日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第58回日本衛生動物学会大会
セッションID: B29
会議情報

福井県の紅斑熱群リケッチア症、特に患者発生地でのベクター調査について
*石ぐろ 史高田 伸弘矢野 泰弘藤田 博巳
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
2004年7月上旬に福井県大野市の荒島岳(標高1,523m)に登山した県内男性が、本県ひいては北陸初となる紅斑熱群(spotted fever group:SFG)リケッチア症と診断され、血清学的にRickettsia helvetica(Rh)の感染と見なされた。Rhの症例は、近年、欧州さらにタイ国北部から報告されつつあるが、わが国そして東アジアでは報告がない。そこで、この患者発生地を中心にベクターになるマダニ種とSFGリケッチアの侵淫状況を把握するため、同年秋から調査を開始した。マダニ相として、植生上からヒトツトゲマダニ(Im)、シュルツェマダニ(Ip)、ヤマトマダニ(Io)、キチマダニ(Hf)、ヤマトチマダニ(Hj)およびタイワンカクマダニ(Dt)の計6種、また野鼠寄生としてIo、Dtにタヌキマダニを加えた3種を確認した。このうちIpは高度1,000m以上でのみ見られ、Ioは全高度に、その他の種は山麓から中腹に多かった。2005年春に植生から得た6種、計135個体の各内臓の乳剤をL細胞で培養、うち106個体の各残骸についてはRickettsia prowazekiiクエン酸合成酵素遺伝子(gltA)由来の常用プライマーにてPCRを行い、SFGリケッチア群の保有状況を探った。その結果、培養ではImの6/29から同群が生菌分離でき、一方、PCRではImの12/29、Ipの10/24、Ioの3/22、Hfの5/21そしてHjの1/8が陽性であった。我々の従来調査では、本県も含め列島南半に分布するImからRhの分離をみており、今回の分離株もgltA断片のシークエンスによればすべてRhと同定された。これらの事実から、Rh感染と見なされた本県症例のベクターはImの可能性が最も高いと考えられた。ただ、IpもPCRが高率に陽性であった点は、北日本のIpからRh分離が知られる事実を考えると、本県における実際のベクターがいずれの種であるか断定は早計で、現在、Ipを含むPCR陽性の分すべてについて同定シーケンスを継続中なので、この地域のマダニ種全体を絡めて考察の予定である。キーワード:福井県、紅斑熱群、マダニ、Rickettsia helvetica、PCR
著者関連情報
© 2006 日本衛生動物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top