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対日ギルトと好況感が輸入製品態度へ及ぼす影響―台湾,中国の消費者を対象に―
寺﨑 新一郎古川 裕康
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2020 年 4 巻 1 号 p. 17-23

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Abstract

本研究はグローバル・マーケティングで等閑視されてきた,自国の産業や雇用保護の観点から国内製品よりも輸入製品を選択することで生じる消費者のギルト(guilt)に注目し,それが日本からの輸入製品態度に及ぼす影響や好況感による調整効果について,台湾および中国の消費者を対象に検証を行った。検証結果から,好況感とギルトは輸入製品への態度にそれぞれ正負の影響を及ぼし,好況感の調整効果は台湾においてのみ観測された。また,輸出先の国家や地域の消費者が足元の経済状況を大変良好だと知覚している場合,ギルトの度合いをあまり気にせずにマーケティング活動を行うことが可能なことが示唆された。

1  はじめに

1990年代以降,交通網の発達や中産階級の増加,ウェブ環境の整備と高速化などによって,グローバル化が急速に進展している傍ら,2000年代に入ると同時多発テロ(2001年)やリーマン=ショック(2008年)を端緒に,反グローバリズム的な思考や行動にも関心が高まってきた(寺﨑,2019)。こうしたなか,米国や中国,欧州連合加盟国といった大国間で貿易摩擦による保護主義的な動きが活発化し,実際に多くの民衆によって支持されることで,少なからず輸入製品への態度にネガティブな影響を及ぼしている。

一方グローバル・マーケティングでは,このような経済的な対立よりも,2国間の歴史問題に代表される社会的な対立が多く扱われてきたことから(e.g. Lee & Lee, 2013李,2015Harmeling, Magnusson, & Singh, 2015),既存研究では消費者によって知覚された国内の経済的な状況(以下,好況感)は十分に考慮されてこなかった。戦争や領土問題といった社会的な対立よりも経済的な対立の方が流動的なことを鑑みると,その調整効果に注目することでグローバルな消費者行動をより柔軟に説明できる可能性がある。

本研究では,自国の産業や雇用保護の観点から,国内製品よりも輸入製品を選択することで生じる消費者のギルト(guilt)に注目し,それが日本からの輸入製品態度に及ぼす影響や好況感による両変数間の調整効果について,台湾および中国の消費者を対象に検証を行った。ディスカッションでは主たる検証結果に加えて,デモグラフィック変数の果たす役割についても考察したのち,当該研究領域における今後の研究機会を示した。

2  理論的背景と仮説の設定

2.1  輸入製品に対するギルトの効果

リーマン・ショック以降,米中貿易摩擦を始めとして,新興国による先進国への経済的な影響力の拡大が顕著になってきた。新興国はもはや先進国にとって経済的にマージナルな存在ではなく,競合する産業や製品間で激しいシェア争いが続いている。こうした国境を越えた競争のなかで,消費者は輸入製品を購入することに対してギルト(罪)を感じさせられており,愛国的な広告は輸入製品よりも国内製品を選択するよう煽動している(Sharma, Shimp, & Shin, 1994)。従来,マーケティング研究では消費者エスノセントリズム(Shimp, 1984)と輸入製品への態度との関係性が検討されることが多かったが,本研究ではこれまであまり取り扱われてこなかったギルトに着目する。

ギルトは,社会によって一般的に好ましくないと考えられている行動に対して生起し,自らの内的な基準に背いた場合に自尊心を低めることが指摘されている(Burnett & Lunsford, 1994)。ギルトの対象は1.環境問題や社会問題など,将来予見できることに対するもの(予期的ギルト,anticipatory guilt),2.自らの健康問題など本人が現在直面している問題に対するもの(reactive guilt,反応的ギルト),3.自分と他人を比較した際のギャップを埋めようとするもの(実存的ギルト,existential guilt)に分類される(Haynes & Podobsky, 2016)。本稿は1.に関連した研究であることから,国内よりも国外製品を選ぶという行為から予見される,自国経済へのダメージに対する後ろめたさをギルトと定義し,輸入製品に対するギルトの効果を検証していく。

