抄録
リヴァースシマカ(リバーズシマカ)Aedes (stegomyia) riversiは琉球列島で普通であるが、九州における産地は局地的で、照葉樹林が残された島や沿岸部だけに限られる。その分布状態から、本種は後氷期に北上し、その後、限られた自然林だけに取り残されてきたと考えられている。九州以外では1998年に高知県の足摺岬と土佐清水で分布記録が追加されたが、本州での分布記録はなかった。
2009年9月13日、紀伊半島南部に位置する和歌山県すさみ町の江須崎(沿岸とわずかに陸続きの面積7haの島)において、1ヶ所の樹洞の水たまりからAedes属の幼虫を採集した。これらを成虫まで飼育したところ、リヴァースシマカ8♂、4♀、ヤマダシマカ1♂、2♀を得た。また、この樹洞内からは羽化直後と思われるリヴァースシマカ1♂も採集した。その後、9月26-27日に、和歌山県西部の美浜町から最南端の潮岬にかけて沿岸部で調査を行い、人里離れた照葉樹林17地点で成虫および幼虫の採集を行った。その結果、ヒトスジシマカが12地点から得られたのに対し、リヴァースシマカは江須崎のみで採集された。紀伊半島の沿岸部にはウバメガシやシイを中心とした照葉樹林が発達しているが、これらの大部分が薪炭林として管理されてきた二次林であると思われた。江須崎は島全体が神域として保護されてきた歴史があり、貴重な暖地性植物群落が国の天然記念物に指定されている。今回調査を行った地点のうち、確実に自然林と思われたのは江須崎のみであった。このことから、本種がかつて広域に分布し、その後、自然林の消滅に伴って分布が限定されたという従来の遺存分布説が支持される。今後、紀伊半島の自然林と二次林を対象とした詳細な調査が必要である。