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査読論文
日本におけるプライベートブランド市場拡大の可能性~食品表示法による製造者表示の運用厳格化に着目して
神谷 渉
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2020 年 4 巻 2 号 p. 33-40

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Abstract

2015年に施行された食品表示法による製造者表示の運用厳格化に着目し,運用厳格化が消費者のPBに対する態度や,PBの購買に与える影響について検討した。その結果,食品表示法によって小売業の食品のPBの製造者の情報開示がなされることで,小売業やPBの信頼度を高め,PBの購入を拡大させる可能性が示唆された。一方で影響の大きさについては,消費者の裏面表示に対する意識が高まらなければ小さなものであることが示唆された。

1  研究の目的

プライベートブランド(PB)は,利益の確保や商品の品揃えの差別化といった目的で様々な小売業が積極的に投入を行っている。日本の食品小売業では,スーパーマーケットやコンビニエンスストアの大手チェーンが展開するPBがリニューアルを繰り返しながら一定のシェアを確保し,定着化している。2000年代後半以降の日本の食品小売業のPBの特徴として,PBの品質や安全性を消費者に理解してもらうことを目的としてPBの共同開発者かつ製造者であるメーカー名を開示する動きがみられた(矢作編,2014,p. 96)。欧米のPBでは,販売者が責任を持ち,製造者の情報を表示しないことで,製造者との守秘義務を履行するという考え方が一般的である。日本でも,欧米のように製造者を表示せず販売者のみを表示するPBが2000年代以前は主流であったが,セブン&アイグループのPBであるセブンプレミアムを嚆矢としてメーカー名を表示する動きが進んだのである。

一方で,食の安全やトレーサビリティに対する消費者の関心の高まりを受け,小売業者による自主的な取り組みではなく,政府の規制によって製造者や製造所に関する表示を厳格化する動きが進展した。食品表示法の制定である。食品表示法によって製造所固有記号の使用が一部の場合を除いて認められなくなった。その結果,2020年4月までの移行期間はあるものの,食品のPBにおいて原則製造者や製造所を表示することとなった。

食品表示法は,前述のような欧米流のPBのあり方を否定することにもつながる一方で,日本におけるPBの独自の発展を促進し,市場拡大に繋がる可能性もある。そこで,本論では食品表示法による製造者表示の運用厳格化が,消費者のPBに対する態度に与える影響や,PBの購買に与える影響について検討する。

2  食品表示法施行前のPBと製造者の表示

欧米のPBでは,販売者である小売業が責任を持つという観点から製造者や製造工場は公表されないのが一般的であり,表示に関する規制も存在しない。日本では,セブン&アイホールディングスによるPBであるセブンプレミアム登場前は欧米的な考え方のもと,一部のカテゴリーや事業者を除き製造者名はパッケージに表示されていなかった。セブン&アイホールディングスは,セブンプレミアム10年を記念した広報WEBサイトにおいて「『セブンプレミアム』は,そのクオリティの証しとしてあえて生産者(製造元)のメーカー名を商品に明記しました。この点も,販売者名だけを表示した従来のPBの常識を打ち破るものでした。」と述べている(セブン&アイホールディングス,2017)。このように日本においてセブンプレミアムが誕生した2007年以前はPBにおいて製造者名を記載することは珍しい取り組みだったことが読み取れる。

PBとしてのセブンプレミアムの成功を受け,その後コンビニ各社がPBを本格導入するようになった。これらのPBでは,セブンプレミアム同様に製造者の表示を行っており,PBにおけるパッケージ裏面での製造者の表示は拡大していった。ただし,食品表示法の制定以前は,イオンのトップバリュなどブランドのポリシーとして製造者の表示を実施しないPBも依然として多く存在していた(中村,2015)。

