2018 年 21 巻 3 号 p. 43-56
2010年代のアジアにおける小売近代化は,新興国の地場系チェーンストアの台頭や電子商取引の発展により,かつてよりも複雑な様相を見せている。このような新しい流通環境のもとで採るべき流通チャネル戦略について,本稿では花王のタイ,インドネシア,中国子会社の事例研究を通じて考察した。その結果,チャネルの統合度と幅広さのバランスが依然として重要であり,花王は日本国内では販社制により両者のバランスの取れたチャネルを構築することができたが,アジアでの販社に類似する小売直取引チャネルでは,幅広い卸の参加を巻き込んだプロセスがなかったため,店舗数の幅広さに欠けるチャネルとなっていたことを明らかにした。ただし,モダントレード化の一層の進展によって統合型チャネルの欠点は補われる可能性があり,また,トラディショナルトレードの取引先開拓の上で販売管理技術の標準化が有効性を持つという示唆も得られた。