2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S16
大動脈は,エラスチンやコラーゲンなどの比較的弾性率の高い物質や,比較的弾性率の低い平滑筋細胞成分から成る.脈圧により円周方向に繰返し伸び縮みし,大動脈内部で主に円周方向に配向する平滑筋細胞にもこの刺激が負荷されている.この刺激への応答を調べるため,in vitroで薄いシリコーン膜上に血管平滑筋細胞を播種して単軸引張負荷する試験が行われてきた.しかし,平滑筋細胞は,弾性率の異なる物質が不均質に分布する複合材料内で3次元的に存在しており,実際にどのような変形が平滑筋細胞に負荷されるのかは不明である.そこで,内圧負荷時の大動脈組織の変形量を3次元的かつ細胞スケールで計測することとした.マウス大動脈の弾性板の自家蛍光を多光子顕微鏡で観察することとし,弾性板各層の一部にマーカを付与して大動脈壁局所の3次元ひずみを計測した.その結果,想定されてきた様に,加圧により円周方向の垂直ひずみが生じ,軸方向ひずみはほぼ0であった.しかし,興味深いことに,円周-半径方向面内にせん断ひずみが生じた.このような変形は,生理的な脈圧による変形で得られており,組織内平滑筋細胞の通常の力学環境は単純な単軸引張ではなく,複雑であることが示された.