日本レーザー医学会誌
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総説
下肢静脈瘤に対する血管内レーザー焼灼術―術後圧迫療法について―
白杉 望
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2019 年 40 巻 2 号 p. 172-178

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Abstract

下肢静脈瘤血管内治療ガイドラインは,下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術(endovenous laser ablation: EVLA)術後に圧迫療法を施行することを推奨している.いくつかのrandomized controlled trial(RCT)は,弾性ストッキングによる圧迫療法は,術後1週目の疼痛を軽減させることを報告している.ただし,そのエビデンスレベルは弱く,また,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)予防効果については明らかではない.現時点ではEVLA術後の圧迫療法は必要と考えられるが,今後,DVT予防効果をもアウトカムとした本邦におけるRCTが望まれる.

Translated Abstract

In Japanese guideline for endovenous treatment of varicose vein patients, compression therapy by elastic stockings (ES) are recommended after endovenous laser ablation (EVLA). A few randomized controlled trial (RCT) reported that wearing ES reduced significantly postprocedural pain at 1 week after EVLA, although the level of evidences were weak and the effect of ES on preventing postprocedural deep vein thrombosis (DVT) was unclear. Currently, we suggest that compression therapy by ES is necessary after EVLA. Further RCT in Japan is warranted to clarify whether wearing ES prevent DVT after EVLA.

1.  はじめに:下肢静脈瘤における圧迫療法

下肢静脈瘤は,「下肢の表在静脈が拡張し,屈曲蛇行した状態」と定義される1).その病態は「表在静脈弁不全とそれに起因する静脈高血圧」である.静脈高血圧により静脈怒張,浮腫等の種々の症状が生じる.したがって,静脈高血圧の治療手段として,圧迫療法は不可欠である.圧迫療法の手段としては,弾性ストッキングと弾性包帯がある.このうち,弾性包帯による圧迫療法は,施行中に圧を一定に保つ事が,技術的,方法論的に困難である2).圧迫療法の欠点は,患者の好みから治療のコンプライアンスが低いことである2).したがって,患者の日常生活を配慮し,下肢静脈瘤に対する圧迫療法としては,日常臨床現場では弾性ストッキングのほうが頻用されている2)

2.  下肢静脈瘤手術:ストリッピングから下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術へ

下肢静脈瘤の治療法としては,前述の圧迫療法のほか,硬化療法,手術がある1).下肢静脈瘤では,表在静脈弁不全による逆流から静脈高血圧をきたしている.その垂直方向の逆流を根治させる手段の一つが手術である.この垂直方向の逆流は,伏在静脈に生じることがほとんどである.したがって,手術適応となる静脈瘤は,伏在型下肢静脈瘤である.伏在型下肢静脈瘤に対する手術法として,かつては選択的ストリッピング術が頻用されていたが3),現在では,下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術(endovenous laser ablation: EVLA)を含めた,下肢静脈瘤血管内焼灼術が主体となっている4)(Table 1).Table 1に提示したのは,日本静脈学会・静脈疾患サーベイ委員会による下肢静脈瘤についての全国疫学調査結果,2008年と2013年の比較である.伏在型下肢静脈瘤に対する治療法全体に占める内訳に注目すると,圧迫療法は,2008年が26.7%,2013年が20.0%だった.一方,伏在型下肢静脈瘤に対する手術では,ストリッピング術/EVLAは,2008年では47.1%/3.1%を占めていた.2011年にEVLAが保険診療として認められた後の2013年では,ストリッピング術/EVLAは,7.9%/56.2%と割合は逆転,EVLAがストリッピング術に取って替わったことが表れている.

Table 1  Types of treatment for saphenous type varicose veins: (Data based on the results in Japanese Vein Study3,4))
2008 2013
Compression therapy 26.7% 20.0%
Stripping 47.1% 7.9%
EVLA 3.1% 56.2%
High ligation 14.8% 4.3%

Data based on the results in ref. 3) and 4).

Data represents the proportion of each treatment in those for the patients with saphenous type varicose veins.

EVLA: endovenous laser ablation

3.  下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術・術後圧迫療法の現況

このように,現在,下肢静脈瘤手術の主流となったEVLAであるが,そのEVLA術後では,圧迫療法が必ず施行されている.その理由としては,歴史的な背景と,本邦ガイドラインの二つがあると推察される.