先行研究において,ギルトは消費者の自己制御が求められる場面で生じることが多くの研究で支持されてきた(Antonetti & Baines, 2015)。こうした場面を包括的に取り扱ったHaynes and Podobsky(2016)では,環境や健康,恵まれない人々に配慮したギルト・フリーな製品が,消費者の購買意図にプラスに働くこと,環境に配慮した製品はその他のギルト・フリーな製品と比べて,効果的でないことなどが示されている。また,ぜいたく品の顕示的消費はギルトを増大させるという(Ki, Lee, & Kim, 2017)。

さらに近年の傾向として,エシカルな消費者とギルトとの関係性を検討した論文が多くみられ,とりわけフェアトレード(fair-trade)やコーズ・リレーテッド・マーケティング(cause-related marketing, CRM)を題材とした研究が散見される。例えば,本稿と同様に予期的ギルトを扱ったHwang and Kim(2018)では,非フェアトレード・コーヒーを選んだ場合に生じるギルトがエンパシー(empathy)を媒介してフェアトレード・コーヒーの再購買意図や自己実現欲求を高めること,Müller, Mazar, and Fries(2016)ではCRMがオーガニックあるいは一般的なコーヒーかといった製品選択に与える影響はギルトによって媒介されることなどが実証されている。

こうしたなか,ギルトを2国間の関係性といった視点から議論した研究は李(2011)以外にあまり見当たらない。李(2011)では,韓国消費者による日本製品への態度のコンテクストから,過去または現在の軍事的,政治・経済的な対立より生じた相手国への敵対心を意味する消費者アニモシティ(consumer animosity)(Klein, Ettenson, & Morris, 1998)がギルトの先行要因としてポジティブに働くことが示されている。しかしながら,李(2011)ではギルトが輸入製品への態度に及ぼす影響については検証されていない。消費者はアニモシティといった相手国への敵対的な感情だけでなく,自らの行動が将来の自国経済に及ぼすネガティブな影響について予見し,後ろめたさを感じる可能性を踏まえると,ギルトは輸入製品への態度をネガティブに導くものと推測される。したがって,以下の仮説を提示する。

仮説1:ギルトが高い消費者ほど,輸入製品への態度がネガティブになる。

2.2  消費者の好況感

本稿では,消費者によって知覚された直近1年間の経済状況の変化を好況感として概念化し,好況感がギルトと輸入製品への態度との間を調整する可能性についても併せて検討する。人々の景気に対する捉え方は一般的に景況感と表されることが多いが,それにはネガティブなものも含まれる。本稿では景気に対して抱くポジティブな側面に焦点を当て議論を進めることで,景気に対するポジティブな所感が,ギルトのもたらすネガティブな影響をいかに抑制するかについて検証していく。

好況感に着目した背景には,近年の東アジアにみられる急速な経済状況の変化が挙げられる。調査対象とした台湾と中国は,従来日本の得意としてきたエレクトロニクス製品や化学品の領域で高い国際競争力を有する一方で,これらの製品はグローバルな経済動向に左右され易く,需給の浮き沈みも激しいことから,消費者の好況感もこうした変化に敏感なものと推察される。特に,台湾は内需が限られることや島国であることから,これまでグローバル・マーケティングで主な調査対象となってきた欧米諸国と比べて(Nadiri & Tümer, 2010),外需の動向がもたらす経済状況の変化が消費者行動に反映され易いと考えられる。なお,北キプロス(Nadiri & Tümer, 2010)やモロッコ(Hamelin, Ellouzi, & Canterbury, 2011)といった,台湾と類似した状況下の消費者を扱った研究もあるが,異なる調査対象で先行研究を追試するに留まっており,昨今のダイナミックな経済状況の変化に注目した研究はみられない。

