農業農村工学会論文集
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84 巻, 2 号
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研究論文
  • 吉田 修一郎, 西田 和弘, 安達 純
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_75-I_83
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/12
    ジャーナル フリー
    水田の放射性セシウム濃度の鉛直分布を耕区単位で地理情報システムに入力し,γ線の遮蔽計算法の一つである点減衰核法を用いて除染前後の空間線量率を推定する一連の手法を提示した.本手法により,除染前の空間線量率について,農区レベルの平均値を実用上十分な精度で推定できることを確認した.しかし,耕区単位での空間線量率の推定値は,実測値には見られない耕区毎の大きな変動を生じた.これは,近傍数mを平均する土壌の放射性セシウム鉛直分布を5cm径の土壌サンプルから推定したことによる耕区平均値の推定誤差によると考えられた.また,剥ぎ取り除染後の空間線量率は,全体的に実測値より小さく評価した.その原因としては,剥ぎ取り量の見積もりが過大傾向にあったことや,剥ぎ取った汚染土壌のすくい残しが地表面に残ること等が考えられた.
  • 安瀬地 一作, 木村 匡臣, 中矢 哲郎, 桐 博英
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_85-I_91
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/12
    ジャーナル フリー
    流速に比べて圧力伝播速度が著しく大きい管水路流れの数値解析では,圧力に関してのみ陰的に扱うと,時間ステップの制限が緩くなり,計算効率も高くなる.本研究では,基礎方程式を移流段階と非移流段階に分け,移流段階では3次精度の離散化スキームであるCIP法を,非移流段階ではSMAC法に基づく離散化手法を導入し非定常流解析手法の構築を行った.その結果,定常状態解析において高精度で安定的な解析結果が得られた.また,水撃圧解析においては,既存の手法であるLeap-Frog法にみられた圧力の高周波成分での振幅の増大が本手法には見られず,各地点の最大圧力もLeap-Frog法に比べてやや小さい結果となったが,概ね妥当な結果を得た.この高周波成分の増大は離散化に伴う数値誤差であると考えられるが,今後,実測結果と比較するなどして,詳細な検討が必要である.
  • 小嶋 創, 向後 雄二, 島田 清, 正田 大輔, 鈴木 尚登
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_93-I_101
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/12
    ジャーナル フリー
    高解像度数値標高モデル(以下,DEM)を用いた氾濫解析をため池決壊時の氾濫流況予測手法として適用することの妥当性を検証した.解析対象は平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震による決壊ため池とした.解析には河川氾濫解析ソルバーNays2DFlood v4.1を用いた.入手できた現地のDEMのうち最も解像度の高い2 mDEMであっても,氾濫流況に影響を与える地物の形状が適切に表現されず,解析結果が実際の氾濫流況と異なった.そこで,解析の入力データに以下3点の修正を施し現地の状況を再現した;(1)地形モデルの修正による下池の堤体および排水路の形状の表現,(2)下池の初期湛水状態の表現,(3)流入ハイドログラフのピーク流量の低減.その結果,2 mDEMを用いた場合だけでなく,解像度の劣る5 mDEMを用いた場合でも実際の浸水域をほぼ再現する解析結果が得られた.
  • 瀬川 学, 丸山 利輔, 高瀬 恵次
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_103-I_112
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/29
    ジャーナル フリー
    水田が大部分を占める石川県手取川扇状地を対象とし,都市化に伴う洪水量の変化を解明する前提で,単位区画における大雨時の流出量を単位流出量と定義し,その流出モデルを作成するとともに,併せて流出解析を行った.すなわち,水田については,落水口の形状,高さ,中干し前後の湛水状況および浸透量等を,畑地および宅地においては浸入能を測定して,土地利用ごとに洪水流出モデルを作成し,計画基準雨量規模の降雨54例から単位流出量の特性について検討した.総流出率の最大は宅地で,最小は灌漑期水田で発生し,灌漑期水田では総降雨量の増大とともに顕著に増加するのに対し,宅地ではほぼ一定となることを明らかにした.また,ピーク流出量の算出に使用する降雨強度について,60分間隔と10分間隔の資料について検討し,宅地を除いて,前者で十分な精度が得られることを明らかにした.
