抄録
本論文では, 愛媛県内に設置した棚田流域および山林地流域で15年間にわたって観測された水文データに基づいて, 降雨に対する応答の早い流出成分からなる早い直接流出, および比較的応答の遅い流出成分も含む遅い直接流出を分離し, 両流域の特性を比較・検討した. その結果, 小さな降雨に対してはいずれの直接流出率も棚田流域の方が大きく, 総降雨量が大きくなるとその差が小さくなる傾向にあること, また, 棚田流域では灌漑期の直接流出率が非灌漑期よりも大きいことが明らかとなった. 次に, 直接流出を水収支的に考察して両流域の浸透特性を比較. 検討し, 棚田流域の浸透強度は山林地より小さいこと, 棚田流域での灌漑期と非灌漑期の浸透強度はほぼ同じであることを明らかにした. また, 初期土湿不足量が直接流出に与える影響についても検討した.