日本集中治療医学会雑誌
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29 巻, 1 号
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編集委員会より
原著
  • 馬場 彩夏, 高橋 希, 竹田 雅彦, 織田 成人, 中田 孝明
    2022 年29 巻1 号 p. 3-7
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/01/01
    ジャーナル フリー
    【目的】サイトメガロウイルス(cytomegalovirus, CMV)感染はICU患者の予後悪化に関連する。定期的なCMV抗原血症検査の有効性を検討した。【方法】対象はICU入室中に1回以上CMV抗原血症検査を行った341例。前半2年間(Before群)は医師が必要と判断した際に,後半2年間(After群)は週1回同検査を行った。主要アウトカムは陽性患者数,二次アウトカムは検査初回陽性時のCMV抗原陽性細胞数,抗ウイルス薬投与期間など。【結果】After群ではBefore群に比し,陽性患者数は3.75倍と有意に増加し(P<0.0001),抗ウイルス薬投与期間は有意に短縮した(P=0.0087)。【結論】ICU入室患者に対して定期的にCMV抗原血症検査を施行することにより,CMV感染患者が有意に多く同定され,抗ウイルス薬の投与期間は有意に短かった。
  • 三坂 勇介, 長谷川 智巳
    2022 年29 巻1 号 p. 8-14
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/01/01
    ジャーナル フリー

    【目的】小児開心術に伴う血漿遊離ヘモグロビン(plasma free-hemoglobin, PF-Hb)は術後急性腎障害(cardiac surgery associated acute kidney injury, CS-AKI)の主要なリスク因子の一つである。本研究ではCS-AKIに対するハプトグロビン(haptoglobin, Hp)製剤の投与法に関して後方視的に検討した。【方法】2016年5月から2020年2月までに当院で施行した小児開心術を対象として,傾向スコアマッチング法を用いて背景因子の調整を行い,肉眼的溶血尿を指標にしたHp製剤投与群(C群, n=81)と,体外循環中のPF-Hb値と患者の循環血液量および人工心肺回路充填量から投与量を算出したHp製剤投与群(P群, n=81)を比較検討した。【結果】CS-AKI発症率は,C群43%,P群22%とP群で有意に少なく,Kidney Disease: Improving Global Outcomes(KDIGO)分類ステージ2以上はC群20%に対してP群6%であった 。術後血清クレアチニン増加量はP群で有意に低値であった。【結語】小児開心術において,患者ごとに体外循環中のPF-Hb値と循環血液量および人工心肺回路充填量から投与量を算出したHp製剤投与法は,CS-AKIの発症を軽減できる可能性が示唆された。

症例報告
  • 武智 健一, 中田 美緒, 彭 懌, 阿部 智子, 伊東 真理, 三喜 和明, 堀川 順子, 清水 一郎
    2022 年29 巻1 号 p. 15-18
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/01/01
    ジャーナル フリー

    72歳,男性,S状結腸癌で入院し経鼻イレウス管が留置された。留置後13日目に呼吸困難を訴え,喉頭内視鏡で両側声帯麻痺を認めた。経鼻胃管症候群と診断され気管切開後,S状結腸切除人工肛門造設が行われた。声帯麻痺は発症後12日目から改善し始め,2ヶ月後に気管切開は閉鎖され,6ヶ月後には回復した。9ヶ月後に人工肛門閉鎖が行われた。気道確保には声門上器具を使用し,声帯麻痺の再発は起こらなかった。経鼻胃管留置中の呼吸困難には,経鼻胃管症候群を疑い,喉頭内視鏡で診断し気管切開の判断をすることが重要である。経鼻胃管症候群の既往患者に対し気道確保が必要な場合,声帯麻痺再発防止への配慮が必要となる。

  • 門久 政司, 菅原 寧彦, 林田 信太郎, 大矢 雄希, 蒲原 英伸, 日比 泰造, 池田 理, 山本 達郎
    2022 年29 巻1 号 p. 19-22
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/01/01
    ジャーナル フリー

    生体肝移植後の血栓や狭窄の門脈合併症はグラフト不全に陥る重篤な合併症である。 術後急性期に発症した門脈合併症に対して上腸間膜静脈経由で門脈ステントを留置した2例を報告する。症例1は62歳,女性。非アルコール性脂肪肝炎に伴う非代償性肝硬変に対して左葉グラフトを用いた生体肝移植術および脾臓摘出術を施行した。術後3日目に門脈血流低下を認め,門脈狭窄部にバルーン拡張術およびステント留置術を行った。症例2は55歳,女性。 多発肝嚢胞に対して後区域グラフトを用いた生体肝移植術を施行した。術中から門脈血流不良を認め,術後1日目と2日目に血栓除去および門脈狭窄部へのステント留置術を行った。2例とも門脈ステント留置後,門脈血流は改善し,概ね順調な経過を辿った。肝移植後急性期においても,門脈合併症に対する門脈ステント留置術は有用な治療戦略である。

  • 吉田 翼, 後藤 隆司, 米澤 みほこ, 藤中 和三, 鷹取 誠
    2022 年29 巻1 号 p. 23-26
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/01/01
    ジャーナル フリー

