抄録
急性心筋梗塞において心電図上の異常Q波出現は診断上最も重要である.その出現する時間は個々の症例で異なるが, われわれは標準12誘導における異常Q波の出現時間に注目し, 発症後4時間以内にCCUに収容した急性貫壁性心筋梗塞107例について, 早期出現群 (E群: 前壁梗塞4時間未満, 下壁梗塞7時間未満) と晩期出現群 (L群: 前壁梗塞4時間以上, 下壁梗塞7時間以上) の2群に分け, 心筋梗塞の発症機転, 梗塞病態について比較検討した.〔心筋梗塞発症機転〕梗塞前狭心症, 特に1か月以上の長い既往を有する例がL群に有意に多かった (P<0.05) .梗塞前狭心症が不安定狭心症のタイプを示したなかではchanging patternがL群に有意に多く (P<0.05) , new angina of effortがE群に有意に多かった (P<0.01) .発症時胸痛程度はE群に強い傾向を認めた.12誘導中最大のST上昇度は前壁, 下壁梗塞ともE群が有意に高かった (P<0.05) .冠動脈所見では多枝疾患をL群に多く認めたが有意差はなかった.〔梗塞病態〕心筋逸脱酵素のピーク値ではGOT値, 総CK値は前壁梗塞, 下壁梗塞ともE群に有意に高値であった (P<0.05) .Swan-Ganzカテーテルを用いた入院時血行動態では, L群において心係数 (CI) と一同心仕事係数 (SWI) が高く, 肺動脈楔入圧 (PCWP) が低かった.特にCI, SWIは前壁梗塞において, PCWPは前壁下壁梗塞両方において有意であった (P<0.05) .慢性期左室造影による左室駆出率はL群において高値で, 特に下壁梗塞では有意差を認めた (P<0.05) .入院時のKillip分類による重症度はC-III, C-rvが多少E群に多かったが, 有意差は認めなかった.不整脈では心房粗細動・上室性頻拍症や心室頻拍・心室細動の合併がE群において高率であった.急性期死亡率はややE群に多いが, 有意差はなかった.死因ではE群に心破裂が多かった.以上のように, L群はE群に比し梗塞量が少なく, 心機能が良好であり, 異常Q波の出現時間により梗塞病態の推測が可能であり, 臨床上有用な指標と思われた.異常Q波の出現が遅れる因子として側副血行等の心筋防御機構の発達が推測された.