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査読論文
擬人化が自己とブランドの結びつきに及ぼす影響―自尊感情に着目した考察―
芳賀 英明熊野 みき
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2020 年 4 巻 2 号 p. 49-55

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Abstract

擬人化は,製品・ブランドにおける購買行動の決定因として注目が高まっている。近年では,擬人化された製品・ブランドと自己概念の関係性を取り上げた研究もおこなわれている。しかしながら,先行研究では,現段階において独自性の動機づけの高さなどの個人特性に着目するにとどまっている状況である。このため,他の自己概念に関する個人特性については議論の余地があり,まだ実証研究が十分に積み上げられていない段階といえる。本研究では,自己概念の領域で従来から取り上げられることが多く,精度の高い尺度も作成されている自尊感情に注目し,擬人化が自己とブランドの結びつきに及ぼす影響について検討している。本調査の結果,自尊感情の低い消費者は,ブランドが擬人化されていない場合よりも擬人化されている場合に,自己とブランドの結びつきを高く評価することが明らかになった。また,自尊感情の高い消費者では,こうした傾向が見られなかった。

1  はじめに

擬人化(anthropomorphism)は,製品・ブランドについての購買行動の決定因として注目されている概念である(e.g., Aggarwal & McGill, 2007, 2012Puzakova & Aggarwal, 2018)。擬人化とは,製品・ブランドのような人工物に対して,人間のような特性,意図,そして行動などがあると考える傾向のことである(Aggarwal & McGill, 2007, 2012Epley, Waytz, & Cacioppo, 2007)。擬人化が消費者の態度,好み,あるいは選択などに好ましい影響を及ぼすことが繰り返し明らかにされている(e.g., Aggarwal & McGill, 2007, 2012Chen, Wan, & Levy, 2017Puzakova & Aggarwal, 2018)。

近年では,擬人化された製品・ブランドと自己概念の関係性を取り上げた研究はわずかに取り組まれているのみである。自己概念とは,人々が自己について知っている,あるいは信じていることについての総称である(遠藤,2018)。例えばPuzakova and Aggarwal(2018)は,自己概念との関連で,独自性の動機づけの高さといった個人特性に着目して,擬人化がブランドに対する評価に影響を及ぼすかどうかについて明らかにしてきた。しかしながら,他の自己概念に関する個人特性については議論の余地があり,まだ実証研究が十分に積み上げられていない段階といえる。

そこで,本研究では自己概念の領域で従来から取り上げられることが多く,精度の高い尺度も作成されている自尊感情に注目し,擬人化が自己とブランドの結びつきに及ぼす影響について検討する。

2  先行研究のレビュー

製品の擬人化の効果に関する先駆的な研究として,Aggarwal and McGill(2007)を挙げることができる。彼らは,擬人化されていない製品と比べて擬人化された製品が,製品評価を高めるのではないかと考えた。彼らの調査では,被験者に対して一人称でカジュアルな言葉遣いを用いたもの(人間のスキーマ)か,あるいは三人称かつフォーマルな言葉遣いを用いたもの(物のスキーマ)かによって,擬人化の程度を操作した。そして,より馴染みのある“笑った”ように見える「上向きに曲がった自動車のフロントグリル」か,あるいは“怒った”ように見える「下向きに曲がった自動車のフロントグリル」のいずれかを提示した。その上で,被験者に対して自動車を擬人化しやすい度合いや製品評価などを評価してもらった。その結果,人間のスキーマを提示される被験者は,“怒った”ように見える場合と比べて“笑った”ように見える場合に,自動車を人間として見なしがちであり,ポジティブに製品評価をすることが明らかになった。これは,被験者がマーケターの提示した製品を人間として見なすことができるためと説明がなされている。

Landwehr, McGill, and Herrmann(2011)は,Aggarwal and McGill(2007)の研究を進展させ,消費者が“怒った”つり目として見えるような「斜めのヘッドライト(攻撃性)」で,“笑った”口として見えるような「上を向いたフロントグリル(友好性)」の組み合わせを好むことについて確認した。これは,この組み合わせがこの上ない喜びと目覚めについてのポジティブな感情を引き起こすためであると説明がなされている。