  • 泉 明良, 日野林 譲二, 毛利 栄征, 有吉 充, 河端 俊典
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_113-I_120
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/29
    ジャーナル フリー
    既往研究として,環剛性が等しく管厚の異なるたわみ性管を用いた模型埋設実験結果から,同一環剛性を有するたわみ性管において,管厚がたわみ率や曲げひずみの分布形状に与える影響は極めて小さいが,管厚が薄くなるほど軸応力が大きく発生し,微小区間における軸応力の変化量が大きいことが明らかとなっている.本研究では,地震時において地盤にせん断応力が発生する場合に,管厚がたわみ性管の動的変形挙動に与える影響を明らかにするため土槽境界条件および基礎条件を変化させて振動台実験を実施した.実験結果から,管厚に比例して曲げひずみが大きくなるが,曲げひずみの分布形状に与える影響は極めて小さいことが明らかとなった.また,地盤のせん断ひずみと最大軸応力の関係から,管厚が薄いほど,せん断ひずみに対する軸応力の増加割合が大きいことが明らかとなった.
  • 大久保 天, 本村 由紀央, 中村 和正
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_121-I_130
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/16
    ジャーナル フリー
    万一の大規模地震災害に備えて,基幹的な灌漑用水路における災害対応力を強化することが喫緊の課題である.本研究では,頭首工と開水路からなる典型的な灌漑用水路の施設管理を対象に,FTA手法を適用し,大規模地震発生後の初動から取水ゲート閉鎖による安全確保に至るまでの災害対応が遂行不能になる原因を特定するとともに,その原因発生を防止する対策の有効性を定量的に評価した.その結果,震度6強以下の震災であれば,施設管理において実施可能な対策を講じることにより一定の対策効果が期待でき,おおむね計画どおりの災害対応が遂行できることが分かった.しかし,震度7の震災となれば,その対策効果はほとんど期待できず,取水ゲートを閉鎖する災害対応の遂行は困難になることが示された.また,このことから最大級の大規模地震に備えた事業継続計画の必要性が示唆された.
  • 立石 卓彦, 大村 仁, 高砂 直幸
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_131-I_144
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/16
    ジャーナル フリー
    沖縄県南西諸島などの島嶼地域では,地下帯水層の上層に形成される淡水レンズを対象とした水源開発計画が検討されている.今後,温暖化の進行に伴う海面上昇や淡水レンズの縮小が想定されることから,より合理的な取水技術の確立が必要と考えられる.淡水レンズにおける取水では,必然的にコーン状の塩分濃度が高い塩水錐が発生する.この塩水錐の引き込みを抑えることが淡水取水の必要条件となる.本論文では,数値実験により集水ボーリング管の透水係数を決定し,密度変化を考慮した三次元移流分散解析を適用して集水井構造の評価を行った.その結果,集水ボーリング管1本当たりの取水量と集水ボーリング管の配置間隔を変えたパラメトリックスタディにより,塩水錐の上昇や干渉を抑える集水井構造を合理的に評価できることを明らかにした.
  • 名和 規夫, 吉田 武郎, 堀川 直紀, 工藤 亮治, 皆川 裕樹
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_145-I_157
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/16
    ジャーナル フリー
    東京電力福島第一原子力発電所事故によって広域に拡散した放射性物質は,降雨時に浮遊物質とともに流下するため,浮遊物質および放射性物質の移動を明らかにすることが重要となっている.放射性物質が粗粒より細粒の土粒子により多く吸着することから,粒径ごとに浮遊物質の生産および移動を推定するモデルを開発した.このモデルを,流域を対象とした分布型水文モデルに組み込み,河川中の浮遊物質とともに移動する放射性物質の時空間的変化を評価する.本モデルにより,福島県内のダム流域を対象に放射性物質の移動を連続的に推定した.結果は大小の出水時における放射性物質の流下を再現しており,このモデルは降雨時の予測だけでなく,水資源への放射性物質の長期的な影響評価に活用することができる.