著者らによるサーベイの結果,好況感と輸入製品への態度との関係性をダイレクトに検証した論文は見当たらなかったが,類似のテーマを扱った先行研究では,国際競争から消費者によって知覚された経済的な脅威が,輸入製品への態度にネガティブに働くことや(Sharma et al., 1994Durvasula & Lysonski, 2006),消費者は所得が高くなるほど国内製品よりも輸入製品の方をより好ましく評価する傾向があることなどが明らかになっている(Wall & Heslop, 1986)。こうした知見を踏まえると,消費者によって足元の経済が好ましく知覚された,つまり好況感が高い場合,経済的な脅威が低まり,輸入製品への態度はポジティブになると考えられる。加えて,一般的に所得と好況感は正の相関を描くことから,好況感が高くなるほど輸入製品への態度も好ましくなると推測される。以上の議論から,以下の仮説を提示する。

仮説2:消費者の好況感が高まるほど,輸入製品への態度がポジティブになる。

2.3  ギルトと好況感との関係性

ギルトがグローバルな競争という,経済的な脅威から生じることを鑑みると,ギルトが輸入製品への態度に及ぼす影響は好況感によって調整される可能性がある。Obermiller and Spangenberg(1989)によれば,カントリー・オブ・オリジンに関する情報は認知的,感情的,規範的のいずれかのルートを経由して情報処理されるという。本稿で取り扱うギルトは,社会によって一般的に好ましくないと考えられている行動に対して生じるものであり,モラル的な側面により導かれる規範的なルートで情報処理されると考えられる。したがって好況感が低いとき,経済的な脅威からギルトが高くなるほど輸入製品に対してネガティブな評価を下すものと予想される。一方で好況感が高いとき,ギルトの影響が抑制されることで輸入製品への態度に変化は生じない可能性があるだろう。以上から,次の仮説を設定する。

仮説3a:消費者の好況感が低いとき,ギルトが高くなるほど輸入製品への態度はネガティブになる。

仮説3b:消費者の好況感が高いとき,ギルトが高まったとしても輸入製品への態度に変化はみられない。

仮説3をリサーチ・モデルとして整理したのが図1である。次章以降では仮説1から3について台湾および中国の一般消費者を対象に検証していく。

図1.

仮説3のリサーチ・モデル

3  調査概要

被験者は台湾ならびに中国の調査会社が所有する消費者パネルからランダムに抽出され,台湾と中国からそれぞれ206名分の回答がインターネットを経由して集められた(台湾:女性55.3%,平均年齢34.6歳,中国:女性46.6%,平均年齢36.8歳)。質問項目は専門業者によって北京語(中国版:簡体字/台湾版:繁体字)に翻訳されたのち,著者らによって原文と齟齬がないか確認したうえで,最終版を作成した。

測定尺度は好況感を除いて先行研究から採用し,各質問項目に対して7段階のリッカート尺度で回答してもらった。ギルトは「もし[台湾/中国]製品よりも日本製品を選んだとしたら,私は罪を感じてしまうだろう」(如果我选购日本商品而舍弃中国商品,我会感到内疚/如果我選購日本商品而捨棄台灣商品,我會感到内疚)(簡体字/繁体字の順に表記,以下同様)というNijssen and Douglas(2004)の尺度を,輸入製品への態度は「私は日本からのより多くの輸入製品を喜んで受け入れるだろう」(我乐于见到更多日本商品进口/我樂於見到更多日本商品進口)というChan, Chan, and Leung(2010)の尺度をそれぞれ採用した(1=まったく同意しない~7=非常に同意する)(1=非常不同意~7=非常同意)。一方,好況感は「1年前と比較した国内の経済状況を評価してください」(请评估一下相对于1年前的国家经济情况/請評估一下相對於1年前的國家經濟情況)という,著者らが独自に開発した尺度で測定された(1=より悪くなった~7=より良くなった)(1=更坏~7=更好/1=更壞~7=更好)。