ブランドの擬人化の効果に注目した研究も行われている。例えば,Chen, Wan, and Levy(2017)は,人々から仲間外れにされるといった社会的に排除された消費者は,人々から仲間として受け入れられているといった社会的に包摂された消費者と比べて,擬人化されたブランドに対して好みを示すと考えた。彼らの調査では,オンライン上でのサイバーボール課題を通して,対象者をキャッチボールにおいて自分にボールがあまり回ってこない(社会的排除条件)あるいはキャッチボールにおいて自分にボールがたまに回ってくる(社会的包摂条件)のいずれかによって操作した。次に,被験者は,M&Mのキャンディについて考えるよう指示され,その際,擬人化された人間らしさを持ったM&Mと,単に物としてのM&Mのいずれかが割り当てられた。最終的に,ブランド態度および選択の可能性について評価を確認した。その結果,社会的に排除された消費者は,社会的に包摂された消費者と比べて,擬人化されたブランドに対して好ましいという評価を示すことが明らかになった。こうしたことについて,擬人化されたブランドが社会的に排除された消費者の社会的親和性についてのニーズを満たすのに役立つので,社会的排除は擬人化されたブランドに関する消費者の好ましいという評価を増大させると説明がなされている。

ここまで見てきたように,ブランドが人間のようなパーソナリティを持つと操作された擬人化に関する研究の潮流では,擬人化された製品・ブランドと自己との関わりについてあまり議論がなされてこなかった。しかしながら,近年では,擬人化された製品・ブランドと自己概念との関係を取り上げた研究も少なからず存在している。

擬人化された製品と自己概念との関わりについて言及した研究がある。例えば,小野(2019)は,擬人化された製品に関する先駆的な研究として前述したLandwehr, McGill, and Herrmann(2011)について高く評価することができると述べた上で,あらゆる消費者に対して製品の擬人化が「怒った目のような斜めのヘッドライト」と「笑った口のような上を向いたフロントグリル」といった組み合わせのみが存在するという現実的でない状況を暗黙のうちに置いているところの問題点について指摘した。そのため,彼の調査では4種類の目(怒った目/笑った目/怒りや笑っている感じがしない丸い目/怒りや笑っている感じがしない四角の目)×3種類の口(怒った口/笑った口/怒りや笑った感じがしない真っ直ぐの口)の設計,および製品と自己(現実自己/理想自己)のイメージの一致を考慮して分析した。その結果,12種類の擬人化された製品は,それぞれ固有の製品イメージと結びついていることが明らかになった。更に,それらの製品イメージと理想自己についてのイメージとの一致度の高い消費者に,擬人化された製品が好まれることが判明した。

擬人化されたブランドと自己概念との関係を取り上げた研究もある。例えば,Puzakova and Aggarwal(2018)は,独自性の動機が顕著な場合,つまり,自分らしさや個性を表現したいと望んでいる場合,消費者は擬人化されていないブランドと比べて擬人化されたブランドをあまり好ましく評価せず,独自性を表現するために擬人化されたブランドをあまり選択しなくなると考えた。彼らの調査では,ΟΟΟΟΔΟΟのような異なった記号が含まれた配列(独自性条件),あるいはΟΟΟΟΟΟΟといったものをはじめとした同じ記号によって構成される配列(同質性条件)のいずれかを提示して,対象者を2群に分けた。その後,被験者に対して新しいサングラスを探している設定で,ブランドが擬人化されている場合(擬人化条件)あるいは擬人化されていない場合(非擬人化条件)の2種類の広告のうちの1つを見た上で,ブランド態度をはじめとした質問項目に評価をしてもらった。その結果,独自性の動機が顕著な場合,消費者は擬人化されたブランドを好ましいと評価をせず,独自性を表現するものとしてそれらをあまり選択しないことが明らかになった。こうしたことについて,独自性の動機づけの高い消費者において,擬人化によってアイデンティティの表現の働きが軽減されると受け止めているためではないかと説明している。

こうした研究については,現段階において独自性の動機などの個人特性に着目するにとどまっている状況である。このため,他の自己概念やアイデンティティに関する個人特性については議論の余地がある段階といえる。そこで本研究では,自己概念の領域で従来から取り上げられることが多く,精度の高い尺度も作成されている自尊感情に着目する。

3  理論的背景および仮説

3.1  自尊感情とは

遠藤(2018)によると,自尊感情とは,全体として自己について肯定的に評価することであり,人間が心理的に十分に機能するための基盤を支える概念である。常に意識されているわけではないが,自尊感情により,本人の言動や態度が基本的に方向づけられるとされ,製品・ブランド選択などの消費行動とも関連があることが推測される。例えば,MacInnis and Folkes(2017)では,自尊感情が低い消費者は,向社会的である擬人化されたものを選択しやすい可能性が理論的に示唆されている。

