抄録
漢字には「さんずい(氵)」など水を示す部分を含む字が数多くある。それらの漢字は、人が水とかかわり、翻弄され、利用してきた歴史や事実を留めている。だが、部首としての「さんずい(氵)」には、「水に関係する」との説明はあるが、どのように水の価値をとらえたかを想起させる記述は少ない。人が水と様々なかかわり方をしてきた結果、水を表す部分は、比喩として多様な意味を表すようになっている。
本研究では、学習者の習得語彙の拡大を目的とし、水が構成要素になっている漢字の字義の抽象的展開を12種類の漢字辞典の字源を調査し考察、分析した。その結果、水を表す部分は、具体物としての水を表すだけではなく、「形を変える」、「留まらずに広がる」、「水平になる」、「勢いがある」などの水の性質を表し、字義に比喩として用いられていることも多いとわかった。それらの字は、ほかの字と組み合わされ、語として使用されるうちに、抽象的字義へと展開するものも多い。このように、具体的な水を示していたものが、比喩として抽象的意味を持つようになる過程を学ぶことは、学習者の語彙習得を容易にし、抽象的思考能力を伸ばすことにつながるのではないかと考える。