    後天性第Ⅴ因子欠乏症は人口100万人に1人の発症率で,文献的報告は200例程度の稀な疾患である。第Ⅴ因子インヒビターの出現で発症し,原因はウシトロンビン製剤の他に抗菌薬,手術,癌,感染,自己免疫,輸血,特発性など様々で,特定は困難である。症状は無症状から致死的出血まで様々であるが,出血時の致死率は約20%で高い。症例は弓部大動脈置換術の既往がある80歳代の男性。無症候性亜急性感染性心内膜炎の治療中に喀血を起こし,人工血管吻合部の仮性瘤が左気管支へ穿破していたため,ステントグラフト内挿術を行い救命できた。経過良好であったが,原因不明のPTとAPTTの延長を認め,クロスミキシングテストで第Ⅴ因子欠乏症の発症が疑われた。周術期出血ハイリスク症例であったが,幸い出血を起こさず自然軽快した。経過にそぐわないPTとAPTT延長のみの凝固異常を認めた場合は本疾患を鑑別に挙げることが重要である。

  • 藤浪 好寿, 松本 あい, 中田 一弥, 小谷 穣治, 切田 学
    2022 年29 巻1 号 p. 27-31
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/01/01
    ジャーナル フリー

    神経難病は,その認知度が向上し,未診断の高齢者が診断される機会が増え,また人工呼吸管理や療養経験の蓄積により長期生存が可能となったため,有病率の上昇と患者の高齢化が継続している。そのため,救急・集中治療領域においても神経難病に遭遇する機会が増加している。今回,呼吸器離脱困難を契機に神経筋疾患を疑い,神経内科の併診により確定診断に至った神経難病の2例を経験した。2例ともに気管切開後に確定診断となったが,早期に診断に至れば,不測の急変や不適切な呼吸器離脱を回避でき,また早期治療介入により転帰を改善させる可能性がある。そして神経難病の確定診断を下すことは,患者本人・家族の精神的・経済的負担の軽減にもつながると考える。高齢者の未診断の神経難病は一定数存在するため,気道や肺に器質的異常がなく,呼吸器離脱困難な場合には,神経筋疾患を念頭に置く必要があると考える。

  • 髙橋 徹朗, 野手 英明, 仲野 実輝, 川出 健嗣, 宮本 陽介, 金子 完, 坪内 宏樹
    2022 年29 巻1 号 p. 32-35
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/01/01
    ジャーナル フリー

    肺動脈カテーテル(pulmonary artery catheterization, PAC)は重症患者のモニタリングに有用とされている。しかし,左上大静脈遺残(persistent left superior vena cava, PLSVC)へのカテーテル留置は,重篤な合併症との関連が指摘されている。今回,僧帽弁形成術においてPACが冠静脈洞を経由してPLSVCに迷入し,ICUで行った経食道心エコー図検査(transesophageal echocardiography, TEE)で診断された1例を経験した。PLSVCと心拡大が併存する場合や経皮的心肺補助装置管理中の場合,胸部単純X線写真や圧波形のみではPAC が適切な位置にあるか診断するのは困難である。PACの適切な位置への留置にはTEEの併用が有用である可能性がある。

  • 泉谷 義人, 森本 紳一, 大藏 裕子, 酒井 麻巳子, 丸山 隼一, 星野 耕大, 水沼 真理子, 石倉 宏恭
    2022 年29 巻1 号 p. 36-40
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/01/01
    ジャーナル フリー

    体重219 kgの成人男性が,左下肢蜂窩織炎および新型コロナウイルス肺炎の診断で前医入院中に呼吸状態が悪化し,人工呼吸器管理を開始するもP/F比が62まで低下したため,静脈–静脈体外式膜型人工肺(veno venous extracorporeal membrane oxygenation, VV-ECMO)導入目的で当院ECMOセンターへ転院となった。当センターに搬入後,直ちに右内頸静脈より脱血管,右大腿静脈より送血管を挿入し,VV-ECMOを導入した。人工呼吸器の設定は食道内圧を参考にして至適PEEPを25 cmH2Oに設定した。患者は病的肥満であったため,早期離床を目指し,入院6日目に気管切開を実施し,積極的に端座位,立位訓練に取り組んだ。その後の経過は良好で,入院13日目にVV-ECMOから離脱し,入院30日目に人工呼吸器管理下で紹介元病院へ転院となった。体重200 kg以上の病的肥満患者のVV-ECMO管理は多くの医療資源や特殊な管理を必要とするが,問題点を解決することで安全に管理することが可能であった。

短報
レター
委員会報告
  • 日本集中治療医学会神経集中治療委員会
    2022 年29 巻1 号 p. 55-60
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/01/01
    ジャーナル フリー

    日本集中治療医学会神経集中治療委員会は,今後の神経集中治療の発展のために,日本集中治療医学会会員を対象とし神経集中治療の認知度と実態をアンケート調査した。309名から回答を得た(回答率:2.9%)。神経集中治療への興味について,約8割が「非常にある」,あるいは「ある」と回答した。最も興味のある分野は「心肺停止蘇生後」であり,最も苦手な分野は「神経筋疾患」であった。神経集中治療委員会に最も望むこととして約半数が「ガイドライン作成」と回答した。「よく理解している」と「理解している」との合計割合が全体の40%を下回った項目として,神経系の解剖,シバリングスケール,Clinical Randomisation of an Antifibrinolytic in Significant Head Injury (CRASH-3),脳波の判読が挙げられた。今後は神経集中治療ハンズオンセミナーに加えて,ICUにおける神経集中治療に関するガイドライン作成を委員会として検討していく必要がある。

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