3  食品表示法と製造者の表示

食品表示法は,食品衛生法,JAS法,健康増進法に分かれていた食品表示の規定を統合し,食品を摂取する際の安全性及び一般消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保することを目的に制定した法律である。2013年6月28日に公布,2015年4月1日より施行された。また,食品表示法に基づく食品表示基準が2015年4月1日に制定された。

製造者の表示について,旧来の法律では,食品衛生法が製造所等(製造者や製造工場の場所に関する情報)の表示を義務付けているが,販売者の表示と製造固有記号を用いることによって,製造所等の表示に代えることが可能であった。そもそも,製造固有記号が認められてきた背景として,次の2つの理由があった。一つは,表示可能面積に制約があり,全ての義務表示事項を表示することが困難な場合(JAS法に基づき表示責任者を販売者とした場合など)があることである。そして,もう一つは製造所ごとに後から記号を入れるだけで済むため,製造者が複数の自社工場で生産する場合や販売者が複数の製造者に製造委託する場合に工場で生産する場合や販売者が複数の製造者に製造委託する場合に,同じ包材を利用することによりコストの削減ができることである。このように,製造所固有記号の利用が認められていたこともあって,特にセブンプレミアム登場以前のPBは「販売者(小売業者)+製造所固有記号」による表示が一般的であった。

食品表示法に基づく食品表示基準で,製造固有記号の運用が厳格化された理由には消費者の情報開示への要望の高まりがある。消費者庁は,制度運用の見直しに対して反対意見も少なからず存在していたにも関わらず「制度本来の趣旨に即した見直しを行う」という点について最終的に見直す姿勢は見せなかった(内閣府消費者委員会食品表示部会,2015)。これは,消費者団体などからの要望に沿うものであったが,これらの団体からは製造所固有記号そのものの廃止を求める声も強かった。最終的には事業者にも配慮する形で製造所固有記号の制度は維持されることとなる一方,製造所固有記号の利用が厳格化される形で食品表示基準が制定されることとなったのである。なお,実際の表示への反映に関しては2020年4月までの猶予期間が設けられた。

4  仮説構築

PBの製造者の表示(manufacture name disclosure)による消費者の態度や行動への影響に関連した既存研究は,米国における食品の表示制度を念頭に置いたFugate(1986)や韓国の消費者を研究対象としたCho, Rha, and Burt(2015)など限られたものとなっている。ただし,前者が消費者問題の立場,後者が消費者行動・ブランド研究の立場と研究の領域が異なっていることもあり,Cho, Rha, and Burt(2015)においてFugate(1986)の引用がないなど,両者の関連性は低く研究が体系化されているとはいえないのが現状である。

米国におけるFugate(1986)の研究は,当時の実務界や政策での関心が高かった製造者の表示について取り上げ,「製造者の情報が開示された場合に,PBの属性に対する消費者の知覚は有意に変化するか」という仮説について実験により検証を行っている。

消費者の情報処理に関する先行研究から,製造者名の表示をパッケージ上で行った場合について,メーカー名の親近度(Familiarity:なじみがある/なじみがない)と情報の表示強度(Intensity:パッケージにおいて目立つ/目立たない)という2つの条件を設定してケーキミックスとケチャップの2カテゴリーにおける消費者のPBの属性(ブランド名の受容度,味,価格など)に対する消費者の知覚について検証した。

まず二元配置分散分析により,2 × 2の条件下で属性の評価に違いがないという帰無仮説を検証した。その結果,属性の評価に違いが生じ,帰無仮説は却下された。次にメーカー名を表示した2 × 2の条件とPBの属性を組み合わせた2カテゴリーの56グループについて,メーカー名を表示しない統制グループとの検定を一元配置分散分析により実施した。メーカー名の表示が属性に与える一般的な規則は見つけられなかったものの,いくつかの属性は有名なメーカーの表示と強調表示が同時になされた場合に影響を受けていることが示された。すなわち,いずれかのPBの属性評価はメーカー名開示の手法によって,大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。Fugateは,これらの結果からカテゴリーや属性による違いは存在するものの,研究の結論として製造者名の表示は消費者の商品選択にバイアスを生じさせる可能性があるとし,規制当局者に向けて製造者の表示について慎重となるような提言を行っている。

