我々は, 雑種成犬を対象に, Dibutyryl cyclic AMP (DBcAMP) 0.6mg・kg
-1・min
-1を120分間持続投与し, 呼吸循環器系, 内分泌代謝系に対する影響を検討した.各パラメータの測定は, DBcAMP投与前を対照値 (S
0) とし, 投与60分後 (S
1) , 120分後 (S
2) , 投与中止60分後 (S
3) の合計4点で行った.その結果, 循環器系には, S
0に対し, S
2で心拍数122.2±4.2%, 心係数116.9±13.7%, LVdp/dtmax199.3±25.0%と有意に上昇し, 体血管抵抗は, 63.9±6.6%と有意に低下した.しかし, S
3では, ほぼ対照値まで回復し, 作用消失は比較的短時間であることが認められた.呼吸器系では, PaO
2及びシャント率ともに有意差はなく, 肺循環系にも, 大きな影響を認めなかった.しかし, pHは, S
1以降で, 有意に低下し, BEの有意な低下が主な原因と考えられた.内分泌系では, S
0に対しS
2で, アドレナリンは約10倍, ノルアドレナリンは約4倍, レニン活性は1.7倍と有意に増加した.これらの著明な増加にも関わらず, 体血管抵抗は低下し, 心拍出量は増加するなど, 循環動態は良好に保たれた.この効果は, これらのホルモンの増加に比べて, DBcAMPが直接血管平滑筋を弛緩させたためと考えられる.ホルモン増加の原因としては, DBcAMPによる副腎髄質及び腎臓の傍糸球体装置への直接作用が考えられる.糖代謝においては, S
0に対し, S
2で血糖は153.2±31.1%と有意に増加し, さらに, インスリンは約6倍, グルカゴンは約5倍, I/G比は約4倍と著明な増加を示した.一方, NEFAは約0.6倍と有意な低下を認めた.このように, DBcAMPは, 血糖値を増加するだけではなく, I/G比の増加, 遊離脂肪酸の低下などエネルギー代謝を糖利用を中心とした生理的な方向へ転換することが考えられた.インスリン, グルカゴンの増加はDBcAMPの直接刺激と思われる.乳酸値およびL/P比には, 大きな変動は認められず, DBcAMP投与中は末梢循環は良好に保たれていることが示唆された.
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