台湾と中国を調査対象とした理由は,ともに日本との関わりが深い一方で,歴史的な経緯からそれぞれが現地の製品よりも日本製品を選択することに対して抱くギルトに差があると推測されるからである。そこで,収集されたデータを用いて対応のないt検定を行ったところ,台湾(MTaiwan = 2.757,SD = 1.577)と中国(MChina = 3.403,SD = 1.678)の間でギルトの値に有意な差が認められ(t(205) = 4.253,p < .001),台湾よりも中国の消費者の方が国内製品ではなく日本製品を選ぶことに対してギルトを抱く傾向が示された。また,本研究では,調査対象とする製品カテゴリーやブランドはあえて設定せず,シンプルに「日本からの輸入製品」とすることで,発見事実の一般化を図ることにした。

4  分析結果

まず,台湾の消費者を対象に輸入製品への態度を従属変数,ギルト,好況感およびそれらの交互作用項を独立変数とした重回帰分析を実施した(表1)。連続変数間の交互作用を検討するため,全ての連続変数について観測値から平均値を減じて中心化し(Aiken & West, 1991),独立変数と交互作用項の相関が小さくなるよう処置した。そのうえで,分散拡大係数(variance inflation factor:VIF)を確認したところ,早川(1986)の示した10を下回ったことから,多重共線性は問題にならないことが確認された(VIFhighest = 1.076)1)。なお,デモグラフィック変数が従属変数に及ぼす影響を統制するべく,年齢,性別(0=男性,1=女性),教育水準(0=大学在学未満,1=大学在学以上),訪日旅行経験2)(0 = 0回~1回,1 = 2回以上)をコントロール変数としてモデルに投入した。

表1. 分析結果
独立変数 台湾 中国
MSD Bs.e. t MSD Bs.e. t
主効果項
ギルト 2.​757(1.577) −.​196**(.067) −2.​936 3.​403(1.678) −.​235***(.061) −3.​845
好況感 3.​670(1.520) .​133†(.070) 1.​910 5.​078(1.235) .​232*(.109) 2.​128
交互作用項
ギルト×好況感 .​097*(.042) 2.​288 −.​046(.047) −.​978
コントロール変数
年齢 34.​583(10.456) −.​017†(.010) −1.​709 36.​748(9.493) −.​018(.011) −1.​614
性別 −.​248(.209) −1.​182 .​260(.203) 1.​282
教育水準 −.​246(.292) −.​845 −.​435(.355) −1.​225
訪日旅行経験 .​472*(.211) 2.​242 .​892***(.217) 4.​118
定数 .​038(.312) .​1207 .​386(.376) 1.​026
F 3.​908*** 6.​622***
R2 .​121 .​190

***p < .001,**p < .01,*p < .05,†p < .10,両側検定。

性別:0=男性(台湾:44.7%/中国:53.4%),1=女性(台湾:55.3%/中国:46.6%)

教育水準:0=大学在学未満(台湾:15.0%/中国:9.2%),1=大学在学以上(台湾:85.0%/中国:90.8%)

訪日旅行経験:0 = 0回~1回(台湾:40.8%/中国:66.0%),1 = 2回以上(台湾:59.3%/中国:34.0%)

リサーチ・モデルのF値が0.1%水準で有意となったため(F(7, 198) = 3.908,p < .001;R2 = .121),それぞれの効果をみてみると,ギルトの主効果が有意となり(B = −.196,s.e = .067,t = −2.936,p = .004),ギルトは輸入製品への態度にネガティブに働いていた(仮説1の支持)。さらに,好況感の主効果が10%水準で有意となり(B = .133,s.e = .070,t = 1.910,p = .058),好況感は輸入製品への態度にポジティブな影響を及ぼしていた(仮説2の支持)。

コントロール変数に関しては,性別と教育水準の主効果は有意でなかった一方で(ps > .2),訪日旅行経験(B = .472,s.e = .211,t = 2.242,p = .026)と年齢(B = −.017,s.e = .010,t = −1.709,p = .089)はそれぞれ従属変数に対して正負の影響を及ぼしていた。

