日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム1:重症心身障害児(者)へのこれからのリハビリテーション
重症心身障害児(者)と関わる言語聴覚士のめざす支援
高見 葉津
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2014 年 39 巻 1 号 p. 37-38

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抄録
Ⅰ.はじめに 本邦での言語聴覚士(以下、ST)の養成校教育は1970年代に入ってから始められたが、1999年に初めて国家資格試験が実施されるまで長い時間を要した。 1960年代にアメリカから伝えられた脳性麻痺の言語治療の中に発声発語機能に食べる機能が関与することが述べられている1)。1970年代に入りプレスピーチアプローチが紹介され2)、早期療育など時代的変化に伴いSTによる重度脳性麻痺児や重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))への食事指導が行われるようになった。 重症化に伴い重症児施設に入職するSTが増えてきているが、まだ少数職種であり個別性の高い重症児(者)へのコミュニケーションや食事指導の臨床は試行錯誤の連続である。今回、STの重症児(者)への役割を再考し、STの向かう方向について検討した。 Ⅱ.重症児(者)のST支援について 1.コミュニケーション支援 重症児(者)の他者とのつながりは、年長になっても乳児期と変わりないケアを受けるという関係が主となる。しかし、重症児(者)は狭い枠ではあるが生活経験を重ねながらゆっくりと学習し、身体の成長と同様に心や理解力が発達する。人と人が分かり合える関係を築くことを発達的に捉え、学習の糸口を見出し、潜在的能力を引き出し育み、弱く希少な表出を見つけながらその表出を重症児(者)と関わる人々と共有して、コミュニケーション環境を調整すること3)をST支援と考える。 重症児(者)のコミュニケーションの基盤は、鯨岡が述べている間主観性4)と相互主観性5)という視点が挙げられる。鯨岡は、間主観的な関わりは、関わる人によってその解釈が異なることや、関わり方が違うこともある。重症児(者)は他に主体があることを感じ、関わりの中で共有、共感を感じ取り相互主観性という関係が成り立ってくると述べている。子どもの背景を推測してやり取りを行うことは、家族や施設とともに過ごした中で培った経験を理解する必要がある。 ST指導では、言語室での個別指導やグループ指導などがある。重症児(者)の場合、入所施設や通園での生活の場でのより良いコミュニケーションをめざす必要がある。 日々の生活で、重症児(者)たちが示す表出を発達的に捉え保障するために、関わる人々が表出の受け取り方を修正、共有しながら昇華させる必要がある。そのための方法として、鯨岡氏はエピソードの記述6)を挙げている。 日常に見られる表出をよく観察し、養育者からの情報に耳を傾け、その人らしさの特性に配慮しながら対象児(者)の示すわずかな表出の受け止め方を確認、修正、共有するインフォーマルな職員間の話合いも有効である。臨床や生活のビデオ録画を見ながら反応の分析や意見交換をすることもできる。STの指導方法にインリアルアプローチ7)がある。 2.食べることへの支援 STは食べることとコミュニケーションを関連づけて行う。年少では、摂食・嚥下機能に加え、授乳や食事を母子相互作用や育児支援と捉え8)、母子の関係が豊かになるような指導を行う。味わうことのみでも口腔内の知覚、食べ物に関する認知などを意識した働きかけを継続する。 今後の課題は、気管切開術や喉頭気管分離術を施行した重症児(者)への嚥下の再学習指導である。喉頭周辺の運動や呼吸方法の変化に伴い嚥下運動が変化していることが推測されるので、安全を見極めながら嚥下運動の再学習を支援する。 Ⅲ.重症児(者)へのSTの新しいフィールドについて 小児の訪問STは数少ない。筆者は2012年4月から小児の訪問を開始した。開始から2013年8月までの訪問対象児は23名でそのうち重症児(者)は18名であった。大島分類1と準超重症、超重症で15名を占めていた。経鼻経管栄養や胃瘻からの栄養摂取は13名であった。 STへの要望は、遊びの広がり、子どもの反応の読み取り、表出の定形化といったコミュニケーション支援と経管栄養の子どもの母親全員が味み程度でも口から摂取する機会を増やしたいとのことであった。 STの関わりで感覚運動経験を拡げ新たな反応が見られ、母親の関わり方が修正され、子どもへの理解が深められる変化もあった。 また、経口摂取の不安があるが、少しでも味を楽しむことで生活を豊かにし、子どもとの共感を得、希望につなげたいという母親からの訴えがあった。STは摂食・嚥下に関する専門的な知識とアプローチ方法で安全に味み程度でも食する支援を行い、それを通して子どもへの関わり方を提示した。 体調が不安定で、外出がままならない母子にとって、家庭という生活の場で安心して支援が受けられるSTの訪問は有効であると考えられた。 Ⅳ.おわりに 重症児(者)と関わるSTの臨床は、コミュニケーションと食べることへの支援である。早期介入は食べることへの指導を含め脳の可塑性と母子相互作用への支援として意味があり、今後は、気管切開や喉頭気管分離手術後の嚥下機能の再学習への支援が課題となる。 コミュニケーション支援では、生活や医療的ケアでのコミュニケーション関係にも注目し、子どもへの理解を深め、潜在能力を引出す方法をさらに探求することが必要と考えられた。    在宅重症児(者)への訪問ST支援は、今後拡充していく必要性があると思われた。
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