次に,Cho, Rha, and Burt(2015)は,政策的にPBの製造者表示が義務付けられている韓国における消費者を対象とした研究を行った。彼らは,製品パッケージが外在的手掛かりとして消費者の意思決定に影響を及ぼすことや,ブランド名が品質の間接的な指標となるといった既存研究を基にモデルを構築している。具体的には,消費者の製造者表示に対する意識(製造者表示を確認しようとする,などの意識)が,製品品質に対する知覚,知覚リスク,価格と価値に対する知覚,行動特性を媒介変数としてPBやNBに対する態度等に影響を与えるというモデルを設定し(図1),パス解析を用いて検証を行った。彼らの研究の結果によると,製造者名表示に対する意識は,財務機能的知覚リスク,価値感度,商品品質の推定(内在的手がかり),商品品質の推定(外在的手掛かり)に正の影響を与え,これらがPBへの態度に正の影響を与えるとしている。ただし,影響の程度は小さいものであったとしている。またPBへの好意的な態度が小売ブランドやストアロイヤルティに強い影響を与えた。一方で,製造者名表示に対する意識が高いと,NBに対する態度に負の影響を与えることも示された。

図1.

Cho, Rha, and Burt(2015)の分析モデル

製造者名の表示に関する既存研究では,製造者名を表示することや製造者名に対する意識によってPBに対する態度や属性の評価に影響があることは示されているものの,必ずしも仮説通りの結果となっておらず,モデルとして十分に確立されているとは言えない。そこで,本研究では,ブランドに対する信頼の概念を導入した新たなモデルを検討する。ブランドに対する信頼(Brand Trust, Brand Credibility)とは,ブランドがブランドの約束を実現できる能力や意志についての消費者の信念と定義され,ブランド態度の認知的構成要素の一つであると位置づけられる(Rajavi, Kushwaha, & Steenkamp, 2019)。ブランドに対する信頼は,ブランドの属性などに対する不確実が高いほどブランド選択への影響が大きくなる(Erdem & Swait, 2004)ことから,製造業者が商品によって異なり,品質などが見えにくく不確実性が高いPBにおいて有用な概念であると考えられる。

本研究では,ブランドに対する信頼が購買等に与える影響について明らかにしたChaudhuri and Holbrook(2001)を参考として,PBに対する信頼が購買ロイヤルティすなわちPBの購入頻度に影響を与えるという仮説を立てる(仮説3)。次に,PBに対する信頼に影響する要素として,PBの製造者開示の度合いの影響があるという仮説を設定する(仮説1a)。なお,ここでのPBの製造者開示の度合いとは,客観的事実ではなく消費者が当該PBの製造者の開示度合いをどのように認識しているかを示す。ブランドに対する信頼に影響を与える要素に関する既存研究は,わずかにRajavi et al.(2019)に見る程度である。このため,製造者や製造所が表記されないと消費者が不安であるといった食品表示法による表示厳格化の根拠となった考え方や,セブンプレミアムがクオリティの証としてメーカー名の表示を行い消費者の支持を受けたという主張などを基に仮説を設定する。さらに,PBに対する信頼に影響する要素として,小売業に対する信頼も影響する仮説を設定する(仮説2)。Collins-Dodd and Lindley(2003),Semeijn, van Riel, and Ambrosini(2004)Liu and Wang(2008)など,小売業や店舗のイメージがPBの態度に影響するとした研究結果から,信頼についてもPB対する小売業の影響は少なくないと想定されるためである。また,仮説2の設定に合わせPBと同様に小売業に対する信頼に影響する要素としてPBの製造者開示の度合いの影響があるという仮説を設定する(仮説1b)。以上の仮説をモデル化したものが図2である。

図2.