自尊感情について他者との関係性から捉えたソシオメーター理論が提唱されており,関心が寄せられている。ソシオメーター理論は,人々が所属について安定的なレベルを維持しようと駆り立てられる概念のことである(Leary, Tambor, Terdal, & Downs, 1995)。自尊感情の低い人は社会的受容への適性が低いと知覚しており(Leary & Baumeister, 2000),社会性に関連のある手がかりに影響を受けやすいという(Brockner, 1983)。一方で,自尊感情の高い人は親密な関係や集団において,自己が望ましい人物として受け入れられていると知覚しており(Leary & Baumeister, 2000),社会性に関連のある手がかりに影響を受けないという(Brockner, 1983)。

3.2  自尊感情と消費者行動に関する研究

ソシオメーター理論に関連して,Amatulli, Peluso, Guido, and Yoon(2018)は,若さといった社会性に関連のある手がかりに接触した場合,自尊感情の低い高齢の消費者は,より若いと感じる傾向を示し,伝統的な製品よりも現代的な製品を選択すると考えた。これは,自尊感情の低い高齢の消費者が心の重荷になっているステレオタイプの脅威に非常に敏感であり,自分自身を自身の年齢のグループから距離を置き,これらの環境下で若い人々と同調する傾向があるためと説明をしている。彼らの調査では,65歳以上の被験者に対して,質問紙を通して自尊感情を確認した。そして,若いペアの写真の提示を含む広告への接触(若さといった社会性に関連のある手がかり条件)あるいは,高齢のペアについての写真を含む広告への接触(高齢といった社会性に関連のある手がかり条件)のいずれかがランダムに割り当てられた。その後,被験者は,着色された装飾のチョコレート(現代的な製品)あるいは茶色のチョコレート(伝統的な製品)といった2つのチョコレート間で選択する機会が与えられた。その結果,自尊感情の低い高齢の消費者は高齢といった社会性に関連のある手がかりと比べて若さの存在が拡大されて若さを感じることがあるため,伝統的な製品よりも現代的な製品を選択することが明らかになった。そして,こうした結果については自尊感情の高い消費者には見られなかった。このように,自尊感情の高さの違いによって,消費者の行動が異なることが示唆されている。

先行研究の知見を踏まえると,自尊感情の低い消費者は社会性に関連のある手がかりに影響を受けやすいために,擬人化されていないブランドと比べて擬人化されたブランドを高く評価することが推測される。一方,自尊感情の高い消費者は社会性に関連のある手がかりに影響を受けにくいために,擬人化されたブランドと擬人化されていないブランドを同程度に評価することが想定される。

本研究では,消費者の購買行動を強く予測する変数であり(Thomson, MacInnis, & Park, 2005),消費者とブランドとの関係性といったブランド・リレーションシップを形成する要因(Escalas & Bettman, 2003, 2017)として注目を浴びている「自己とブランドの結びつき」について取り上げる。先行研究を踏まえた上で,仮説を設定した。

H(a)自尊感情の低い消費者では,擬人化されていないブランドと比べて擬人化されたブランドの場合に,自己とブランドの結びつきを高く評価するだろう。

H(b)自尊感情の高い消費者では,擬人化されたブランドと擬人化されてないブランドにおける自己とブランドの結びつきを同程度に評価するだろう。

4  予備調査

4.1  刺激の作成

本調査に先立ち,提示する刺激に関する予備調査を実施した。調査対象者には,仮想の靴のブランドであるGEONO(Puzakova & Aggarwal, 2018)の広告を提示した。調査において靴を取り上げた理由は,対象者である大学生にとって身近な存在で,購入できる範囲にあるが安価過ぎないためである。また,性別に関係なく消費者の関与の高い製品カテゴリーと考えられたためである。

ブランドの擬人化について,擬人化されたブランドと擬人化されていないブランドの2種類を用意した。擬人化の操作に関しては,Aggarwal and McGill(2012)を参考に,擬人化刺激においては,人間の顔を連想させるような靴の絵と一人称の説明文章を提示した一方,非擬人化刺激では,物に見えるような靴の絵と三人称の説明文章を提示した。

4.2  予備調査の目的と手続き

作成した広告の実験用刺激としての適切性を確認するため,大学生46名を対象として,質問紙による予備調査を行なった。予備調査の目的は,非擬人化刺激より擬人化刺激の方が,ブランドを擬人化しやすい傾向があることを検証することである。

まず,被験者にはブランドの擬人化刺激ないし非擬人化刺激を提示した後,ブランドの擬人化について評価をしてもらった1)。ブランドの擬人化については,Puzakova and Aggarwal(2018)を参考にして2項目(「あなたはブランドが,(人のように)生きているという印象をどの程度持ちましたか」,「あなたはブランドに人っぽい特徴をどの程度感じますか」)に対して,リッカート式7段階尺度(7:「非常に」-1:「全くない」)で回答してもらった(2項目の信頼係数はα = .86であった)。

