抄録
肺炎球菌感染に伴うacute respiratory distress syndrome (ARDS) の人工呼吸管理中に施行した用手的呼吸理学療法によって気腫状変化の急激な増悪を認め, 不幸な転帰をとった症例を経験した。症例は48歳, 男性。胸部X線およびCTにて両肺野に散在する浸潤影を認め, 緊急気管挿管後のP/F比は54であった。動脈血酸素化改善のため, 人工呼吸管理に加え腹臥位を含めた体位呼吸療法を施行したが動脈血酸素化維持が困難であったため, 第2病日より用手的呼吸介助法による呼吸理学療法を施行した。これにより一過性にP/F比改善を得たが, 第6病日に気腫状変化の急激な増悪を認め, ventilator induced lung injury (VILI) が示唆された。用手的呼吸介助法中止後も気腫状変化が増悪し, 呼吸不全に伴う全身状態悪化のため第9病日に永眠された。ARDS急性期人工呼吸管理中の用手的呼吸理学療法は, 低容量換気による肺保護戦略の概念に反している可能性があり, その適応や施行手技は慎重に判断すべきと考えられ, 今後の検討が必要である。