昭和医学会雑誌
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進行大腸癌におけるLamininの免疫組織学的研究
―特に原発巣のLaminin染色性ならびに静脈侵襲と肝転移の関連について―
佐藤 徹
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1992 年 52 巻 2 号 p. 178-189

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抄録
大腸癌における肝転移は, 予後を規定する重要な因子である.細胞間接着基質としてのLaminin (LN) は, 近年肝転移との関連が注目されている.今回, LNの免疫組織学的研究を行い, 原発巣, 静脈侵襲内癌組織 (vLN) , 血行性転移巣のLNの染色性と癌の浸潤, 転移との関連について検討した.さらに, Victria Blue-LN重染色 (VB-LN重染色) を用いて, LNの染色性と静脈侵襲の両面から大腸癌の肝転移について検索し, その特徴を明らかにすることを試みた.対象は進行大腸癌切除症例93例で, 同時性肝転移を認めたもの (H (+) 群) は22例, 認めないもの (H (-) 群) は71例であった.10%ホルマリン固定切片を用いて, LNの免疫組織学的染色 (ABC法) ならびにVB-LN重染色を行った.原発巣のLN陽性率は全体で51.6%で, LN染色とVB-LN重染色のLN染色性に差を認めなかった.肝転移の有無別にみたLN陽性率は, H (+) 群が77.3%で, H (-) 群の43.7%に対して, 有意に高率であった (P<0.01) .原発巣のLN染色性と肉眼型, 組織型, 深達度, v, ly, n, stageとは明らかな相関を認めなかった.vLN陽性率もH (+) 群54.5%, H (-) 群8.2%とH (+) 群で有意に高かった (P<0.01) .また原発巣のLN染色性とvLNは正の相関関係を認めた.同時性肝転移陽性率は, 原発巣のLN陽性例では35.4%, vLN陽性例63.2%であった.これらを静脈侵襲と同時に検討した結果, v2以上で原発巣のLNまたはvLNが陽性のものにおいて, 80%以上の高い陽性率を示した.静脈侵襲部位別には, ssv (+) 例に肝転移を多く認めたが, この中で原発巣のLNおよびvLNが陽性のものの肝転移率はそれぞれ68.0%, 70.6%で, 陰性の19.0%, 31.0%に比べ, ともに有意に高率であった (P<0.05) .以上より, 原発巣のLNまたはvLNが陽性の症例は, 肝転移のhigh risk groupと考えられた.さらにLN染色性と静脈侵襲の同時検討は, 肝転移の予知因子として有用であることが示唆された.また, VB-LN重染色はLNの染色性に影響を与えず, 静脈侵襲の判定が容易であり, 肝転移に相関する原発巣のLNやvLNが, 同一切片で検討することが可能であり, 有用な染色法であると思われた.
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