水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会2019年度研究発表会
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【超学際研究による水文・水資源学の新展開の探索】
社会水文学の世界的動向と日本での展開の可能性
*中村 晋一郎
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p. 88-

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抄録

西洋文明の近代化とその世界への波及とともに,人々の生活や経済活動は自然環境へ多大な影響を与えるようになった.いまやその活動は,地球全体の気象・水循環システムへまで影響を及ぼすほどに拡大・膨張を続けている.洪水・渇水の激化,淡水の塩水化,上下流での水争い,森林減少や降水パターンの変化に伴う流出量の変化といった水に関する課題群は世界各国で報告されている.日本においても,水資源管理の急激な近代化とともに水資源は近代インフラシステムの一部として管理・利用されるようになり,上に挙げたような課題が各地で観察されている.持続可能な水管理を検討するためには,以上のような人間社会が水循環へ与えるもしくは与えてきた影響を,長期的且つ人間社会と水循環の相互的な関係の中で理解する必要がある.

近年,欧米を中心として人間社会と水循環の相互関係を扱う研究が盛んに行われるようになってきており,特に2010年代に入りSivaparanらを中心に「社会水文学」(socio-hydrology)が提案されて以降,人間活動と水循環の相互関係を中心課題として扱う研究・学問分野が体系化されつつある.これらの一連の研究は日本の水循環や水資源管理を考える上でも極めて有益と考えられる.一方でアジアモンスーン域に位置し,過去1世紀で急激な近代化を果たした日本において,社会水文に関する事象は欧米諸国で観察されているそれとは異なると考えられ,既往研究で指摘された欧米各国での現象やその観察によって構築された理論やモデルが日本へどの程度適用・応用可能か検証が必要である.

そこで本発表では,社会水文学に関する研究の世界的動向を俯瞰するとともに,日本での社会水文学研究の展開の可能性について考察する.社会水文学については,Pande and Si-vapalan (2016) 等の総論が既出であることから,詳細はこれらの論文に譲ることとし,本発表では具体的な社会水文学の研究事例を紹介しつつ,その学問体系を概説し,日本でのこれまでの社会的視点から実施された水文学研究を踏まえたうえで,日本における社会水文学研究の展開の可能性と課題について考察する.

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© 2019 水文・水資源学会
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