4.3  分析結果

被験者に対して擬人化の有無が十分に認識されていることを確認するために,「ブランドの擬人化の程度」を従属変数としてt検定をおこなった。その結果,擬人化刺激(M = 4.69,SD = 1.12)を見た場合の方が,非擬人化刺激(M = 3.66,SD = 1.12)を見た場合よりも,「ブランドの擬人化」について有意に高く評価していた(t(45) = 6.58,p < .01)。

以上の結果から,作成した広告を調査用刺激として用いることが適切であると判断した。

5  調査概要と分析結果

5.1  調査概要

大学生205名に対して調査を実施した。分析を行う際には,205名の回答者のうち,回答に不備のあった9名を除いた196名(男性83名,女性113名)のデータを用いた。調査対象者に対して予備調査と同じ方法で,仮想の靴のブランドであるGEONOの広告を用いた質問紙調査を実施した。人間を連想させるような情報提示をしたものかつ一人称の説明文章(擬人化されたブランド条件),あるいは物に見えるような情報提示をしたものかつ三人称の説明文章(擬人化されていないブランド条件)によって,擬人化を操作した。次に,この広告を提示した後で,自己とブランドの結びつき(7項目:「ブランドは私を表現している」,「私は私自身とブランドを同一視している」,「私はブランドとのつながりを感じる」,「私は自分とはどういう人間か,ブランドによって伝えることができる」,「私はブランドが自分のなりたい自分に近づけるように助けてくれていると思う」,「私はブランドが私であるかのように思える」,「ブランドは私に合っている」:Escalas and Betman, 2003, 2017)に対して,リッカート式7段階尺度(7:「大変そう思う」-1:「全くそう思わない」)で回答する方式を用いた(7項目の信頼係数はα = .95であった)。最終的に,自尊感情の尺度(10項目:「少なくとも人並みには,価値のある人間である」,「色々な良い素質をもっている」,「敗北者だと思うことがよくある(逆転項目)」,「物事を人並みには,うまくやれる」,「自分には,自慢できるところがあまりない(逆転項目)」,「自分に対して肯定的である」,「だいたいにおいて,自分に満足している」,「もっと自分自身を尊敬できるようになりたい(逆転項目)」,「自分は全くだめな人間だと思うことがある(逆転項目)」,「何かにつけて,自分は役に立たない人間だと思う(逆転項目)」:山本・松井・山成,1982)に対して,リッカート式5段階尺度(5:「あてはまる」-1:「あてはまらない」)で回答してもらった(10項目の信頼係数はα = .76であった)。自尊感情については,平均値によって高群および低群に割り振りをおこなった。

5.2  分析結果

自己とブランドの結びつきを従属変数とし,2(擬人化:擬人化されたブランド/擬人化されていないブランド)×2(自尊感情:高群/低群)の被験者間要因の2元配置分散分析を実施した。

分析にあたり,擬人化刺激を与えた群と非擬人化刺激を与えた群において自尊感情が大きくずれる場合,得られた結果データの分析に問題が残る。本調査の分析をする前に,調査対象者に対して擬人化刺激と非擬人化刺激の両条件において自尊感情が同程度であるかを確認するために,「自尊感情」を従属変数としてt検定をおこなった。その結果,擬人化刺激を与えた群(M = 3.03,SD = 0.46)を見た場合と非擬人化刺激を与えた群(M = 3.05,SD = 0.57)を見た場合では「自尊感情」は同程度に評価されていた(t(194) = 0.24,n.s.)。両条件において自尊感情の平均値が大きくずれていないため,このまま分析を行うこととした。

分析の結果,擬人化の有無の主効果(F(1, 192) = 3.05,n.s.)および自尊感情の高低の主効果(F(1, 192) = 0.09,n.s.)はともに有意であるとは言えなかったが,交互作用は有意であった(F(1, 192) = 4.20,p < .05;図1)。このことより,自己とブランドの結びつきに対しては,擬人化と自尊感情のそれぞれ単独の影響があるわけではなく,それらを含めた複数の要因が絡み合い,影響を及ぼしていることが考えられる。つまり,商品や広告側の要因やバリエーションと,消費者側の要因や状態の組み合わせにより,自己とブランドの結びつきは影響を受けていることが推測される。

図1.

