抄録
沖縄県多良間島の淡水レンズを対象として, 地下水中に溶存する六フッ化硫黄や硝酸イオンの安定同位体比などの測定によって地下水流動と物質輸送の状況を検討した.硝酸イオンの安定同位体比からは, 地下水中の硝酸性窒素が化学肥料や家畜排泄物, 生活排水といった複数の負荷源からの寄与を受けているとともに, 一部では脱窒の影響を受けている可能性が示唆された.淡水と塩水の遷移帯付近では溶存酸素濃度の上昇がみられた.また, 集落域では浅部より深部でより小さい窒素安定同位体比がみられた.これらの現象は, 淡水と塩水の遷移帯付近に沿った側方流動によってもたらされた可能性がある.島の南北断面で採水した試料の六フッ化硫黄濃度から推定される地下水の平均的な滞留時間はおよそ14年以内で, 南北断面の浅部では周縁部ほどより最近の年代に涵養された地下水であることが示された.