本研究は,後方連関効果による生産誘発額,付加価値誘発額,温室効果ガス排出量で表す経済波及効果を,多面的機能支払交付金(多面交付金)と農業農村整備事業の間で,および多面交付金の地区間で比較検討した.多面交付金活動に取り組む3地区から収集した支出データと,水路工(開水路)を抽出した農業土木事業投入調査を用いて,地域間産業連関分析と地域シェア法により,市町村・都道府県レベルでの経済波及効果を計測した.結果として,多面交付金と農業農村整備事業の間で,中間投入財の構成や自地域からの調達率に大きな違いがあること,多面交付金のほうが生産誘発効果の自地域への波及割合が大きく,温室効果ガス排出量が小さい傾向にあることが明らかとなった.さらに,多面交付金の地区間でも,活動内容の多様性を反映して,経済波及効果や自地域への波及割合の違いが観察された.