2020 年 38 巻 3 号 p. 29-38
近年、違法ダウンロードの取締りは社会的に大きな関心を集めている。それをめぐる議論では、違法ダウンロードは「人のもの」を盗むという点で万引きと同じ程度に取り締まるべきであるというレトリックが提示されている。本研究はこのレトリックに着目し、著作権法について特別の知識を持たない一般の大学生が、違法ダウンロードに対してどの程度の刑罰を求めるかを万引きとの比較から検討することを目的とした。大学生282 名から得られたデータを対象にベイズ推定によって違法ダウンロードに対する量刑判断と万引きに対する量刑判断がどの程度異なるかを比較したところ、万引きに対しては約半年程度長い懲役刑が求められることが明らかにされた。本研究の結果は、違法ダウンロードと万引きを同視する上述のレトリックは一般市民の意識の上では必ずしも受け入れられていないことを示唆している。このような差が生じた理由について、保護客体の相違の観点から考察を行った。