さらに,ギルト×好況感の交互作用項が有意となったことから(B = .097,s.e = .042,t = 2.288,p = .023),ギルトが輸入製品への態度に及ぼす影響は好況感の度合いによって異なることが示唆された。こうした関係性を詳細に検討するため,Aiken and West(1991)にならい,好況感の平均値から標準偏差を加減した値(±1SD)を基準に単純傾き分析3)(simple slope analysis)による下位検定を実施し,好況感の値が高い消費者と好況感の値の低い消費者におけるギルトの効果を探った。

単純傾きの検定結果から,好況感が低いとき(平均値−1SD),ギルトの単純傾きの推定値は有意となった(B = −.343,s.e = .098,t = −3.510,p = .001)。したがって好況感が低いとき,輸入製品への態度に与えるギルトのネガティブな効果はより大きくなることが示された(仮説3aの支持)。対照的に,好況感が高いとき(+1SD),ギルトの単純傾きの推定値は有意でなく(B = −.049,s.e = .087,t = −.557,p = .578),輸入製品への態度に変化は確認できなかった(仮説3bの支持)。

続いて,中国の消費者を対象に台湾と同様のモデルを用いて重回帰分析を実施した(表1)。台湾のときと同じく,全ての変数は中心化され,VIFは問題のない値に収まっていることが確認された(VIFhighest = 1.829)。モデルのF値が0.1%水準で有意となったため(F(7, 198) = 6.622,p < .001;R2 = .190),それぞれの効果をみてみると,ギルトの主効果が有意となり(B = −.235,s.e = .061,t = −3.845,p < .01),ギルトは輸入製品への態度にネガティブに働いていた(仮説1の支持)。さらに,好況感の主効果も有意となり(B = .232,s.e = .109,t = 2.128,p = .035),好況感は輸入製品への態度にポジティブな影響を及ぼしていた(仮説2の支持)。

コントロール変数については,年齢,性別,教育水準の主効果は全て有意でなく(ps > .1),訪日旅行経験の主効果のみが有意であった(B = .892,s.e = .217,t = 4.118,p < .001)。ギルト×好況感の交互作用項の主効果は有意な結果が得られず(B = −.046,s.e = .047,t = −.978,p > .3),台湾の場合と違い好況感の度合いによってギルトが輸入製品への態度に及ぼす影響はみられなかった(仮説3a,同bの不支持)。

ここで,台湾と中国の結果を振り返ってみると,好況感とギルトは日本からの輸入製品への態度にそれぞれ正負の影響を及ぼしており,好況感とギルトとの交互作用は台湾の消費者において想定していた方向で認められたことから,全体としては仮説支持的な結果が得られたと考えている。

5  ディスカッションおよび今後の課題

本研究では2国間の関係性といったグローバル・マーケティングの観点から,ギルトと輸入製品への態度,その調整要因としての好況感に着目し,台湾と中国の消費者を対象に関係性を検証した。分析結果から,好況感とギルトは輸入製品への態度にそれぞれ正負の影響を及ぼし,好況感の調整効果は台湾においてのみ観測された。

仮説3について台湾では好況感が低いとき,ギルトが高くなるほど輸入製品への態度はネガティブに調整された一方で,好況感が高いときはギルトが高まっても輸入製品への態度は変化しなかった。すなわち,足元の経済状況が良好だと知覚されていた場合,台湾製品よりも日本製品を選択することへのギルトが高い消費者であっても,輸入製品に対する態度は変わらないことが示唆された。

対照的に,中国ではギルトと好況感の交互作用項が有意でなく,好況感によるギルトと輸入製品への態度の調整効果はみられなかった。考えられる理由としては,「国内の経済状況が改善している」と答えた人が,傾向として台湾よりも中国の消費者に多く,好況感が輸入製品への態度に及ぼす影響が過大であったことから,好況感とギルトの交互作用が確認できなかったものと推測される。

