原内の脆弱性に着目し,土地利用や建物立地の歴史的変遷と浸水被害の特徴を明らかにした.独自に作成した1970年代以降の3時代の時系列建物ポイントデータを用いた分析により,真備では2.0m以上5.0m未満の浸水が深刻なエリアにおいて約7割が1979年以降に建てられた建物であり,市街化とともに浸水深の深いエリアへと建物が進出していったことが明らかとなった.また両地域とも堤防効果による氾濫原内の脆弱性の増大傾向が見られるものの,両者の間には異なる建物立地形態の変化プロセスがあることが示された.

【蒸発散・リモートセンシング】
  • 坂井 七海, 小森 大輔, Swannapat Pimsiri, 金 元植
    p. 92-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    植物の光合成による二酸化炭素固定は,グローバルな炭素循環において主要なフローの一つであり,植物の生理応答を追究することで蒸発散量やCO2収支を把握し,植物が大気に与える影響を評価することができる.そのため,気孔開閉とCO2固定の関係のモデル化や,植物が日射や気温といった外部刺激を異なる組織で処理していることが実験によって発見されるなどミクロスケールの研究から,乱流フラックス観測による蒸発散/CO2フラックスの観測,グローバルな植物呼吸に関する数値実験などのマクロスケールの研究など,広範囲で,モデルを使った数値実験や観測および実験が進められている.本研究ではこれらの研究を受けて,マクロスケールのフラックス観測値を用いてミクロスケールの数値実験を行うことで,植物生理応答の理解を深めることができると考えた.植物生理応答を観測値から解析するにあたり,潜熱・CO2フラックスを気孔プロセスである蒸散と光合成,非気孔プロセスである蒸発と土壌呼吸に分類し,植物由来のフラックスを抽出する必要がある.本研究では,Scanlon and Sahu (2008) の手法を用いてフラックスの分離を行った.しかし,本研究は水田のフラックス観測値を用いているため,湛水期と非湛水期の土壌呼吸フラックスを同様に定義することができない.そのため,研究の第一段階として,従来の手法の土壌呼吸フラックスについて,湛水時は土壌呼吸は発生しないものとして,Scanlon and Sahu (2008) の手法を改良し,植物由来のフラックス観測値を計算した.その結果,湛水期は土壌呼吸がないと仮定することで,蒸散と光合成の逆相関がグラフに現れた.また,非湛水期である栄養成長期と熟成期において,日中に光合成フラックスが低下していることがわかった.これは,植物の昼寝現象が起きていると考察した.そして日野(2005)が開発した,植物生理応答を水理学的に解くモデルを使用し(5章に詳述),日野モデルにおける植物内部パラメータを乱流フラックス観測データから逆推定をすることを試みた.

  • 藤森 慎太郎, Kim Hyungjun
    p. 94-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
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    アマゾンを含む世界中の多くの地域で干ばつの頻度が増大すると予測されており,水ストレス下で植物の光合成が抑制される可能性がある.光合成が抑制されると,地球規模の炭素循環や人間活動に大きな影響を与えうるため,水ストレスと光合成動態の関係がさかんに研究されている.生態系が受ける水ストレスを降水量を用いて表現する従来手法では,降水以外の水量,例えば地下水,土壌水分,表面水および生物圏に蓄えらえた水分などを考慮できないという限界があった.そこで本研究では,これらの水量を含む陸域貯水量TWS(Terrestrial Water Storage)を用いて,水ストレスと陸域生態系の光合成動態の関係性,またその地域特性を,直接観測データに基づいて解明することを目的とする.本研究においては,人工衛星GRACEが観測した地球の重力場を変換した陸域貯水量TWS,さらに光合成動態としてSIF(solar-induced chlorophyll fluorescence)を用い,短波放射データを加え,これらの直接観測に基づいたデータの相関をとった.解析結果として,光合成動態が水によって制限される地域と放射によって制限される地域に大別できることを示した.さらに,水・放射に対する感度の組み合わせは,年間平均光合成量によって分類できることがわかった. 本研究では,降水量を用いて水ストレスを表現する従来手法に代わり,陸域総貯水量TWSを用いて,陸域生態系の水ストレスをより直接的に表現した.

  • Emang Grace Puyang, 峠 嘉哉, 風間 聡
    p. 96-
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/07
    会議録・要旨集 フリー

    The 2017 Kamaishi forest fire occurred for 14 days from 8th till 22nd May 2017 and the total burned area was 413ha which is greater than the total burnt area for the whole Japan in 2016. The burned area was estimated based on burned and unburned area. However, in the burned area itself, there were differences of fire severity observed. The objective of this research was to estimate the fire severity in this burned area using Sentinel 2A Normalized Difference Vegetation Index (NDVI) and post fire observation of scorch crown height, hs and relative scorch crown height, hsr. The results shows NDVI and hsr has stronger relationship than NDVI and hs, suggesting NDVI is more sensitive towards hsr.

ポスター発表
【気候変動・地球環境】
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