分析モデル

なお,モデルの効果は消費者の属性や対象とするPBによって違いが生じることが想定される。そこで,モデルの効果の違いに影響を与えると想定される以下の仮説を設定する。

(仮説4)裏面表示を必ず確認する消費者の方が,裏面表示を確認しない消費者よりも,仮説1の影響力が大きい。裏面表示を確認せず,小売業のブランドやパッケージ表面どから購入の判断をしている場合は,仮説1の影響は小さいことが想定される。

(仮説5)裏面表示のうち,製造者の情報を確認する消費者の方が,製造者の情報を確認しない消費者よりも,仮説1の影響力が大きい。

(仮説6)製造者表示を行っているPBに対する評価と表示を行っていないPBに対する評価を比較した場合,表示を行っているPBでは仮説1が成立するが,表示を行っていないPBでは仮説1は成立しない。調査実施時点(2018年時点)では,前述のとおりセブン&アイホールディングスのセブンプレミアムはメーカー名等の表示を行っているものの,トップバリュは表示を行っておらず1),両者により消費者の態度に違いが生じることが想定される。

5  調査概要

仮説の検証のため,消費者の製造者表示に関する意識を確認する消費者インターネット調査を実施した。対象者は,マーケティングアプリケーションズのパネルで1都3県(神奈川県,千葉県,埼玉県)に在住の20代から60代の女性1202名である。2018年10月に実査を行った。

モデルの変数の測定方法については次のとおりである。まず,「PBの製造者開示の度合い」はPBの銘柄(セブンプレミアム及びトップバリュ)についてパッケージの裏面表示における製造者の開示度合いについて5段階尺度で測定した。「PBの信頼度」については,PBの銘柄(セブンプレミアム及びトップバリュ)に対する信頼度を5段階尺度で測定した。「小売業の信頼度」については,PBの銘柄に対応する食品小売業(イトーヨーカドー及びイオン)に対する信頼度を5段階尺度で測定した。PBの購入頻度については,「週に2回以上購入,週に1回,月に2~3回,月に1回,月1回より少ない」という5段階尺度で測定した。それぞれの設問については5段階尺度に加えて,分析対象者から除外することを意図して「わからない/購入したことがない」という項目を入れている。

上記のほか,調査では「裏面情報の確認頻度」,「確認する裏面情報」,「食品表示法による製造者開示の厳格化に関する認知」,「すべてのPBにおいて製造者開示がなされた場合の自身の行動変化」について調査した。

6  分析結果

6.1  裏面情報の確認頻度

まず,初めて購入するPB商品に対する裏面情報の確認頻度について基本的な集計結果を示す(表1)。新しいPB商品について裏面情報を「必ず確認する」,「時々確認する」を合わせて57%となった一方,「ほとんど確認しない/確認することはない」という回答が19.6%となった。また,裏面情報を確認する人(n = 967)のうち,確認する情報としては,原産国の情報(65.6%),栄養に関する情報(51.1%),添加物に関する情報(43.5%),製造者の情報(36.8%)となった(表2)。

表1. 初めて購入するPB商品の裏面情報の確認頻度
初めて購入するPB商品の裏面情報確認 N %
必ず確認する(毎回) 328 27.3
時々確認する(2,3回に1回) 357 29.7
あまり確認しない(4,5回に1回) 282 23.5
ほとんど確認しない/確認することはない 235 19.6
全体 1202 100.0
表2. 確認する裏面情報の内容
確認する情報 N %
原材料の情報のうち,素材の原産国の情報 634 65.6
栄養に関連する情報 494 51.1
原材料の情報のうち,添加物の情報 421 43.5
製造者の情報 356 36.8
遺伝子組み換えの情報 257 26.6
アレルギーの情報 142 14.7
その他 21 2.2
全体注) 967 100.0