こうした好況感に対する認識の違いを詳細に探るため,対応のないt検定を実施したところ,台湾(MTaiwan = 3.670,SD = 1.520)と中国(MChina = 5.078,SD = 1.235)の間で好況感の値に有意な差が認められ(t(205) = −10.320,p < .001),台湾よりも中国の方が国内の経済状況をポジティブに知覚している消費者が多い傾向にあった。この結果について日本の大学で経営学を学ぶ中国人留学生2名にインタビュー調査を行ったところ,中国国内では年々経済的に豊かになっているという認識が一般的であるといい,本研究で示された結果と一致したコメントが得られた。

中国の消費者では想定された交互作用が確認できなかったとはいえ,興味深い示唆が得られたものと考えている。それは輸出先の国家や地域の消費者が足元の経済状況を非常に良好だと知覚している場合,ギルトの度合いをあまり気にする必要がないことが示唆された点である。先行研究では,概念間の理論的な関係性を精緻にみるために,国内の経済状況といった,経時的な変化を観測する変数はあえて取り扱ってこなかったようにみえる。しかしながら,現実的な視点として,知覚された国内の経済状況が輸入製品への態度に及ぼす影響を等閑視することは難しく,本研究は先行研究で検討されていなかったこうしたギャップを埋める結果となったといえよう。なお,輸入製品としてどのような製品カテゴリーが想起されたかは本研究では問うていない。近年,アジア系の観光客からは電化製品よりも日用品や化粧品の方が人気を集めていることから,こうした製品カテゴリーを対象に本研究を追試してみるのも一考である。

次に,コントロール変数の主効果について議論していく。まず,訪日旅行経験は台湾,中国ともに輸入製品への態度に有意かつポジティブな影響を及ぼしていた。日本製品を購入する動機として,訪日経験が大きく寄与しているとの指摘があり(木村,2019),本研究はこうした報告に対して支持的な結果を示している。近年みられる訪日外国人の顕著な増加に鑑みると,日本製品の輸出を促すにあたって,インバウンド観光が果たす役割はますます大きくなっていくものと予測される(池上,2019)。ただし,本研究ではシンプルに訪日旅行経験をたずねてコード化した変数をもとに検討したことから,訪日経験がどちらかというとネガティブであった場合でも,日本からの輸入製品に対して好ましい態度が形成されるかどうかは分からず,今後の検討課題といえるだろう。

次に年齢に関して,中国の消費者の場合,p値が0.1をわずかに上回っていたが(B = −.018,s.e = .011,t = −1.614,p = .108),台湾の消費者のときには年齢の主効果は10%水準で有意となり(B = −.017,s.e = .010,t = −1.709,p = .089),年齢が高くなるほど輸入製品への態度がネガティブになっていた。年齢と外国や異文化に対する寛容さが負の相関を描くことや(Cleveland, Laroche, & Papadopoulos, 2009Riefler, Diamantopoulos, & Siguaw, 2012),お年寄りは若者と比べて保守的かつ愛国的な人が多いことを踏まえると(Han, 1988),年齢を重ねるにつれ国外製品に対して保守的な態度を取るようになるのも説明がつきそうである。台湾は世界的にみて最も少子高齢化が進んでおり(西下,2017),中国も1979年から2015年まで続いた1人っ子政策によって,人口構成に占める高齢者の割合は年々高まってきている(楠本,2019)。ゆえに,少子高齢化の進む台湾や中国において,輸入製品への態度をどのようにポジティブなものにしていけるかは,今後の課題となってくるだろう。

1)  VIFが5程度であっても,標準誤差が大きくなることで解釈が難しくなる場合もあるが(清水・荘島,2017),本研究のVIFは5を大きく下回っており,多重共線性は心配ないものと判断した。

2)  訪日旅行経験は0 = 0回~1回(台湾:40.8%/中国:66.0%),1 = 2回以上(台湾:59.3%/中国:34.0%)のようにリピーターか否かでコーディングした。

3)  単純「傾斜」という表記もあるが,「訳語としても本来の意味からしても傾きの方が適当」(p. 119)という清水・荘島(2017)にならい,単純「傾き」とした。

参考文献
 
© 2020 日本商業学会
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