日本レーザー医学会誌
Online ISSN : 1881-1639
Print ISSN : 0288-6200
ISSN-L : 0288-6200
原著
細胞形態の違いによる光線力学療法効果の違いの検討
酒井 真理櫛引 俊宏粟津 邦男
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 30 巻 4 号 p. 405-414

詳細
抄録

光線力学療法(Photodynamic Therapy, PDT)とは,腫瘍に特異な集積性を持つ光感受性物質を投与し,その薬剤を励起させる特定波長のレーザーを局部照射することで行う治療法である.表在性の癌に対して特に高い治療効果があり,副作用としては一時的な光過敏症の起こることがあるが,適切な治療を行えば大きな副作用は少ない.しかしながらPDTを行うと組織局所的に低酸素状態になり,血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)の産生・分泌が起こり,血管形成や細胞増殖の原因となることがある.そのためPDT後の長期生存率を高めるために,PDTに対する腫瘍細胞の反応を理解することが重要である.腫瘍は一つの新生細胞から増殖しているにもかかわらず,その腫瘍組織を構成する細胞は形態的に不均一であることが知られている.本研究では1つの細胞株において形態が異なる腫瘍細胞を分類し光感受性物質(タラポルフィンナトリウム)の取込み量やPDT感受性に違いが生じることを確認した.本実験にはヒト食道癌由来細胞株KYSE70を形態的に5種類に分類した.そのうちの3グループは広がりやすく単相状のコロニーを形成し,残りの2グループは層状のコロニーを形成した.いくつかのグループは他のグループに比べタラポルフィンナトリウムの取込み量が少ないにもかかわらず,PDT感受性が高くなった.この結果から一つの細胞株内に存在する腫瘍細胞が形態的に異なり,タラポルフィンナトリウムの取込み量と無関係にPDT感受性が異なる細胞が存在することが分かった.PDTが腫瘍に対して有効な治療法となるために,形態的に不均一な腫瘍組織に対するPDTの確立が必要である.

著者関連情報
© 2009 特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top