抄録
緒言
平成12年1月、岐阜県多治見市で在宅重症心身障害児・者(以下、重症児・者)をもつ家族より訪問依頼を受け、歯科医師の指示のもと、訪問歯科衛生士による専門的口腔ケアを開始した。この10年間の専門的口腔ケアの実施状況及び家族へのアンケート調査の結果を報告するとともに課題についても検討した。
対象と方法
平成12年1月〜平成22年3月に、「多治見口腔ケアグループはねっと」訪問歯科衛生士による専門的口腔ケアを実施した在宅重症児・者42名を対象とした。初回・調査時アセスメントと、家族へのアンケート調査を実施した。
結果
開始年齢が最も多いのは1〜3歳であった。主障害は脳性麻痺などに起因する肢体不自由が大多数を占めた。初回の口腔衛生状況は半数以上が清掃不良であり、口腔内状況は、歯肉炎、歯石付着、口臭などがみられた。口腔機能状況は、食べ物をうまく取り込めない、丸のみしてしまう、流涎があるなどの問題がみられた。専門的口腔ケアを実施した結果、経管栄養から経口摂取へ移行したケースもみられた。アンケートでは、 摂食嚥下訓練を含む専門的口腔ケアや、訪問による定期的介入への評価が多く挙がった。
考察
訪問歯科衛生士が継続的に行う器質的・機能的ケアは、口腔環境や口腔機能の維持、改善に繋がっていることがアセスメント及びアンケート調査により明確となった。さらに、感染症罹患頻度の軽減、入院回数の減少など全身的な変化を専門的口腔ケアの効果と評価する声も挙がった。また、数値では表れにくい表情の表出を評価する意見もあり、母子関係や、社会生活への参加がより円滑になっていると思われる。現在は大学病院との連携によりVF検査が行われるケースが増加し、在宅での摂食嚥下訓練が安全に実施できる環境も整いつつある。 一方、訪問制度の周知活動や重症児・者に関わる訪問歯科衛生士の人材不足が課題として明らかとなった。今後も歯科医師とともに課題解決に向け取り組む努力が必要と考えられる。