3.1  歴史的背景

前述の通り,EVLAは,伏在型下肢静脈瘤の根治術のひとつとして,伏在静脈選択的ストリッピング術に替わり,施行されている.つまり,伏在型静脈瘤患者の逆流している伏在静脈瘤を,ストリッピング術により切除しているか,血管内レーザー治療により焼灼・閉塞させ逆流をとめるか,という違いだけである.したがって,EVLAという新たな手術法において,選択的ストリッピング術における術後圧迫療法をそのまま適応させた可能性が考えられる.選択的ストリッピング術後の圧迫療法では,伏在静脈ストリッピングした部位を術直後より圧迫止血するために弾性包帯を使用,その後,術後1~2ヶ月弾性ストッキングを着用する5).ストリッピング術後に圧迫療法を施行する主な理由は,選択的ストリッピング術後には40~50%の頻度で術後皮下紫斑を認めるので6)これを予防すること,術後の深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)を予防すること7),である.また,EVLAを臨床導入した当初,高位結紮をせずに伏在静脈本幹を焼灼することが伏在静脈深部静脈接合部より血栓が伸展,DVTにつながるのではという危惧もあったことから8),術後圧迫療法がEVLA術後においても施行されたと考察されている9).さらに,導入初期の810 nm,980 nm波長によるEVLAでは,焼灼部位の疼痛,皮下出血が20~40%認められた9).これら疼痛や皮下出血の治療・予防として,弾性包帯,弾性ストッキングによる圧迫療法が施行されたと推察される.

3.2  本邦ガイドライン

2011年1月よりEVLAが保険適用となった.それに先立ち,「下肢静脈瘤に対する血管内治療のガイドライン」が発表された10).このガイドラインでは「血管内治療後は,必ず弾性包帯あるいは弾性ストッキングによる圧迫療法を行い,可能な限り早期離床(歩行開始)を心がける.」と明記されている.期間と方法については,「術後数日は終日圧迫を継続し,さらに術後1~4週間は日中のみ圧迫を継続させるようにする」,その目的は,「合併症の予防と治療成績向上のため」と記載されている.その合併症としては,表在性血栓性静脈炎や深部静脈血栓症等の血栓症をも念頭においている.臨床の現場ではガイドラインを遵守し,EVLA術後には弾性ストッキングによる圧迫療法が必ず施行されている.

3.3  下肢静脈瘤レーザー血管内焼灼術術後の圧迫療法の必要性について

今まで,前述のような経緯から本邦において施行されてきた術後圧迫療法だが,患者にとってベネフィットはない,という結果がrandomized controlled trial(RCT)により報告されている11).Houtermans-Auckelらは,大伏在静脈瘤内翻ストリッピング患者を対象とし,術後3日間弾性包帯を着用させたのちに,弾性ストッキングを4週間着用させる群と着用させない群に分けた.アウトカムとして,術後浮腫,術後疼痛,合併症,就労への復帰を両群で比較した.術後浮腫,術後疼痛,合併症は両群に差はなく,就労は着用させないコントロール群の方が早期に復帰した.RCTによるこれらの結果は,術直後の弾性包帯着用に続いて施行された弾性ストッキングによる圧迫療法にはベネフィットはない,ということを示している.

では,本当に「EVLA術後圧迫療法は必要ない」のだろうか?

本稿では,このような重要な臨床課題の一つである「EVLA術後圧迫療法」について,他国ガイドライン,エビデンス等を踏まえて言及していきたい.

4.  下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術・術後圧迫療法:他国ガイドラインにおける位置づけ

診療ガイドラインは,エビデンスをもとに,各国(または欧州といった地域)の医療事情(医療保険制度や,患者の嗜好等の社会背景)に合わせて作成される.したがって,他国ガイドラインが,本邦臨床にそのまま適応することはないが,参考にすることは十分可能である.よって本項では,他国のガイドラインにおいて術後圧迫療法がどのように位置づけられているか,述べる.

2019年1月,下肢静脈瘤患者に対する血管内焼灼術,ストリッピング術,硬化療法後の圧迫療法についての診療ガイドラインが発表された12).このガイドラインは,American Venous Forum(AVF)ガイドライン委員会のリーダーシップのもとに,AVF,The Society for Vascular Surgery(SVS),Society for Vascular Medicine,アメリカ静脈学会,国際静脈学会により共同作成されたガイドラインである.したがって,SVSおよびAVFによる下肢静脈瘤ガイドライン(2011年)13),the European Society for Vascular Surgeryによる慢性静脈疾患に対するガイドライン(2015年)14),また関連したRCTを評価したうえで作成されている.

まずこのガイドラインでは12),術後圧迫療法の推奨については,「ストリッピング術または血管内焼灼術・術後」と,「硬化療法・治療後」に分けている.そして,各群(治療後)において,「圧迫療法を推奨するか」「圧迫療法の期間」について言及している.

