抄録
Ⅰ.はじめに
小児医療における診断・治療技術の進歩と医療体制の整備により、重度の健康問題を持つ子どもの命が救われるようになった。その反面、特殊な医療技術を要するケアを継続しなければ生命を維持できない子どもは増加する傾向にあると言われている1)。
入院期間の短縮化に伴い医療的ケアを必要とする子どもたちが地域で生活することは珍しくない。しかし、小児の在宅生活を支える社会資源は十分ではない現状がある。そのような中、安定した在宅生活を継続するためには、
① 病状の安定
② がんばらない育児
③ 本人・家族みんなが満足できる生活
の3つの要素が必要と考えた。事例を振り返り、検討した結果をここに報告する。
Ⅱ.倫理的配慮
対象者家族に事例をまとめることの趣旨、発表する際に個人が特定されないようにすること、同意しないことで不利益がないことを説明し同意を得た。
Ⅲ.事例紹介
1.病状の安定
1)ケース紹介
10代 男児 脳性麻痺(痙性四肢麻痺)
重度精神発達遅滞 慢性呼吸不全
嚥下機能低下に伴う誤嚥性肺炎で、入退院を繰り返す。母親の医療不信が強く、定期受診はしていなかった。病院からの退院条件で訪問看護導入となった。
2)活動の実際
・母親は訪問看護に対して拒否的であったが、状態の把握に努め、呼吸理学療法や腹臥位を導入した。
・ 日々の呼吸状態の変化を経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)値など実際の数値を用いて母親に説明した。
・主治医や各関連機関との連携を図った。
3)考察
徹底した予防により、呼吸状態も安定し入院回数も減少。母親との信頼関係も徐々に構築され訪問看護に対する母親の心理も変化した。自宅で病気を予防し状態を安定させるためには、家族の力だけではなく、専門的介入が必要なことも多いのではないだろうか。
2.がんばらない育児
1)ケース紹介
2歳 男児 低酸素性脳症、脳性麻痺、気管切開し人工呼吸管理
両親の相互協力が出来ている3人家族。
退院時カンファレンスで父親は「(母親は)この子のことに関しては、なんでもわかるしできるから」と、地域の往診医や訪問看護に対しての支援を積極的には望んでいない様子が窺えた。
2)活動の実際
・全身状態の把握・医療的ケア・呼吸機器の管理。
・外出機会の少ない母親へのレスパイトケア。
3)考察
緊急時の判断も冷静にできる自信を持った母親であったが「子どもにとってのお母さん」は1人しかいないということを理解してもらう必要性があると思われた。本人・家族のお互いの心身の安定はとても大切なことである。長い在宅生活継続のためには、ときには子どもから離れ、母親自身が自分の時間を持つことも必要である。
3.本人・家族みんなが満足できる生活
1)ケース紹介
18トリソミー・心不全・呼吸障害を持つ3兄弟末子の男児、Aくん。
出生直後に余命半年の宣告。
生後48日目に退院し、半年と24日間自宅で過ごし天国へと旅立った。
2)活動の実際
・ 家事や不安定なAくんの育児で疲労と不安でいっぱいだった母親へのレスパイトケア。
・兄弟にも母親が目を向けられるように、行事に合わせ変則的な訪問日程の調整や外出支援。
・NICU主治医への報告と連携。
・亡くなって数日後の訪問。母親は「自宅で家族と過ごすことが出来てよかった。心の支えになっていたのは、自分の気持ちを理解してもらったこと。」と感謝の気持ちを話した。
3)考察
家族は最期のそのときまで、各々が普段通りに自分の役割をこなしながらAくんを囲んで生活をした。Aくんは家族が集まる居間の真ん中で、最期のそのときまで、けんかをする兄たちの声、大好きな両親の声、家事など日常の音を聞き、家族を感じることが出来ていたのではないだろうか。
Ⅳ.総合考察
重度の健康問題を抱える子どもが退院する場合、「家庭で一緒に暮らす」という子どもと家族の基本的ニーズが叶うと同時にケアの負担が伴う1)と言われている。しかしそれが家族にとって負担や特別なことにならないような支援が必要である。そして家族で大切な時間を過ごすためには、①~③のどれも不可欠な要素なのである。
家族が一緒に自宅で過ごすということは一見当たり前のことのように思われる。しかしその当たり前の日常が、障害児者本人・家族にとって貴重な時間なのである。
Ⅴ.おわりに
小児の在宅医療に関する支援体制は未だ十分ではない。今後はあらゆるニーズにも対応できる訪問看護師のスキルアップを目指すとともに、病院と地域の連携が小児の在宅医療の向上につながっていくのではないだろうか。