注)初めて購入するPB商品の裏面情報の確認頻度が「ほとんど確認しない/確認することがない」以外の回答者(n = 967)

6.2  セブンプレミアム,トップバリュに対する意識

PB商品の裏面表示を確認する人(ほとんど確認しない/確認することはないと回答した人以外)において「製造者開示の度合い」が高かったのはセブンプレミアムである(表3)。調査を行った2018年10月時点で製造者を開示しているのはセブンプレミアムであり,トップバリュの開示は限定的であった。消費者はある程度その点を認識していることが示された。また,セブンプレミアムの方が,トップバリュよりも信頼性が高い結果となった。ただし,製造者開示の度合い及びPBの信頼度のPB間の差は有意であるものの(p < 0.01),効果量は大きいとは言えなかった(Cohen’s d < 0.5)2)

表3. セブンプレミアム,トップバリュに対する意識(裏面表示確認者)
セブンプレミアム トップバリュ t p Cohen’s d
n 平均 標準偏差 n 平均 標準偏差
PBの信頼度 905 4.133 0.861 843 3.912 0.971 5.007 0.000 0.240
製造者開示度合い 763 3.962 0.926 700 3.760 1.020 3.952 0.000 0.207

6.3  モデル分析結果

全調査対象者のうち,セブンプレミアム,トップバリュ両者に対して回答を行っている495名を対象に分析を行った結果が図3である。モデルの適合度は,GFI = 0.996,AGFI = 0.982,NFI = 0.993,CFI = 0.995,RMSEA = 0.051,AIC = 23.137であった。一般的に,GFI,AGFIが0.95以上,RMSEAが0.06以下であれば適合度が高いとされるため3),モデルとして問題のない水準である。まず,仮説1については,製造者開示の度合いがPBの信頼度と小売業の信頼度双方に影響を及ぼしており仮説が支持された。仮説2についてもPBの信頼度がPBの購入頻度に影響を与えており,支持された。ただし,係数の推定値が0.23と必ずしも高い値ではなかった。仮説3については,小売業の信頼度がPBの信頼度に影響を与えており,支持された。係数の推定値も0.537と相対的に高い。製造者開示の度合いからPBの信頼度に対する間接効果(小売業の信頼度を経由)は,0.25(0.472 × 0.537)であり,一定の効果が存在していることも明らかとなった。

図3.

モデルの分析結果

注)係数の値は標準化係数値

仮説4の検証については,上記モデルを用いて裏面表示の確認頻度別による多母集団の同時分析を実施した。モデルの適合度は,GFI = 0.991,AGFI = 0.957,NFI = 0.985,CFI = 0.992,RMSEA = 0.034,AIC = 81.269であり,問題のない水準といえる。表4は,それぞれの標準化係数をまとめた結果である。製造者開示の度合いがPBの信頼度に最も影響を与える結果となったのが,裏面表示を「必ず確認する」とした回答者であった4)。一方,製造者開示の度合いがPBの信頼に与える間接効果については,裏面表示を「必ず確認する」「時々確認する」とした回答者が影響を与える結果となった。このことから,仮説4についても支持される結果となった。

表4. 表示の確認頻度別多母集団の同時分析によるパス係数
パス 裏面表示の確認頻度
必ず確認 時々確認 あまり確認しない ほとんど確認しない
小売業の信頼度 ←製造者開示度合い 0.526*** 0.427*** 0.386*** 0.575***
PBの信頼度 ←製造者開示度合い 0.432*** 0.295*** 0.228*** 0.29***
PBの信頼度←小売業の信頼度 0.447*** 0.526*** 0.635*** 0.58***
PBの購入頻度 ←PBの信頼度 0.307*** 0.253*** 0.152** 0.2**

