抄録
印章研究の中で,中世ドイツの都市印章に対する関心は独自の位置を占めている。史料としての都市印章は第一に,国王や諸侯といった封建社会の中の個人と同様のいち登場人物として都市を示し,その実存を表現する。第二に,都市印章は伝統的に,そのような封建社会の登場人物とは異なる思想を体現した存在としての都市を表現するものとみなされてきた。何よりも都市印章は,中世盛期における都市のイメージを映し出す。したがって都市印章というカテゴリが印章研究において小さくない範囲を占めているドイツの研究は,興味深い研究傾向を示すといえる。
本論文では,中世ドイツ都市の成立期に出現した都市印章に関連する研究に目をむける。中世ドイツ都市の成立を都市自らが語る証拠とみなし,都市印章を論じる諸研究を概観し,研究動向から明らかになる特徴を指摘したい。都市印章研究からは,この型の印章が当初「都市」の印章ではなかった,との見通しが得られる。都市印章はもともと聖俗のあらゆる人間が集まり,異なった権利と義務をもつ地方教会の成員からなる単位を表現している。従って中世都市のイメージは元々教会に似た性格から導き出されていたことを,研究動向から明らかにしうる。