抄録
45歳,男性。肥大型閉塞性心筋症に対し心室中隔心筋切除術が行われた。術前に重複大動脈弓を指摘されていたが血管輪による気道の圧迫はなく,呼吸器症状を認めなかった。術後,抜管直後より呼気時の喘鳴,呼吸困難を認め再挿管となった。気管支鏡検査で,呼気相に気管膜様部が気管内腔に向かって膨隆する気管狭窄像を認め,気管軟化症と診断した。気管切開を行い,術後11日目に人工呼吸から離脱,12日目にICUを退室した。気管軟化症の原因は気道支持組織の脆弱化とされているが,本症例では手術侵襲によってその脆弱性が顕在化したと考えられた。原因として大動脈への手術操作により血管輪周囲の浮腫が生じ,血管輪に囲まれた気管を圧迫したこと,手術操作により気管膜様部の支持力が低下したことが考えられた。成人の重複大動脈弓を有する手術症例において,術前無症状であっても手術侵襲により気管軟化症を発症する可能性がある。