JSL漢字学習研究会誌
Online ISSN : 2432-1974
Print ISSN : 1883-7964
最新号
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講演(寄稿)
  • 研究資源を活かしたクラス活動型中上級漢字語彙学習の実践
    徳弘 康代
    2025 年17 巻 p. 3-13
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    「漢字は一体いくつ覚えればいいのか」という学習者の問いに、各自の目標に向かっていくつぐらい、どのような方法で学習するかを学習者自らが決められるような客観的データを、教師が示せるようにするため、自分は漢字語彙の調査研究を行ってきた。またその研究から資料・教材を作成し、実践に還元し、その教材や学習法の実践から新たな課題・困りごとが浮かび、それを解決するための研究開発を繰返してきた。ここではこれまでに行ってきた漢字語彙の研究で作成した資料を活かした漢字教育の実践例を紹介する。漢字学習は一人で覚える作業で終わることが多いが、それをクラス活動にしていくために資料をどのように活用できるかを具体的に述べる。
論文(査読あり)
  • 韓国人日本語学習者のインタビューから
    柳 東汶
    2025 年17 巻 p. 14-33
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    日本語の漢字及び漢語はその数が多く、形も複雑であるなどの理由から、学習者にとって大きな課題となっている。一方で、漢字学習に当たり、中国や韓国のように漢字との付き合いがある出身圏の学習者は、有利な条件にあると思われがちである。しかし、どの点が有利であるか、また困難な点はないかなど、具体的にはまだ明らかになっていない部分が多い。そこで、本稿は、既に漢字学習の経験を持つ韓国人日本語学習者を対象としてインタビュー調査を行った。そして、学習者の漢字学習の経験とそれに関する意識の語りを分析し、漢字学習の目標設定や学習方法の検討、教える側のフィードバックや教材作成など、日本語教育における示唆を述べた。
論文(査読なし)
  • Galina Vorobeva
    2025 年17 巻 p. 34-44
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    画(ストローク)は、一筆で書かれるべきものであり、漢字の一番細かい要素である。本稿では漢字の画に関する研究の概観をする。主な内容は画の種類、画の形の複雑性指数と複雑性によるランキング、画のコード化とその使用、漢字字体の複雑性の要因である画数と画の曲がりによる複雑性指数の比較、常用漢字における画の出現頻度と経験的法則、画の指導、画の形に基づく漢字辞書の索引、ロシアのグラフィックシステムなどである。
  • D型(中国語独自義+日本語独自義)を中心に
    顧 偉長
    2025 年17 巻 p. 45-56
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、中国語を母語とする日本語上級学習者を対象に、D型同形語(中日で意味の異なる語)の誤用減少に対する対照情報提示の効果を検証した。二段階の日本語自然さ判断調査の結果、対照情報の提示が誤用を有意に減少させることが確認された。  学習者は多くのD型同形語をすでに認知処理しており、対照情報は母語干渉を抑制し、日本語における意味・用法の理解を強化する役割を果たすことが示唆された。さらに、文脈に基づく実践的練習や、言語間の差異を明示的に教授する方法が効果的であることも明らかとなった。本研究は、同形語教育における理論的知見と実践的指針を提供し、今後の教育に有益な示唆を与えるものである。
  • 王 思嬈
    2025 年17 巻 p. 57-68
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、中国ドラマの日本語字幕における「複写ストラテジー」(原語の漢字表記をそのまま用いる翻訳手法)の活用可能性を検討するものである。複写された語彙を汎用語・構成要素複合語・文化特有語・同形異義語に分類し、適用基準と日本語学習者への影響を分析した。結果、文化共通性の高い語彙は複写が有効で、学習に資する一方、「修士」「内気」など意味が異なる語彙では誤解の恐れがあることが分かった。本研究は、語彙学習支援や誤用防止への示唆を与える。
発表要旨
  • 何 宝年
    2025 年17 巻 p. 69