擬人化と自尊感情による自己とブランドの結びつきに関する平均値

有意であった交互作用の部分について,その後の検討を行った結果,自尊感情の低群における擬人化の単純主効果が有意であり(F(1, 192) = 7.13,p < .01),自尊感情の低群においては擬人化されたブランド(M = 3.46,SD = 1.30)の方が,擬人化されていないブランド(M = 2.74,SD = 1.34)よりも,自己とブランドの結びつきが高いことが明らかになった。よってH(a)は支持された。また,自尊感情の高群における擬人化の単純主効果は有意であるとはいえなかった(F(1, 192) = 0.05,n.s.)。これにより,H(b)も支持された。ここまで見てきた結果については,表1でまとめている。

表1. 自己とブランドの結びつきの平均値(標準偏差)
擬人化された
ブランド
擬人化されていない
ブランド
自尊感情 低群 3.46(1.30)
n = 49)
2.74(1.34)
n = 48)
高群 3.13(1.42)
n = 49)
3.18(1.22)
n = 50)

※数値が高いほど,自己とブランドの結びつきが高く評価されたことを示す

( )内は標準偏差。

下図は予備調査と本調査で用いた広告画像

1.擬人化されたブランド

2.擬人化されていないブランド

6  まとめと今後の課題

本研究では,擬人化されたブランドに注目し,どのような消費者において,自己とブラドの結びつきを高めるのかについて,特に自尊感情の側面から検討してきた。これまで擬人化は,製品・ブランドについての購買行動に影響を及ぼす重要な要因として注目を浴びてきた。本稿では,ブランドの広告を利用した調査の結果,自尊感情の低い消費者が,擬人化されていないブランドと比べて擬人化されたブランドの場合に,自己とブランドの結びつきを高く評価することを明らかにした。これは,自尊感情の低い消費者が社会的受容への適性が低いと知覚しているために社会性に関連のある手がかりといった擬人化されたブランドのほうが擬人化されていないブランドよりも自己とブランドの結びつきを強める効果を持つと考えられる。また,自尊感情の高い消費者では,こうした効果を確認することができなかった。

本研究の学術的意義としては,擬人化研究における意義を挙げることができる。従来,擬人化されたブランドと自己概念に関する研究では,独自性欲求などの個人特性に着目するにとどまっている状況であった。しかしながら本研究により,自尊感情の理論に着目することで,自尊感情の低い消費者がブランドを擬人化する場合のほうが擬人化しない場合よりも自己とブランドの結びつきを高めることの効果の顕著さが示された。

また,実務的意義としては,以降のものを挙げることができる。企業が自ら操作できる擬人化に関する広告を通して,購買行動の予測因である自己とブランドの結びつきを高くすることが可能である点を示唆したことが挙げられる。調査では,商品だけでなく,ロゴも含めたブランドに関して擬人化を試みた。こうした点から,本研究から得られた示唆はブランドを用いた広告だけでなく,ブランドのロゴにも応用することが可能だと考えられる。

本研究は,ここまで述べてきた通り,学術的意義と実務的意義があるが,一方で,課題もいくつか挙げることができる。1つ目は,他の製品カテゴリーを対象とした検討である。本研究では,先行研究(Puzakova & Aggarwal, 2018)を参考にして,靴のブランドを採用した。今後は,靴だけでなく,他の製品カテゴリーのブランドを用いて調査を行う必要がある。

2つ目は,他の個人差要因の検討である。本研究では,自己概念として自尊感情について検討をおこなった。自己概念に関連して,「自己の内面や感情,気分など,他者からは直接観察されない自己の側面に注意を向ける程度に関する個人差を示すもの」といった私的自己意識と「自己の服装や髪型,あるいは他者に対する言動など,他者が観察しうる自己の側面に注意を向ける程度に関する個人差を示す」といった公的自己意識から成る自意識(菅原,1984)をはじめとした概念も存在している。今後は,その他の自己概念から検討して同様の結果が得られるかどうかの確認が期待されるだろう。

謝辞

本稿は2019年度に交付を受けた松山大学特別研究助成による研究成果の一部です。また,本稿の掲載にあたっては,編集長および2名の匿名レビュワーの先生方により,多くの貴重なコメントをいただきました。深く感謝申し上げます。

1)  日本語訳の表現の不自然さが擬人化の程度に影響を及ぼした可能性がある。今回は,予備調査で有意差が認められたため,擬人化刺激として採用した。今後は,より流ちょうな日本語表現に修正し,擬人化の程度にできるだけ影響を及ぼさないよう刺激作成に努めたい。

参考文献
 
© 2020 日本商業学会
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