抄録
筋・神経系疾患に対する臨床医学的, 基礎医学的, 公衆衛生看護学的研究は未だとぼしい.一方, 最近とみに, 地域保健・医療の新たな展開が要請されている.本研究は筋・神経系疾患の代表的疾患として筋萎縮性側索硬化症を選び, 本疾患に対する公衆衛生看護の実態を分析・検討し, 筋・神経系疾患に対する公衆衛生看護の在り方とその方法を研究した.「研究方法」昭和49年12月から60年11末日まで (11年間) , 東京都立神経病院とその前身, 都立府中病院で行った在宅診療の対象患者347例から筋萎縮性側索硬化症事例43例を選び, 研究対象とした.医学的資料は診療録や主治医等からの詳細な聞き取りで, 公衆衛生看護学的資料は著者の保健婦記録や他の看護職員からの聞き取りで収集, 整理した.「結果」1) 筋萎縮性側索硬化症患者は43例 (死亡は29例, 67.4%) であった.2) 死亡例の性比は男/女: 1.69, 平均発病年齢は52.9歳, 初発部位が球症状の事例は20.9%であった.平均り病期間は4年4カ月であった.3) 在宅診療は疾患経過の後期に平均1年2カ月行われ, 人工呼吸器による呼吸管理等の診療と必要な公衆衛生看護が行われた.4) 本研究で得た平均り病期間値は国内, 国外の調査研究結果値と比較すると, 長期群に属した.また, 在宅診療・公衆衛生看護が適切に実施された群ほど, り病期間は長期であった.これらのことから, 在宅診療・公衆衛生看護が適切に実施されることは筋萎縮性側索硬化症患者の延命に効果があるとの結論を導きだした.5) 在宅診療・公衆衛生看護は病院病床の効率的有効活用や患者・家族の福祉の実現とクオリティオブライスの向上にも有効であることが分かった.6) 在宅診療・公衆衛生看護を中心とする筋・神経系疾患に対する在宅ケアシステムは東京都立神経病院を中核として, 関係者の協同努力によって, 開発されたものである.このシステムは, 他の慢性, 進行性疾患や寝たきり老人および重度身体障害者に対しても, 筋・神経系疾患と同様に, その有効性を認められることは重要である.