情報通信学会誌
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論文
「個人データ保護」の法益と方法の再検討:
実体論から関係論へ
林 紘一郎
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2013 年 31 巻 2 号 p. 77-92

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抄録

2005年の個人情報保護関連5法の全面施行以来、個人データとプライバシーの保護が、大きな社会問題となり、最近の共通番号方式の導入やビッグ・データへの熱狂に伴って、再度議論が盛り上がっている。しかし学問的に見れば、個人データ保護とプライバシー保護が混同されたままである等、合意形成が進んだとは言えない。この分野で活躍する多くの人が実務者であり、また法学が実践の学であることから、医学に喩えれば臨床 (対症療法) に重きが置かれ、生理学や疫学が軽視されがちである。そこで本論文では、もう一度原点に立ち返って、個人データ保護とは何を保護法益としているのか、それにふさわしい保護方式は何か、といった原理論を再検討してみたい。その出発点は、法益を「守るべき客体」と実体論的に考えるよりも、イギリス流に「情報の授受当事者間の信頼関係の維持」と関係論的に捉え直すことであろう。その際併せて、「データ保護とプライバシー保護」「対公権力と私人間関係」「感性的理解と理性的理解」の3つを区分 (アンバンドル) するなど、理論研究を進める上で前提となる考え方と、「コミットメント責任」という法人責任論を提案したい。

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