抄録
はじめに
重症心身障害児(者)においては、摂食嚥下機能の障害により経管栄養を導入している症例が少なくない。経腸栄養剤の成分および形態によっては、微量元素の欠乏を来すことがあり得る。当施設で経験した低Cu血症の症例を通して、適切な栄養剤の選択について考察する。
症例1
29歳男性、滑脳症・脳性麻痺・てんかん。15歳より全面経管栄養開始。大豆・ミルクにアレルギーがあり、アレルギー用栄養剤を使用。栄養剤の変更に伴い2004年8月頃より皮膚症状が出現。低Cu血症(23μg/dL)を認め、Cuを多く含む栄養剤に変更。皮膚症状とともに低Cu血症も改善。
症例2
42歳女性、脳炎後遺症・脳性麻痺・てんかん。1999年嚥下造影検査施行、誤嚥を認め経口栄養中止し経鼻胃内栄養開始。2008年10月低Cu血症(12μg/dL)を認め、Cuに対するZnの投与量が多いことによるCuの吸収障害と診断。栄養剤を変更しZn投与量を減量することにより低Cu血症は改善。
症例3
37歳女性、新生児仮死・脳性麻痺・てんかん。1990年噴門形成術施行。 大豆・卵白・とうもろこしにアレルギーがあり、アレルギー用ミルクを使用。経鼻胃内栄養を行っていたが、チューブ事故抜去が多く、2008年9月胃瘻造設術施行・半固形化栄養開始。2010年4月WBC:2800/μL・Hb:9.4g/dLと白血球減少・貧血を認め、Cu欠乏を疑い検査。著明な低Cu血症(5μg/dL)を認め、補助食品によるCuの補充開始。低Cu血症は改善したが、半固形化栄養によるCuの吸収障害を考え、2010年8月より半固形化栄養中止。2010年10月より経胃瘻空腸栄養開始。
考察
ヒトのCu吸収は主に胃と十二指腸上部で行われるが、ZnはCuの吸収に拮抗するため、CuとZnの摂取量の比率に注意する必要がある。また、ラットでは半固形化栄養による微量元素の吸収障害の報告があり、形態についても注意が必要である。