抄録
はじめに
重症心身障害児において嚥下障害のため口腔内・梨状窩に貯留した唾液が気道に流入することにより、誤嚥性肺炎、無気肺、気管支のれん縮などの呼吸障害が引き起こされる。喉頭気管分離以外の唾液誤嚥防止対策として、唾液腺ボツリヌス毒素(2010年、小田ら)、スピーチバルブ装着(2011年、田中ら)、ロートエキス内服(2012年、須貝ら)など様々な工夫が報告されている。
方法
当院通院中で倫理委員会の承認後に、喉頭気管分離を行わずに唾液腺ボツリヌス毒素施注、単純気管切開児のカフ付きカニューレ使用、カフなしカニューレにスピーチバルブ装着、ロートエキス内服などの唾液誤嚥防止対策を行った患者を対象として、その効果について検討した。
結果
症例は10例(男児6例、女児4例。1歳6カ月〜15歳5カ月:中央値5歳8カ月)。基礎疾患は周産期仮死4例、先天奇形2例、染色体異常2例、低酸素虚血性脳症1例、脊髄損傷1例で、全例大島分類1。単純気管切開患者は8例で、うち5例が人工呼吸器を使用(常時2例、間欠3例)。唾液誤嚥防止策として行った内容は、唾液腺ボツリヌス毒素施注3例、カフ付きカニューレ使用2例、カフなしカニューレにスピーチバルブ装着7例、ロートエキス内服2例。流涎・分泌物・吸引・気道感染が減るなどの効果を認めたのは、ロートエキス内服2/2例(気管切開未施行患者)、唾液腺ボツリヌス毒素施注2/3例(無効例は嚥下障害が増悪、有効2例は効果減弱し中止)、カフ付きカニューレ0/2例、スピーチバルブ6/7例。現在の転帰は、6例がスピーチバルブ、2例がロートエキス内服で症状安定しており、1例が喉頭気管分離術施行、1例が分離術検討中である。
結論
単純気管切開患者に対してはスピーチバルブが有効であった。気管切開未施行患者ではロートエキス内服が効果を認め、これらは積極的に試みてよいと考えられた。唾液腺ボツリヌス毒素の効果は一時的であり、長期的な管理には困難であった。