抄録
気管切開チューブ留置中に腕頭動脈気管瘻を合併し, 大量の気道出血をきたしたが, 適切な緊急処置により救命しえた症例を経験した。症例は15歳, 男児。新生児仮死により低酸素性虚血性脳症となり, その後徐々に呼吸状態が悪化してきたので15歳で気管切開, 喉頭気管離断術を施行した。2ヶ月後, 吸引時に気管切開チューブより大量の動脈性出血を認めた。心肺蘇生を行いつつ, 腕頭動脈気管瘻を疑い, 直ちに気管切開チューブを抜去し, 通常の気管挿管チューブを気管切開孔に挿入した。カフを膨らませ, その位置を調節することにより一時的に止血できた。輸血などにより循環を安定させたのち, 緊急腕頭動脈離断術を行った。その後, 経過は良好で術後6日目にICUを退室した。出血の原因は, 気管切開チューブの過度の運動, 過大なカフ圧, 低位のカフ位置などが考えられたが, 他に高度側彎による気管と動脈の解剖学的位置異常も原因の一つと考えられた。このような症例では, 計画的な腕頭動脈離断術を検討する必要がある。