抄録
唇裂術後瘢痕の病態を明らかにするため, 口唇裂患者184名 (片側139名, 両側45名) 229例の唇裂第1次手術後に生じた上口唇癒痕について, 臨床的にケロイド発生の観察を行った.調査結果は, 両側唇裂例の方が片側唇裂例より多くケロイドを発生し, 片側唇裂例では右唇裂例の方が左唇裂例より発生が多い.片側唇裂例では不完全唇裂例に多く発生が見られ, 両側唇裂例では完全唇裂例と不完全唇裂例には差異はない.口蓋裂合併の有無による比較では, 片側唇裂例では差異はないが, 両側唇裂例では口蓋裂合併例の方が発生が多い.性差は見られなかった.術者経験年数別の調査発生によると, 形成外科入局4年次~6年次の術者による症例に多く発生が見られた.発生部位別では鼻孔底部 (横) が約50%を占め, 赤唇部は0%, 小三角弁部は1%, 人中稜に当たる部分は約23%鼻孔底部 (縦) は27%であった.ケロイド予防の目的での軟X線照射はケロイド発生率には差は見られず, 症例の選択にも問題はあろうが軟X線照射の効果は唇裂第1次手術後のケロイド発生予防に対しては否定的であった.