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    日本語特有の漢字語とは「残念」」開催」「案内」のような日本語にしかない漢字語である。漢字語の例は中国で使用されている各種の日本語教科書、日本の新聞、インターネットのニュースなどから収集したものである。  日本語特有の漢字語を判定する場合、中日同形語、昔の中国語にあった言葉、日本語では送り仮名がついている言葉を除外した。「再発」「印象的」のような、中国語では連語で日本語では熟語である漢字語と、「全体像」「仮設住宅」「企業体質」のような、同形語を含んだり、同形語で構成されたりする漢字語は日本語独特の漢字語とみなされる。  日本語特有の漢字語は国字、当て字、和製漢語などに分類してみた。そしてその中国語訳について、日本語の元の漢字が使われる訳、全く違う漢字が使われる訳、中国語に翻訳しにくい説明的な訳に分類してみた。  最後に、日本語特有の漢字語の習得について、次のような予測を立てた。 ①漢字の意味と関係のある漢字語は中国語に対応する言葉がある場合、習得しやすいが、対応する言葉がない場合、やや習得しにくい。 ②意味と関係のない当て字が使われている漢字語の習得は難しい。  今後の課題として以上の予測を検証していきたい。
  • 三輪 譲二
    2025 年17 巻 p. 70
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    日本語教育において、漢字の書字指導は、酷であると言われ、おろそかにされる傾向が強く、非漢字圏の漢字学習の効率化への問題点と考えている。このため、反転授業として、オンライン手書き漢字認識を用いて漢字の書字自律学習を実施することにより、(1)漢字の認識結果や画の色のフィードバックによるAI教師による学習者への気づきの喚起、(2)画のハネはすべて無視したレRと↗Oを↓と→などへの画素置換による13個の画素(→=A, ↓=I, ↙=U, ↘=E, フ=F, ↴=T, く=K, ↳=L, ∠=M, ㇈=N, ㇉=S, 乙=Z, 𠄎=W)による漢字画素の簡略化、(3)Phonics法のようなKalnics法による画素順系列表現による英字アルファベット表音化、(4)正書記憶形、共通筆記形、許容筆記形による画素系列の複数化、(5)階層的漢字字素分解と合成による義符や声符の利用などにより、非漢字圏の漢字学習者にも、酷でなく自律 的な漢字書字支援の可能性があることを述べた。なお、オンライン手書き漢字認識は、https://www.icampusj.net/u/ihwr.jsp から、無料で利用できる。
  • 1年後のフィードバックから
    濱川 祐紀代
    2025 年17 巻 p. 71
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    筆者は長年、学習者が漢字学習方法を体験し、増やすことを目的とした授業を行ってきた。授業期間中や直後に、漢字学習方法を意識することがあるにしても、結局記憶から消えてしまうのであれば、漢字学習方法の授業の必要性は低い。そこで、漢字学習方法を増やすための授業をオンラインで行った。調査は4回行い、授業期間前と直後にアンケート調査を、授業期間終了から半年後と1年後にインタビュー調査を行った。本授業は、単位取得とは無関係の学外で行ったもので、全10回であった。学習者(多国籍、15名、受講時初級前半レベル)は初め、漢字を書いたり、単語カードで見たりして学んでいた。授業期間終了後のインタビューで、①書く回数やアプリ使用が減った、②読み物から漢字を学ぶようになった、③音符リストの作成を始めた、④気分や目的で学習方法が選択できるようになった等の変化が見られた。8名以上の学習者から「普通の漢字クラスはワンパターンでつまらないが、いろいろあることを知ったら、もう元に戻れない」などの好意的な意見が出されたうえ、学んだ漢字学習方法はレベルが変わっても使える復習方法になったこともわかった。
  • 濱川 祐紀代
    2025 年17 巻 p. 72
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は第98回研究会で行った座談会の記録である。日本語教師の抱く漢字指導への不安は、教師用の書籍などで解決することも多いが、解決しない問題に、いつ何をインプットすべきなのかという点がある。そこで、「漢字科目の初回授業を担当するとしたら、何を教えるべきだと思うか」という質問に答える形で、グループで意見を出し合った。グループAは、漢字は、見て意味がわかること、漢字の訓読み語から教えること、漢字を(書きたい人は)書いてみること等を挙げた。グループBは、漢字ができるまでの歴史を、媒介語を使って伝えたり、クイズ(カタカナがどの漢字からできたのか)をしたりすることから始めるとした。グループCは、基本的な運筆(左から右、上から下)や画数、カタカナとの関係、漢字のパターン、漢字学習ストラテジー等を伝えるとした。グループDは、最初に「漢字とは何か」に関するレクチャーを行い、手書きの重要性、個別学習の重要性、学習管理の重要性等について説明するとした。
  • 来日直後から初級終了レベルまでの縦断的インタビューから
    伊瀬知 史子
    2025 年17 巻 p. 73
