抄録
レーザー照射が創傷や難治性潰瘍に対して治癒効果があると報告されて以来, 炎症抑制, 疼痛減少, 骨折の治癒促進など広範な臨床効果が数多く報告され, レーザー療法の応用がめざましい. レーザー療法に対する懐疑的な意見や副作用に対する十分な検討が行われていないという指摘も依然として存在する. レーザー療法が進展しているなか, レーザー照射の生物学的効果のメカニズムに対する解明は遅れていると言わざるを得ない. 医学領域へのレーザー療法の積極的な応用を推進するためにも生物学的効果を実証科学的に明確に証明する必要があろう. レーザー照射の生物学的効果の分子レベル, 細胞生物学レベルでの解明にあたり, 培養細胞を利用することは有用性が高く, 得られる情報は生体の複雑な代謝系, 細胞機能に与えるレーザーの影響を解明することに貢献できると考えられる.
ヒトゲノム計画のドラフトシーケンスが終了し, ポストゲノム科学研究へと進むなか, ゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム, を統合したバイオインフォーマテイクス研究が飛躍的に進展している. ゲノム研究では, 膨大なゲノムデータベースを駆使した遺伝子ホモロジー検索, モチーフ検索が活用できるようになり, トランスクリプトーム研究では, 差分化遺伝子クローニングによる遺伝子探索や一度に数万の遺伝子の発現を短時間に解析できるDNAマイクロアレイ, Gene Chipが開発されている. 本稿では, レーザー療法の生物学的効果を実証科学的に解明する試みとして, 低出力レーザー照射による歯周病の炎症抑制や骨形成促進作用について歯周組織細胞, 骨芽細胞の培養系を応用して得られた研究成果を解説するとともに, 機能ゲノム科学研究技術を導入した低出力レーザー照射応答遺伝子や分子ネットワークの探索への試みを紹介する.