伏在静脈に対するストリッピングまたは血管内焼灼術後では,「可能であれば圧迫療法を施行する(GRADE-2; LEVEL OF EVIDENCE-C)」と提案している.なによりまずエビデンスレベルが低いが(C),過去のすべてのRCTにおいて「圧迫療法を受けていない対照群」が存在しないことがその理由である.このためガイドラインでは,「エビデンスが低いので推察するよりほかない.患者は圧迫療法によりなんらかのベネフィットを受けるだろう,何もしないよりは,何かしらの圧迫療法をしたほうがよい」と結論している.その方法としては,20 mmHg以上の圧の弾性ストッキングを用いることとしている(GRADE-2; LEVEL OF EVIDENCE-B).根拠は,RCTの結果から,エビデンスレベルは低いものの,20 mmHg以上の圧の弾性ストッキングにより術後1週間以内の疼痛軽減効果が期待されたこと,である.

一方,術後圧迫療法の期間については,「納得できる根拠が欠如しているので,症例ごとに期間を決定すること」とされている.そのような記載となっている理由のひとつは,術後圧迫療法の至適期間を決定づけるデザインのRCTが存在しないことである.そして,症例ごとに圧迫療法期間を決定すること(ガイドライン原文は「the compression need to be tailored」)について具体的には:①静脈不全を包括的に評価すること,②静脈不全の原因が下肢静脈瘤だけであれば,術後圧迫療法の期間は,数時間から数日で十分かもしれない,③一方,深部静脈逆流・深部静脈不全を併存している症例では,圧迫療法は術後のみではなく,さらに長期間継続する必要があるだろう,と記載している.

症例ごとに圧迫期間を決定する,というのであれば,術式により圧迫療法を変える必要があるだろうか?具体的には,ストリッピング術とEVLAでは,術後圧迫療法期間を変えたほうがいいだろうか? ストリッピング術後圧迫療法の目的は,術後DVTの予防以外では,「ストリッピング部位の術後紫斑・腫脹とそれに伴う疼痛の予防」が主である5,6)

一方EVLA後では,術後焼灼部位の疼痛予防が圧迫療法の主たる目的である13).圧迫療法の目的にやや違いはあるが,このガイドラインでは12),ストリッピング術後とEVLAを含む血管内焼灼術術後において,圧迫療法期間の差を設けていない.その根拠の第一は,前述・Houtermans-AuckelらによるRCTにおける結果,「大伏在静脈瘤内翻ストリッピング患者を対象とし,弾性ストッキングを4週間着用させる群と着用させない群に分けたところ,術後浮腫,術後疼痛,合併症は両群に差はなく,就労は着用させないコントロール群の方が早期に復帰した」という事実である.一方,中圧弾性ストッキング(RCTでは23~32 mmHg)と弱圧の弾性ストッキング(同:18~21 mmHg)を比較したRCTでは,伏在静脈ストリッピング術を含む手術後では,どちらの弾性ストッキングも術後合併症には差がなかったが,術後1週間目までは,中圧弾性ストッキング着用群のほうが,術後浮腫スコアと術後症状(突っ張り感など)が改善されていた(その後両群の差はなかった)12,15).以上のことから,血管内焼灼術術後の圧迫療法についてのRCTによる根拠は次項で触れるが,現時点では,「下肢静脈瘤ストリッピング術後であれ,EVLA術後であれ,術後圧迫療法は,深部静脈不全がない限りは術後1週間施行する,その後継続するかどうかは,症例ごとに決定する」で問題ないと推察できる.

ちなみに本ガイドラインでは12),前述のとおり,静脈瘤硬化療法後の圧迫療法についても記載している.硬化療法後の圧迫療法の目的は,これまで述べてきた術後の圧迫療法とは少し異なる.具体的には,硬化療法後圧迫により,静脈瘤血管壁同士を接着させ,さらに瘤内に注入された硬化剤と血管壁を最大限にコンタクトさせることが目的である12).そのうえで,より効果的な内皮障害と瘤硬化をもたらすようにする.そのほか,色素沈着や大きな血栓形成等の有害事象を防止することも目的のひとつである.しかしながら,現存するRCTや観察研究では,硬化療法後圧迫療法に関する方法,期間,アウトカムの設定がばらばら(heterogeneous)であるため,コンセンサスを得るだけの根拠がない.したがって,ガイドラインでは,「硬化療法後は,治療の一部として何らかの圧迫療法を組み入れるべきだが,その期間は症例ごとに検討すること(GRADE-2; LEVEL OF EVIDENCE-C).」と記載されている.さらに,現在はフォーム硬化療法が主流だが,本ガイドラインでは,フォーム硬化療法後圧迫療法については,「根拠は不十分でコンセンサスがない(to be determined)」と記載されているのみである.本邦では,日本静脈学会監修「フォーム硬化療法の手引」が出版されている16).これは,ヨーロッパコンセンサスミーティングを日本静脈学会監修のもとに翻訳したもので,フォーム硬化療法についての基本が記載されている.硬化療法後の圧迫療法についても詳細に記載されているので,フォーム硬化療法後圧迫療法についての詳細は,そちらをご参照いただきたい16)