*** p < 0.01,** p < 0.05

注)係数の値は標準化係数値

仮説5の検証については,裏面情報として製造者情報を確認するとしたグループとそれ以外のグループで多母集団の同時分析を実施した。モデルの適合度は,GFI = 0.995,AGFI = 0.976,NFI = 0.991,CFI = 0.995,RMSEA = 0.038,AIC = 41.632であり,問題のない水準といえる。表5は,それぞれの標準化係数をまとめた結果である。製造者の情報を確認すると回答しなかった人の方が製造者開示の度合いが小売業とPBの信頼に与える影響が若干大きいが,両者におけるパス係数に有意差は見られなかった。したがって,仮説5は棄却された。

表5. 製造者情報の確認有無別多母集団の同時分析によるパス係数
パス セブンプレミアム トップバリュ 係数の差の検定統計量(z)
小売業の信頼度 ←製造者開示度合い 0.472*** 0.468*** 0.38
PBの信頼度 ←製造者開示度合い 0.337*** 0.299*** −0.246
PBの信頼度 ←小売業の信頼度 0.486*** 0.577*** 2.203**
PBの購入頻度 ←PBの信頼度 0.186*** 0.264*** 0.736

*** p < 0.01,** p < 0.05

注)係数の値は標準化係数値

仮説6の検証については,上記モデルを用いてPB別による多母集団の同時分析を実施した(表6)。モデルの適合度は,GFI = 0.995,AGFI = 0.975,NFI = 0.991,CFI = 0.994,RMSEA = 0.039,AIC = 42.152であり問題のない水準である。トップバリュにおいても,製造者開示の度合いがPB及び小売業の信頼度を高めるという仮説1のパスが有意となっている。また,トップバリュとセブンプレミアムのパス係数に有意差は見られなかった。したがって仮説6は棄却された。製造者の表示を行っていなかったトップバリュにおいてもセブンプレミアムと同様に製造者の開示度合いがPBの信頼度に影響を与えた要因として,消費者はトップバリュの製造者の開示度合いについて,実際の表示の有無に関わらず,販売者が記載されていることや製造固有記号を検索し,製造者の情報が閲覧できることで問題ないもの(すなわち,開示していると感じている)と認識している可能性がある。

表6. PB別多母集団の同時分析によるパス係数
パス 製造者情報を確認すると
回答した人
確認すると
回答しなかった人
係数の差の
検定統計量(z)
小売業の信頼度 ←製造者開示度合い 0.464*** 0.481*** 0.191
PBの信頼度 ←製造者開示度合い 0.298*** 0.329*** −0.648
PBの信頼度 ←小売業の信頼度 0.588*** 0.500*** −1.253
PBの購入頻度 ←PBの信頼度 0.261*** 0.220*** −0.513

*** p < 0.01,** p < 0.05

注)係数の値は標準化係数値

7  結論と実務への示唆

今回の結果をまとめると次のようになる。まず製造者の情報開示度合いが高いと消費者が感じると,PBと小売業に対する信頼度の向上がもたらされる。次に,小売業に対する信頼度の向上は,PBに対する信頼の向上をもたらす。PBに対する信頼度の向上への影響は,製造者の情報開示度合いからの間接効果も小さくない。最終的にPBの信頼度の向上はPBの購入頻度に影響を及ぼす。以上のことから,食品表示法によって小売業の食品のPBの製造者の情報開示がなされることで,PBにおける製造者の情報開示度合いが高いと消費者が感じるようになれば,小売業やPBの信頼度を高め,PBの購入頻度を高める可能性が示唆された。

一方で,製造者情報のパッケージ上の表示について,表示を実施していなかったPB(トップバリュ)と表示を実施していたPB(セブンプレミアム)に対する情報開示の度合いの違いはわずかであったことや,製造者の情報開示度合いからPBの信頼性へのパス係数が高くなかったことなどから,直接的な影響としては必ずしも大きなものではないことが示された。

