保険学雑誌
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「精神障害中の自殺」法理に関する一考察
—東京地裁令和2年7月20日判決を契機として—
江草 正悦
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2022 年 2022 巻 656 号 p. 656_137-656_166

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抄録

「精神障害中の自殺」について,東京地裁令和2年7月20日判決は,裁判例が用いる基準の総合考慮のあり方に課題を残した。「精神障害中の自殺」にあたるかの判断は,各考慮要素に該当する事実を単に「総合考慮」して,精神障害の影響度の大小を判断する抽象論ではなく,精神障害の影響により,死亡するという結果に対する認識ができていなかったか,死以外の選択肢が考えられないような精神状態であったかについて,自殺企図行為の態様という客観的な事実を基軸に,同時点の主観として自殺の動機を考察し,自殺行為時の精神状態を推測する要素として,生前の行為者の言動及び精神状態や精神障害により正常状態から自己の意思に基づかずに命を絶たせる程の大きな変化があったかを考察するというように,各考慮要素該当事実の意味合い,役割を踏まえて,各要素を整合的に理解できる判断を行うことによって,法的安定性を高めることが期待される。

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