  • ― 地下水中の六フッ化硫黄の濃度, 硝酸イオンの安定同位体比の測定による検討 ―
    吉本 周平, 浅井 和由, 土原 健雄, 白旗 克志, 石田 聡
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_159-I_174
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/24
    ジャーナル フリー
    沖縄県多良間島の淡水レンズを対象として, 地下水中に溶存する六フッ化硫黄や硝酸イオンの安定同位体比などの測定によって地下水流動と物質輸送の状況を検討した.硝酸イオンの安定同位体比からは, 地下水中の硝酸性窒素が化学肥料や家畜排泄物, 生活排水といった複数の負荷源からの寄与を受けているとともに, 一部では脱窒の影響を受けている可能性が示唆された.淡水と塩水の遷移帯付近では溶存酸素濃度の上昇がみられた.また, 集落域では浅部より深部でより小さい窒素安定同位体比がみられた.これらの現象は, 淡水と塩水の遷移帯付近に沿った側方流動によってもたらされた可能性がある.島の南北断面で採水した試料の六フッ化硫黄濃度から推定される地下水の平均的な滞留時間はおよそ14年以内で, 南北断面の浅部では周縁部ほどより最近の年代に涵養された地下水であることが示された.
  • ― HYDRUSを用いた数値シミュレーションによる新しい手法の提案 ―
    岩田 幸良, 成岡 道男, 宮本 輝仁, 中村 俊治, 松宮 正和, 亀山 幸司
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_175-I_183
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/17
    ジャーナル フリー
    畑地灌漑計画において, 土壌水分消費量や圃場における灌漑水量を決定する上で重要なパラメータである有効土層について, 土壌中の水フラックスを用いて定義した.従来の定義に比べ, 水フラックスを用いた定義の方が実態をより反映していると考えられた.この定義に基づいて有効土層深を決定する方法を具体的に示すため, 数値シミュレーションソフトウエアのHYDRUS-1Dを用いて新潟県津南町に位置するユリ栽培試験圃場における土壌水分量のデータから, 同圃場の有効土層深を決定した.その結果, 有効土層深は試験圃場における主要根群域の20 cm よりも深い35 cm と推定された.この深さは, 連続干天期間に土壌水分量の減少が著しい深さとほぼ一致した.試験圃場では24時間容水量の時点で下方浸透量が少なくなるため, 両者が一致したと考えられた.
  • 土原 健雄, 吉本 周平, 白旗 克志, 石田 聡
    2016 年 84 巻 2 号 p. I_185-I_194
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/17
    ジャーナル フリー
    近年, 水文・気象分野における新たな水のトレーサーとして, 温度にほぼ依存しない指標である17O-excessの研究が海外で進められている.しかし, わが国の水田農業地域での観測例はまだない.本研究では, 茨城県において降水, 河川水, 地下水および灌漑用水, 田面水を対象に, 17O-excessの観測値, 時期による値の違いとその要因, 他の同位体との関係を明らかにした.降水の17O-excessは夏季に低く, 冬季に相対的に高い傾向を示した.これは海洋で降水が生成される環境の違い, 降水過程での雨滴の再蒸発が影響した結果であると考えられた.また, 降水が陸面に到達した後に蒸発の影響による17O-excessの減少が見出され, その傾向は田面水で顕著であった.今後のさらなる観測データの蓄積が, 17O-excessの水循環指標としての有効性の確立に必要である.
