抄録
右肺全摘術後早期に発症した広範にわたる上大静脈血栓症を経験した。症例は65歳男性。肺癌の診断で右肺全摘術を行った。術後1日目に左上半身のチアノーゼ・頚静脈の怒張・血圧低下・呼吸困難をきたし, ショックとなった。胸部造影CTを行い, 上大静脈から左腕頭静脈にかけての広範な血栓形成による上大静脈症候群と診断した。緊急に血栓除去術を行い全身状態の改善が得られたが, その後再び上半身のチアノーゼと呼吸困難を認めた。血栓再形成が疑われたため血栓溶解療法を行ったところ, 症状は著明に改善し画像上も血栓の消失が確認された。本症例での血栓形成の原因として, 奇静脈を合併切除し同部の血管縫合を行ったという術式の問題, 術中補液量の過少などが考えられた。特別なリスクファクターを認めず, 術後早期にこのような広範な血栓形成をきたし上大静脈症候群を発症することは比較的稀であると考えられたため, 報告した。