一方,国際静脈学会後援によるEndovenous Thermal Ablation for Varicose Vein Disease—ETAV Consensus Meetingガイドライン(2012年)では,「術後弾性ストッキングを着用させる,術後疼痛を軽減させることがある」とシンプルな記載にとどまっている17)

5.  下肢静脈瘤レーザー血管内焼灼術・術後圧迫療法:RCTにおけるエビデンス

前項で,海外の学会によるガイドラインにおいて,「術後圧迫療法は必要である」と記載されていることを述べた.では,「EVLA術後の圧迫療法は必要である」というエビデンスはあるだろうか?

Bakkerらは,大伏在静脈瘤に対する810 nm diode laserによるEVLA施行患者を対象にRCTを施行した18).術後2日間弾性ストッキング着用させる群と,術後1週間着用させる群に振り分け,VASによる疼痛,SF-36によるQOL,術後3ヶ月の閉塞率,術後合併症をアウトカムとして比較した.両群とも術後閉塞率100%,合併症に両群の差はなく,両群ともDVTは認められなかった.術後1週目の疼痛は,術後2日間着用群が有意に高かった.SF-36の項目のなかで,術後1週目の身体機能と活力が,術後1週間着用群のほうが有意に良かった.なお,SF-36は,8つの健康概念(身体機能,日常役割機能(身体),体の痛み,社会生活機能,全体的健康感,活力,日常役割機能(精神),心の健康)を,患者への質問用紙に対する回答から測定することにより,健康関連QOLを包括的に測定することができる尺度である19).包括的な測定のため,異なる病気や治療を比較することができる一方,疾患特異的な尺度ではない.

このRCTでは弾性ストッキング着用期間を2日間と7日間に分けているが,Eldermanらは,着用群と着用しない群を比較した20).同様に大伏在静脈瘤に対する810 nm diode laserによるEVLA施行患者を対象としたRCTにおいて,術後24時間の弾性包帯圧迫療法ののち,弾性ストッキングを2週間着用する群と着用しない群に振り分け,術後疼痛(VASと鎮痛剤使用量),QOL(Aberdeen Varicose Vein Questionnaire (AVVQ) scores:下肢静脈瘤患者の健康関連QOLを測定する疾患特異的尺度で,痛みやむくみや皮膚症状などの静脈瘤の問題を網羅した13の質問事項から構成されている,SF-36同様,患者からの回答によりアウトカムを評価する方法(patient-reported outcome measures: PROM)である21)),就労復帰までの期間,合併症をアウトカムとして比較した.就労までの復帰期間,合併症,QOLについて両群間に差はなかった.術後1週目の疼痛は,弾性ストッキング着用群のほうが有意に低かった.

その一方,大伏在静脈瘤に対する血管内焼灼術(890 nm EVLAとradiofrequency ablation)施行患者を対象としたRCTにおいて,術後1週間弾性ストッキング着用群と着用しない群の2群に分けて,術後疼痛(VAS),QOL(the venous clinical severity score (VCSS) and chronic venous insufficiency questionnaire (CIVIQ-2):VCSSは,患者からの回答ではなく医師が慢性静脈不全の状態を評価する尺度で,痛み,静脈瘤,浮腫,色素沈着,潰瘍,圧迫療法など10の各項目について,重症度を0~3点の点数を割り振ってスコア化する22),一方CIVIQ-2は,PROMのひとつで,慢性静脈不全患者の健康関連QOLを,痛み,就労や日常生活の活動,睡眠,morale(気力)など20項目についての回答をスコア化したもの22),いずれも疾患特異的な尺度である),術後皮下出血,閉塞率がアウトカムとして比較された23).結果,閉塞率は両群100%,術後疼痛,QOL,術後皮下出血とも両群間に差がなかった.

これらのRCT報告から言えることは:1)弾性ストッキングを用いた術後圧迫療法は,術後1週間目の疼痛を軽減し,術後1週間目のQOLの一部を改善した,2)着用群とコントロール群の完全な盲検化ができていない,治療機器の違いにより疼痛軽減効果が異なるという結果がでている,これらのことより,エビデンスレベルとしては弱い,である.