研究報文
  • 清水 秀成, 泉 完, 東 信行, 丸居 篤, 矢田谷 健一
    2016 年 84 巻 2 号 p. II_11-II_18
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/07
    ジャーナル フリー
    農業水路の生息場環境の改善や生態系に配慮した水路設計において,メダカの生息を考慮するため,メダカの遊泳能力を明らかにすることを目的とする.屋内に設置した循環式の小型の長方形断面水路を用いてミナミメダカの臨界遊泳速度を計測した.水路には断面平均流速2~36cm・s-1の範囲で通水し,標準体長1.3~2.8cm(平均2.1cm,104個体)のメダカを供試,遊泳させた.その結果,(1)ミナミメダカの60分間臨界遊泳速度(60分間CSS:V60CSS)は,5~19cm・s-1であった.60分間CSSと体長との間には正の関係が有意(p<0.01)に認められ,V60CSS=6.6BL-2.3(BL:体長)の回帰式を得ることができた.(2) 60分間CSS を体長の倍数で表すと,3.0~9.0倍(平均5.5倍,標準偏差1.2)となった.
  • 永井 茂, 田中 勉, 久住 慎也
    2016 年 84 巻 2 号 p. II_19-II_30
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/24
    ジャーナル フリー
    近年, 都市部において増加している狭い範囲での深い掘削工事では, 地中の浸透流が掘削面に対して三次元的に集中し, 浸透破壊を起こした事例が報告されている. 本報では, このような浸透破壊事例を取り上げ, FEM浸透流解析とPrismatic failure conceptを用いた安定解析を行い, 次の結論を得た. (1) 基準類算定式は, 掘削形状を考慮したものを用いる必要がある. (2) FEM浸透流解析及びPrismatic failure conceptによる安定解析を行い, その破壊要因を明らかにすることができた. (3) 流れの条件が浸透破壊に対する安定性に及ぼす影響は大きく, 二次元, 二次元集中流, 三次元の順により安全率が低下し, ケースによっては1/2以下となる. また, 三次元条件とそれを近似した軸対称条件における浸透流況及び浸透破壊安全率は, それぞれほぼ同一となり, 三次元地盤を軸対称近似することの妥当性が示された.
  • 齋藤 朱未, 服部 俊宏, 藤崎 浩幸, 広田 純一
    2016 年 84 巻 2 号 p. II_31-II_36
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/24
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 農家の起業活動の一環として注目されている農家レストランについて, 農家レストランの存在が地域住民の意識の変化にどのような影響を与えているのかを明らかにすることにある.そのために, まず立地条件の異なる2つの農家レストランを選定した.1つは農村集落型であり, もう1つは住宅地型である.これら2つの農家レストランを対象に, 地域住民がどの程度農家レストランの存在を認識し, 実際に利用しているのか, さらに地域住民の意識変化についてアンケート調査で把握した.その結果, 農村集落型の農家レストランでは地域住民の認知度, 利用は高く, 安全安心な生産物や食の提供に対して意識変化がみられた.住宅地型の農家レストランでは, 地域内からの利用は多いが, 認知度は2極化しており, 安全安心, 地域住民同士の交流といった項目に意識変化がみられた.
  • 阿南 光政, 弓削 こずえ, 濵田 耕佑, 水落 二郎
    2016 年 84 巻 2 号 p. II_37-II_44
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/17
    ジャーナル フリー
    本研究は, 複数の農業用取水堰が存在している河川を対象に, 洪水時の堰群のゲート倒伏に伴う水位の時空間的変動を明らかにするとともに, 防災および減災面の観点から最適な堰の操作条件を探索して提言することを目的とするものである.複数の堰が連続する遠賀川上流部を対象にして一次元不定流モデルを構築した.このモデルを用い, 対象区間に存在する可動堰の倒伏速度を段階的に変化させて, 水位変動に与える影響を検証した.堰操作に伴う水位変動が受ける影響を定量的に評価するため, 不定流解析結果に評価関数を導入し, 河道の水位変動に影響が大きい堰を明らかにした.評価関数を用いることによって, 個々の堰群のゲート操作が河川の水位変動に及ぼす影響の予測を行うことが可能となり, 水位変動を抑えるための堰の倒伏条件の最適解探索が容易となった.
研究ノート
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