抄録
Ⅰ.はじめに
近年のリハビリテーションにおいて、①家族中心理論(対象児(者)の治療は、家族ぐるみの援助を含むべきである)、②生態学的理論と課題指向型理論(生活障害を軽減し、自立や適応を促していくためには、対象児(者)が生活する家庭や学校、施設生活環境で実際に必要な技能・課題を練習することが必要である)、といった考え方が重要視されるようになった。このような中で、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))のリハビリテーションにおいても、作業療法士(以下、OT)の働きが一層重要になってきていると感じている。OTの役割は、①対象児(者)を取り巻く実生活と環境を詳細に評価し、②日々繰り返しのある生活活動や遊びを治療手段とし、③楽しみと夢のある日常生活を目標にしていく、まさに「生活支援」であり、それは過去もそして今後も変わることのない根底である。
筆者らは、2011年から「重症心身障害のある人の生活を支える作業療法フォーラム」を開催し(ホームページは現在準備中)、今年で3回目を迎えている。毎回この領域に携わるOTの施設での取り組みの意見交換や事例報告が活発に行われているが、本シンポジウムではその内容を以下の3点に整理して報告したい。
Ⅱ.健康増進と維持
OTは、呼吸理学療法に代表されるような徒手的技術は充分にもち合わせていないが、育児や日々の介助の工夫、環境調整を通して、様々な合併症に対する包括的な支援にあたることができる。シーティングやポジショニングは、二次障害への対策だけでなく、様々な姿勢の特性を活かした生活空間の広がりを目指すものと位置付けている。上気道の呼吸障害への対応として左右への側方ティルト機構がついた座位保持装置などは、今後さらなるデザインの発展を予感させるものである。また施設入所者を対象に、日常生活の中に無理なく継続できる24時間の姿勢援助プログラムを約5カ月間実施した成果の報告(2001年、旭川児童院研究)などは、重症児(者)の一見固定的に思える拘縮や変形が改善しうる範囲をもっており、何よりその進行を予防できることを示唆した臨床研究として意義深いものである。
Ⅲ.楽しみのある日常生活活動
全国の施設内でOTが様々な個別的レクレーション活動やクラブ活動を企画・運営している例が多くなった。これらには、在宅生活にも取り入れられるアイデアも多くあり、病院のリハ専門職にも役立つ情報である。中でもOTが最も貢献できる「感覚あそび」は、感覚統合理論やスヌーズレンの理論と活動形態などをうまく応用してきた経過があり、今後さらに明解な根拠に基づいた感覚あそびの支援に発展していくことが期待される。超重症児(者)の感覚クラブの取り組みを通して、変化の少ない日常生活の中で反応が微弱と思い込んでいたスタッフの意識改革につながったことなども紹介されている。また重症児(者)間のコミュニケーションの発展を目指した活動なども多く実践されている。医学の進歩や工学技術の発展のめざましい現代にあっても、重症児(者)にはその恩恵が還元される割合は少ない。しかしだからこそ、人として当たり前に生きること、優しさ、幸せの力動感といったことを大切にしたいと多くの仲間が感じている。そして、将来何かができるようになるための支援に偏ることなく、今を大切に生きる支援の重要性をこの領域から発信していきたい。
Ⅳ.多職種との協業
「近江学園」の創設者であった糸賀一雄先生は、重症児(者)は自前で太陽や星のように光っており、その理解の輪を広げていくことを願って、「この子らを世の光に」と唱えた。多職種協業の意義は、まさにここにあり、重症児(者)がすでにもっている豊かな部分に気付き、それを充分に発揮させてあげるような発想が必要なのである。そしてOTは、多職種協業において常に身近な存在になれるよう努力したい。施設という生態系の中で、重症児(者)との係りの多い支援員が、対象児(者)との日々の付き合いに喜びをもてるということが、OTの重要な一目標であり、彼らのQOLに貢献できる協力体制の充実が求められている。個別治療の一手段として、OTとPT、OTとSTといったジョイントセラピーも実施されるようになり、その成果も大いに期待される。
Ⅴ.おわりに
OTは、「実生活支援」をキーワードにしているだけで、その専門性ははなはだ曖昧なものである。しかし一方で、今回報告したように様々な生活現場で多岐にわたる重症児(者)のニーズに柔軟に応えられる専門職であり、今後も重症児(者)のリハビリテーションチームワークに貢献していけるはずである。