6.  下肢静脈瘤レーザー血管内焼灼術・術後圧迫療法:DVT予防における位置づけ

さて,上記3編のRCTにおいて,術後合併症であるDVTをアウトカムとして記載されているのは1編のみである18).しかも,弾性ストッキング着用群とコントロール群で差がなかった(両群ともDVTは認められなかった).その一方で,前述の通り,本邦ガイドラインでは,術後圧迫療法は必要であり,血栓症,なかでもDVTという合併症予防を目的のひとつとして記載している.では,弾性ストッキングによる圧迫療法は,DVT予防の観点から必要なのか?それとも不要なのだろうか?

弾性ストッキングは,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)の予防法のひとつとして,本邦「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」24)ならびにAntithrombotic and Thrombolytic Therapy: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines(ACCPガイドライン)25)において推奨されている.しかしながら,ACCPガイドラインにおいては,推奨・エビデンスレベルともに低く(Grade 2C),根拠となっているRCTにおいて,症候性VTE予防のうえでの弾性ストッキングの有用性を肯定/否定できていない26,27).そのためか,諸外国では,静脈瘤術後におけるDVT予防という点においては,弾性ストッキングよりも,可能な限り早期からの歩行が推奨されている13).さらに,EVLA術後におけるDVT予防について,弾性ストッキングの有用性を明らかにできたRCTは,調査した限りなかった.なお,伏在静脈瘤に対するフォーム硬化療法術後の弾性ストッキング着用についてのRCTにおいては,治療群と無治療群(弾性ストッキング着用なし)間において,DVTの頻度に差がなかったという報告がある28).このように,DVT予防の観点からEVLA術後の弾性ストッキングの有用性を証明できたエビデンスは少ない.それはひとえに,VTEが合併症として稀であるからである17).本邦・下肢静脈瘤血管内焼灼術実施管理委員会も,下肢静脈瘤血管内焼灼術術後のDVT,肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism: PTE)の発生率はそれぞれ0.076%,0.0067%だったと報告している29)

そのようななかでも,SVSおよびAVFによる下肢静脈瘤のガイドラインは,「DVTまたはPTE予防を目的として,弾性ストッキングが使用される」と明記している13).その理由は,DVTを含めたVTEが,下肢静脈瘤術後合併症のなかで予防しなければならない重大な合併症の一つだからである.本邦,「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」24)においても,術後VTE予防法として弾性ストッキングが推奨されている.これらを考慮すれば,EVLA術後の弾性ストッキングによる圧迫療法は,DVT予防の観点からも必要であろう.

7.  下肢静脈瘤レーザー血管内焼灼術・術後圧迫療法:その必要性

以上をまとめると,下肢静脈瘤レーザー血管内焼灼術術後において,弾性ストッキング着用による圧迫療法は必要である,と考えられる.理由は:1)1週間後の術後疼痛を軽減する,2)1週間後の一部QOL尺度を改善する,3)DVTを予防できる,可能性がある,からである.ただし,これらのエビデンスレベルは弱い.

8.  下肢静脈瘤レーザー血管内焼灼術・術後圧迫療法:実際の方法と期間

では,実際には,EVLA術後の圧迫療法はどのようにすればよいか?弾性ストッキングとしては,圧が20~30 mmHgのハイソックスタイプを使用する30)(Fig.1, 2).期間は,術後1~4週間が一般的である.その際には,弾性ストッキングによる合併症として皮膚炎やかぶれなどの皮膚障害,血行障害,知覚障害等があること31)に留意する.できれば,弾性ストッキングコンダクター指導のもとに施行することが望ましい32)

Fig.1 

Typical knee high elastic stocking made in Japan. Pictures by courtesy of Fukusuke Corporation (Tokyo, Japan).

Fig.2 

Pictures showed how to wear knee high elastic stockings (a→b→c→d). For successful compression therapy after endovenous laser ablation, it is important that elastic stocking conductors show the easy way to wear the elastic stockings to the patients. Pictures by courtesy of JMS Co. Ltd (Tokyo, Japan).

9.  下肢静脈瘤レーザー血管内焼灼術・術後圧迫療法:今後の展望

EVLA術後患者において,弾性ストッキングによる術後圧迫療法がDVTを予防するベネフィットが本当にあるのか?という命題は,完全には解決されていない.したがって,今後,下肢静脈瘤に対してEVLAを施行した患者を対象に,弾性ストッキングによる術後圧迫療法の介入が,術後DVT発生予防も含めてベネフィットがあるかどうかを評価するためのRCTが望まれる.

利益相反

利益相反なし.

引用文献
 
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