日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム3:利用者の権利・最善の利益と治療方針決定 −重症心身障害医療における家族・医療現場の思いとディレンマ−
重症心身障害児者施設における医療同意の問題
麻生 幸三郎吉田 太山田 桂太郎
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2014 年 39 巻 2 号 p. 209

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抄録
医療行為、とくに、侵襲的医療行為に対しては、医療担当者から提供された情報を基に患者さんがその可否を判断し同意することが求められる。しかし、重症心身障害児者(重症児者)医療において、本人の確実な同意が得られることはまれである。 本人の同意が得られない場合、通常、家族が同意を代行する。しかし、これには問題もある。とくに、家族の考えが一般的な医療の考えと異なる場合が問題である。手術や経管栄養などの医療処置を行えば病状が好転することを家族に説明しても同意がえられないことがまれにみられる。家族の医療拒否の理由は、不十分な障害受容から熟慮の末の看取りの要望までさまざまであるが、家族の希望に従えば、患者さんが死に至ることもありうる。このため、ネグレクトとして児童相談所に虐待通告すべきか否かの判断さえ必要となることがある。しかし、家族との議論を繰り返す中で患者さんへの家族の深い愛情を再認識させられることもある。このため、医療担当者はきわめて厳しい選択を迫られる。 一方、誰が代行同意可能な家族なのか、判断しかねることもある。通常、同意を代行されるのは両親だが、両親がみえない場合、親族のうちどこまでを含めるべきか、明確な基準はない。また、兄弟姉妹であっても、長年、遠くに住んでいて、ほとんど面会にみえず、患者さんの生活をほとんど知らないことがある。こうした親族が代理同意者として適切かどうかは疑問である。一方、血はつながっていないが、定期的に面会に訪れ、入院利用者のことをよく理解し、親身になって心配される親族もみえる。 しかし、その親族すらみえないことがある。この場合、医療同意を得ること自体、不可能である。身寄りのない入院利用者には、通常、第三者未成年後見人、または、第三者成年後見人が指定されている。しかし、現時点では、少なくとも第三者成年後見人は被後見人に対する医療行為の承諾はできない。予防接種のように、明らかな効果が期待でき、侵襲性が低い医療行為についても、ドイツなどと異なり、第三者成年後見人は医療同意ができない。しかし、同意が得られないという理由から医療行為を行わなければ、重症児者にとって著しい不利益がもたらされる可能性がある。かといって、重症児者の医学的改善のためならば、あらゆる医療行為が許容されるわけでもない。このため、この場合も、医療担当者は大きなジレンマに陥る。 こうした問題について施設として対処する場合、1)直接担当者が単独で悩み、決定するのではなく、複数の人間が議論して結論をだす、2)決定に至る経緯を文章に残し、必要があれば、関係者、関係機関に報告して公開性を確保する、という2点が必須要件であろう。具体的には施設内倫理委員会などで、議論し、記録に残す方式が想定される。委員会には法律家などの外部委員の参加が必要であるが、緊急時においては、外部委員にすぐに議論に加わっていただけない可能性もある。その場合、なんらかの工夫によって機動性を確保する必要もある。 しかし、小規模施設が多い重症児者施設は、重症児者の生活の質、取り巻く環境、周りの人々の思いを考慮にいれ、きちんとした理由good reasonsに基づいて適切な医療倫理的判断を下すことができるだけの人的リソースに乏しい。おそらく、こうした問題に自信をもって対応できる施設は少ないであろう。これを解決する一つの方法としては、事例の集積と集中検討が考えられる。具体的には学会の委員会などで各施設において問題となった事例を集め、家族会の代表の方に加え、法律家、臨床倫理の専門家などもまじえ、検討することが考えられる。その討論内容が事例集のような形で公開されれば、「重症児者の意向」という正解がえられないこれらの問題に関して、施設としても、もう少し自信をもって対処できるようになるかもしれない。 略歴 麻生幸三郎 愛知県心身障害者コロニーこばと学園 学園長 1978年名古屋大学医学部卒業後、小児科を専攻。安城更生病院小児科勤務後、名古屋大学小児科で小児神経疾患の診療に従事。1984年にアメリカ、ピッツバーグ大学にResearch associateとして2年間留学後、名古屋第一赤十字病院小児科で勤務。その後、名古屋大学小児科助手、講師を経て、2008年愛知県青い鳥医療福祉センターに副センター長として赴任、2013年から現職。専攻は小児神経学、てんかん学、障害児者医療。日本小児神経学会、日本てんかん学会の専門医および評議員、日本重症心身障害学会評議員。
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© 2014 日本重症心身障害学会
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