2022 年 29 巻 1 号 p. 23-26
後天性第Ⅴ因子欠乏症は人口100万人に1人の発症率で,文献的報告は200例程度の稀な疾患である。第Ⅴ因子インヒビターの出現で発症し,原因はウシトロンビン製剤の他に抗菌薬,手術,癌,感染,自己免疫,輸血,特発性など様々で,特定は困難である。症状は無症状から致死的出血まで様々であるが,出血時の致死率は約20%で高い。症例は弓部大動脈置換術の既往がある80歳代の男性。無症候性亜急性感染性心内膜炎の治療中に喀血を起こし,人工血管吻合部の仮性瘤が左気管支へ穿破していたため,ステントグラフト内挿術を行い救命できた。経過良好であったが,原因不明のPTとAPTTの延長を認め,クロスミキシングテストで第Ⅴ因子欠乏症の発症が疑われた。周術期出血ハイリスク症例であったが,幸い出血を起こさず自然軽快した。経過にそぐわないPTとAPTT延長のみの凝固異常を認めた場合は本疾患を鑑別に挙げることが重要である。