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では日本での就職を目指す非漢字系日本語学習者(以下、非漢字系学習者)における漢字学習の動機づけの変化と変化に影響を与えた要因について分析を行った。まず、日本語学校に通う非漢字系学習者1名に対し、来日後から初級終了レベルまでの期間、漢字学習の動機づけについて縦断的インタビューを実施した。インタビューにより得られた語りはSCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いて分析した。その結果、非漢字系学習者 は来日前から来日直後は漢字自体が面白いなどの内発的動機づけが中心であったが、日本で漢字学習の有用性を感じる経験を積むにつれて「日本語で漫画を読めるようになるため」、「会社で日本語を使って良い仕事をするため」、「日本語力向上のため」、「日本語の本当の意味を理解できるようになるため」という外発的動機づけが中心になっていくことが明らかになった。これらのように外発的動機づけでも、漢字学習の価値が自己に統合された動機づけが中心であると、漢字学習に対し、高い動機づけが維持されることもわかった。本発表後の質疑応答では、非漢字系学習者の経験についての補足や、分析の観点についての意見交換を行った。
  • 発表をふりかえる
    二瓶 知子
    2025 年17 巻 p. 74
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    JSL漢字学習研究会は年に4回、漢字学習/教育に関する実践報告やワークショップを行っている。20周年を迎えた2024年の12月に第100回研究会が行われた。本会は漢字専門の研究者や院生、日本語学校や大学の教師、ボランティア等様々な会員がおり、その中には非日本語母語話者もいる。様々な背景の会員がどのような内容の発表を行ってきたのか、その傾向を報告した。  本報告では、発表、ワークショップ、講演、座談会、ポスターのカテゴリーの中から発表を取り上げた。のべ336名による230件の発表についてタイトルを基に分析したところ「コース・授業・教室活動」に関するものが50件と多く、次いで「教材・教具」が38件、「漢字語彙・単漢字」が35件あった。その他学習ストラテジーや認知処理に関するものもそれぞれ20件あった。「コース・授業・教室活動」では、様々なレベルを対象に、国別や看護師等の特定の職種に焦点を当てたものが多く見られた。また語彙マップ作成等の教室活動やCan-doで目標設定をした課題遂行型授業の提案も見られた。具体的な活動から漢字教育の根本を支える理論的研究まであり、会員の興味関心の幅広さが伺われた。
  • 教師2名の悩みの共有と解決に向けて
    濱川 祐紀代
    2025 年17 巻 p. 75
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は第100回研究会で行ったワークショップ(WS)の記録である。WSでは、まず筆者が以前に行ったインタビュー調査の中から、漢字指導の悩みを2点取り上げた。1つめは漢字の初級コーディネーターの悩みで、中級コーディネーターから、この学校の初級の学生は漢字を「丸暗記してるだけで使えないし、すぐ忘れる」と指摘されたことであった。2つめは、漢字の中級コーディネーターの悩みで、国で初級漢字を勉強してきた学生が、来日当初、漢字学習への抵抗感が強いこと、漢字学習に割く時間があまりなく教科書をこなすことしかできないがどうしたらよいかわからないことであった。WSで出された意見を集約すると、漢字の(長期・短期的)学習計画を立ててみる、漢字の学習方法を教える、音符や部首、字源、ストーリーなどの漢字知識を教える、会話作成などのアウトプット活動を行う、小テストによる成功体験を積ませる等が出された。日本語教育の現場は多様であり、そこに柔軟に対応していくためにも、また漢字指導を楽しみながら続けていくためにも、唯一の解法を求めるのではなく、教師が多くの漢字指導法に関する選択肢をもつことが必要だと思われる。
  • #日本語教育参照枠 #ブルーオーシャン戦略
    池田 敦史
    2025 年17 巻 p. 76
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    2008年のEPA受け入れ以降、非漢字圏学習者の介護福祉士国家試験受験者が増加した。当初、漢字の壁は高いと考えられていたが、多くの学習者が努力の末に合格を掴んだ。発表者は国家試験のための授業を長らく担当し、その軌跡を現場で目の当たりにした。国家試験に合格することを目的とする学習者にとって、漢字の勉強ではなく、専門的な語彙をいかに大量に理解し覚えるかが重要であり、書くことは必要ではない。この考え方は従来のやり方を根本的に見直す経営手法である「ブルーオーシャン戦略」と言える。  また「日本語教育参照枠」においても、漢字を含む文字の扱いにおいて「見て意味がわかればよいもの」、個々の学習者の「言語活動が達成する上で必要な漢字を設定」としている。そこでオリジナル教材「こつこつ漢字1000」の作成に着手し、学習者負担を減らし、効率的に目標達成する指導法を模索した。国家試験に合格したEPA候補者の多くがN2に合格していることから、1000の漢字を効率よく覚えることが専門学習の土台作りに役立つと考えた。現 在、非漢字圏の介護留学生の授業で活用しているが、成果が出ることを期待し、また教材の改善に努めているところである。
  • 関 麻由美
    2025 年17 巻 p. 77
