日本重症心身障害学会誌
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P1045 利用者の希望を尊重した高齢重症心身障害者の看取り
井上 敏子永田 益美花田 華名子片山 雅博井上 英雄
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2011 年 36 巻 2 号 p. 336

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抄録

はじめに 重症児者施設の入所者が高齢化する中、どのような医療を実施するか、しないか、どのように看取るかという課題に直面することが増えてきた。今回、一入所者の看取りを通しての経験を報告する。 症例 76歳、男性。大島分類3。脳性麻痺(右片麻痺)。簡単な発語が可能で意思表示は明確。 明るい性格で、好きな入浴、食事、車椅子乗車のことについて、毎日同じことを問いかけ職員との関わりを楽しむ。思いがすぐに解決しないと大きな声を出し興奮することがある。後見人は甥で、面会は年に1回程度。 経過 元々は、経口摂取ができ、健康状態は安定していた。X年5月から嘔吐を繰り返す様になり、精査するが胃の高度な変形以外に、原因は不明であった。注入も試みたが量が増えると嘔吐をするため、同年8月CVポートを造設し中心静脈栄養を開始した。それに伴い抑制が必要となった。CVは、自己抜去、炎症といったトラブルを繰り返した。X+1年12月ポート使用不能となり、後見人と相談の結果、皮下輸液と少量の経口摂取で、本人の希望を優先した生活に切り替えた。夜間は観察室で、日中は車椅子に乗車しリビングで過ごした。訴えに応じた関わりをし、苦痛を最小限にした生活を工夫した。 日中は、自由に過ごせる様、皮下輸液は夕方から夜間にかけて実施した。食べる楽しみとして、アイスクリーム、プリン等を数口ずつ摂取した。生活は、制限せず本人の希望に添い、入浴、車椅乗車を行なった。X+2年3月、前日まで車椅子に乗車し、職員に見守られる中永眠した。 まとめ 知的障害があり動ける利用者への積極的医療は、かえって本人の不利益を生じた。利用者の希望をかなえることで、その人が最後まで、その人らしく過ごせるようにサポートし、有意義な時間が送れるように整えるためには、職員同士が話し合いを重ね、すること・しないことを慎重に選択し、ケアの優先順位について意志統一していくことが、重要であった。

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© 2011 日本重症心身障害学会
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