昭和医学会雑誌
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パーキンソン病患者の社会環境条件と在宅ケア課題・要件に関する研究
島内 節
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1986 年 46 巻 2 号 p. 189-201

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抄録

パーキンソン病患者は神経難病の中で最多であり, その多くが在宅療養者であるにもかかわらず在宅ケアの実践例からケア課題やケア効果をとらえた研究例は, きわめて少ない.そこでパーキンソン病患者の社会環境条件と在宅ケア顆題の特徴を明らかにし在宅ケアについて評価を行った.東京都立神経病院在宅診療班が1975~1983年の期間に在宅ケアを開始していたパーキンソン病患者69例について在宅ケア開始期を中心として患者の属性・社会環境条件, 症状・障害, 病状経過ADL, 精神能力, 介護実態, 介護困難を分析した.その際, 一般寝たきり老人, 寝たきりでない疾病老人をコントロール群とした.その結果次のようなことが明らかになった. (1) パーキンソン病在宅ケア患者は難病, 障害者, 高齢の条件が重なり身体障害者手帳1, 2級所持者は28例 (40.6%) を占め, 全例にADLが著しく低下し, 大多数にコミュニケーション障害, 精神症状, 痂呆, 意欲低下など精神能力も障害されていた.2) 在宅ケアの対象となり, その効果が期待できる症状・障害は, 失禁・排尿障害, 蒸下障害, 精神症状 (幻覚, 失認, 徘徊など) , 意識障害, 呼吸異常, 褥瘡などであり, また処置としては経管栄養, 膀胱留置カテーテル, 吸引, 呼吸管理などであった. (3) パーキンソン病老人は一般寝たきり老人に較べて, 平均年齢は5.5歳低いにもかかわらず前記症状・障害, 処置の必要度が有意に高く認められ, 介護困難も有意に高い. (4) パーキンソン病患者のADL, 精神能力のいずれも女よりも男において有意に低い.この傾向は他文献とも一致した. (5) 介護能力・介護条件は, 介護者によって異なる.このうち緊急問題解決能力は嫁・娘>妻>夫・その他 (老母, 老姉妹) の順で, 日常介護能力・条件は, 妻・嫁>娘>夫・その他 (老母, 老姉妹) の順である.そこで介護者が男性や高齢者の場合に介護上の問題が多い. (6) 介護上の問題は症状・障害に伴う介護知識や技術に困難度が強い. (7) 在宅ケアにおいては上記の問題への対応の他に, 医療費など諸制度の活用, 専門職・非専門職への照会など医療上, 生活上の諸問題や介護者の心身の健康管理などの対応課題があげられる. (8) 専門家による在宅ケアの効果は患者の医療確保に合わせてケアによって症状・障害の緩和, 病状進行を遅延させうることがわかった.また介護者の健康管理によい結果をもたらしていた.

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