なお,モデルの適合度は高くモデルを構成する仮説については概ね採択されたことから,信頼の概念を導入することによるモデルの有効性についても確認できた。

以上の結果による実務上の示唆としては次のような点が挙げられる。第一に食品表示法によってPBにおいて製造者の情報が全面的に開示された場合に,PBや小売業の信頼性が高まりPB市場の拡大につながる可能性がある。特に従来開示していなかったPBにおいて,製造者の情報開示度合いへの意識が高まりPB拡大の影響が出てくることが想定される。第二に,影響の効果は,消費者の裏面表示の確認に対する意識や行動に依存するため,普及啓蒙等によって裏面表示に対する意識が高まらなければ大きな影響は出てこない可能性が示唆される。一方で,裏面表示に対する意識が高まることでPBの拡大がより促進される可能性もある。

なお,同じ調査対象者に食品表示法に関連する質問を実施したところ,製造者の表示の厳格化に対する認知は14.4%であり,認知度や関心は低い状況にあることが示された。また,すべてのPBにおいて製造者の開示がなされた場合の自身の行動変化について質問したところ,すべてのPBにおいて製造者等の表示がなされるようになれば製造者の表示を確認するようになると考える人が一定数(38.4%)存在しており,特に現状裏面表示を確認しない人(n = 328)においてはその割合が高かった(63%)。このことから,裏面表示に対する普及啓蒙や認知度の向上がなされれば,裏面表示の確認に対する意識が高まる可能性は小さくないことが示唆される。

8  課題

本研究の課題については,次のとおりである。まず表示される製造者名の信頼度又は認知度による違いについては考慮できていないことである。例えば製造者が無名であれば,PBの信頼性に対して負の影響を与える可能性もある。ただし,実務的な面から補足するならば,大手小売業のPB供給事業者は,大手NBメーカーまたはその関連する企業が比較的多い5)という傾向がみられる。

次に,小売業への信頼とPBへの信頼との関係である。本研究では小売業への信頼がPBへの信頼に影響を与えると想定しモデル構築を行った。一方で,PBへの信頼が小売業への信頼に影響を与えるというパスも存在することが考えられる。例えば,Guenzi et al.(2009)は,顧客の信頼に関する包括的なモデルを提唱し,その中の一つとしてPBに対する信頼が小売業に対する信頼を高めることを示した。双方の影響を考慮したモデルを検討したものの,有効なモデルを構築することができなかったため,改めてこの点を考慮したモデルの検討も必要となるだろう。

1)  セブンプレミアムも厳密には食品表示法の定める形式では必ずしも表示を行っているわけではなかった。例えば販売者を共同開発者の有力NBメーカーとして,製造者や製造所が表示されておらず製造固有記号が用いられている場合も存在していた。ただし,共同開発者であるNBメーカー名が記載されているという点で本研究では製造者を表示しているものとみなした。

2)  Cohen(1988)は,効果量dの大きさを大,中,小に分類し,それぞれ0.2,0.5,0.8を基準値としている。今回の効果量の目安としてこの基準を採用している。

3)  星野・岡田・前田(2005)における先行研究レビューによる。

4)  「必ず確認する」と「時々確認する」「あまり確認しない」「ほとんど確認しない/確認しない」というグループ間における係数の差の検定を行ったこところ,検定統計量は−3.098,−3.857,−2.313であり,それぞれ1%水準,1%水準,5%水準で有意であった。

5)  この点について,PB開発企業の担当者へのヒアリングにおいて(2018年9月実施),PB開発企業としては技術力の面とコストの面から大手NBメーカーに製造を委託できるのであれば委託したいと考えるのが普通であり,大手NBメーカーもPB受託を行うケースが増えているとの見解を得ている。

謝辞

本稿の掲載にあたり,澁谷覚編集長をはじめ2名の匿名のレビュアーの先生方から多くの貴重な指摘をいただいた。ここに記して心よりお礼申し上げたい。

参考文献
 
© 2020 日本商業学会
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