2012 年 19 巻 2 号 p. 231-235
動物の常在菌Pasteurellaが,ヒトへの全身感染を引き起こすことは稀である。今回,軽微な猫掻傷後に敗血症性ショックに至った症例を経験した。症例は68歳男性。胸部打撲後のショックとして搬送されたが,来院時の炎症反応が強く,左肘・左前腕・左側胸部に軽度腫脹・発赤を認めた。外傷は胸部打撲痕と11日前に受傷した左前腕の猫掻傷のみであった。全ての発赤部を切開したところ,壊疽性筋膜炎は否定的であったが,同部浸出液および血液培養よりPasteurella multocidaが同定され,同菌による敗血症性ショックと診断した。来院日より広域抗菌薬投与を含む集中治療を行ったが,第2病日にdisseminated intravascular coagulation(DIC)を合併した。DICは一時改善したものの,耐性菌による混合感染を併発し,第24病日に死亡した。