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    認知科学における「記号接地」とは、自分自身の体験に、記号であることばを接地させることである。この概念は、日本語教育において川口義一や川上郁雄によって言われてきた「個人化・個別化」「文脈化」と相通じるものがある。さらに、コンセプトマップの開発者で教育心理学者であるJ.ノヴァクの、考え、感じ、行動することの3つが統合されて学習や知の創造がおこるという考え方にも通じる。身体性が伴うということはそこには必ず文脈があるはずで、これまで言語教育において個人化や文脈の必要性が説かれてきたことの理論的根拠はここにあると考えられる。  そこで、第101回研究会ポスター発表では発表者が授業で学習者に課している漢字マップを例に、学習者がいかに漢字マップの中で取り上げた漢字語を自分事としてとらえ記号接地させているかを紹介した。さらに、現在、発表者が試みている、マルチモーダルなデジタルマップも紹介した。これは文字情報やイラストなどの視覚情報に、聴覚情報や触覚も加えたものである。より身体性を加味した学習ツールとしての漢字マップの可能性を示した。
  • カウンセリングでの語りから
    濱川 祐紀代
    2025 年17 巻 p. 78
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、メンタル不調を自覚する日本語教師(非常勤講師)のうち、漢字指導に難しさを感じている人にカウンセリングを行い、メンタル不調の要因を探ろうとしたものである。クライエントは、えまさん(30代、日本語学校、非常勤講師)、りおさん(30代、大学、非常勤講師)、さなさん(40代、大学、非常勤講師)の3名であった(いずれも仮名)。調査は対面で、事前アンケートのあと、カウンセリングを行った。カウンセリングの結果、漢字指導への強い嫌悪感(本当はやりたくない、教え方に工夫ができない、単調な授業である等)や、漢字科目のコーディネーターに対する不信感(相談しても無駄だ、コーディネーターも単調な授業をしている、仕事をもらい続けるためには交渉を諦めるしかない等)が強く、ビリーフに合わない教え方(Can-doや場面を意識した活動がしたいのにそれができない等)を続け たため、メンタル不調に陥ったことがわかった。これらは決して漢字だけの問題ではなく、文法や読解等の科目でも同様の問題が考えられるが、調査の結果からは漢字だから指導方法の工夫ができない、漢字だから上司の指示が仰げない等、漢字指導に起因した問題が認められた。
  • ミャンマー語母語話者の事例から
    Phoo Pwint Phyu
    2025 年17 巻 p. 79
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、日本語を専門としない中長期在留者の漢字学習の事情を探ることを目的とし、日本の会社に就職しているミャンマー人在留者1名に半構造インタビュー形式で日本語学習及び漢字学習について調査した。インタービューデータを文字化して分析した結果、次のことが明らかになった。まず、調査協力者は、日本語学習の必要性を感じつつ、時間管理により、自律的に学習が難しいことが分かった。また、漢字学習については、自分の専門である建築に関連する語彙や日常生活で見かける語彙が学習対象となっていることが明らかになった。これにより、日本語を専門としない中長期在留者にとっては、自律的な日本語学習の実施が難しく、習得する日本語は自分の専門に関わるもの及び身近なものに限られている傾向があると考えることができる。今後は、調査協力者を増やして同様の結果が見られるか否かを検討し、日本語教師としてどのような支援ができるかについて引き続き考えていきたい。
  • 山田 京子, 神谷 佳那, 小山 真理, Noriko K. Williams, 小山 由記, 永澤 よしゆき, 徳弘 康代
    2025 年17 巻 p. 80
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス
    漢字には「さんずい(氵)」など水を示す部分を含む字が数多くある。それらの漢字は、人が水とかかわり、翻弄され、利用してきた歴史や事実を留めている。だが、部首としての「さんずい(氵)」には、「水に関係する」との説明はあるが、どのように水の価値をとらえたかを想起させる記述は少ない。人が水と様々なかかわり方をしてきた結果、水を表す部分は、比喩として多様な意味を表すようになっている。  本研究では、学習者の習得語彙の拡大を目的とし、水が構成要素になっている漢字の字義の抽象的展開を12種類の漢字辞典の字源を調査し考察、分析した。その結果、水を表す部分は、具体物としての水を表すだけではなく、「形を変える」、「留まらずに広がる」、「水平になる」、「勢いがある」などの水の性質を表し、字義に比喩として用いられていることも多いとわかった。それらの字は、ほかの字と組み合わされ、語として使用されるうちに、抽象的字義へと展開するものも多い。このように、具体的な水を示していたものが、比喩として抽象的意味を持つようになる過程を学ぶことは、学習者の語彙習得を容易にし、抽象的思考能力を伸ばすことにつながるのではないかと考える。
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