抄録
臓器血流障害を合併したStanford B型急性大動脈解離の予後は不良であるが,ステントグラフト治療が導入され,低侵襲の治療が可能となってきた。我々は,Stanford B型急性大動脈解離による腎臓の血流障害を合併した症例に対する胸部下行大動脈ステントグラフト留置術の周術期管理を経験した。患者は79歳女性,偽腔開存型Stanford B型急性大動脈解離と診断された。降圧療法などの保存治療を施行したが,腎機能が悪化し,血液透析が必要となった。偽腔拡大化と真腔狭小化による腎血流障害と診断され,準緊急に胸部下行大動脈ステントグラフト留置術を全身麻酔下で施行した。術中は,経食道心エコーを用いてステントグラフトの留置を補助し,真腔・偽腔血流を評価した。術後に速やかに腎機能が回復し,血液透析を離脱した。腎血流障害を合併したStanford B型急性大動脈解離に対するステントグラフト治療は有効であったが,腎血流障害をより早期に診断する必要性があったと考えられた。