抄録
カルニチン(以下、Car)は、脂肪酸代謝の促進や調整に重要な役割を果たすアミノ酸誘導体で、食餌から75%が供給され、25%が肝臓や腎臓で生合成される。Carの主な働きは、長鎖脂肪酸をミトコンドリア内に転送する過程や細胞毒であるアシル化合物を体外へ排泄する過程でキャリアとして働くことであり、脂肪酸代謝やミトコンドリアの機能維持において不可欠な物質である。Car欠乏状態では飢餓時のエネルギー産生障害などから非ケトン性低血糖、意識障害、けいれん、筋力低下、心筋症などエネルギークライシスの症状が出現する。近年、Car欠乏の原因として、有機酸代謝異常症や脂肪酸β酸化異常症などの先天代謝異常症だけでなく、薬剤性としてvalproate sodium (以下、VPA)やピボキシル基含有抗菌剤の内服、さらに経管栄養剤や特殊ミルクの使用などの栄養学的な原因が注目されている。重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))においても長期間の経腸栄養やVPAなどの抗てんかん薬治療を受けている場合には二次性Car欠乏症が多いとする報告が散見されるが、少数例での検討のみでその実態は明らかになっていなかった。そこで、当院入院中の重症児(者)78例を対象に、低Car血症の頻度と程度、発症リスク因子、臨床症状、L−Car摂取量と血清Car濃度などについて検討した。まず、Car摂取方法別に、A群;Car非添加経腸栄養剤使用者(36名)、B群;Car添加経腸栄養剤使用者(8名)、C群;経口摂取者(34名)の3群に分類して血清Car濃度の比較を行ったところ、血清遊離Carの平均濃度(基準値36~74μmol/l)は、A群では13.9±7.5μmol/lと全例で低下しており、C群でも32.1±10.7μmol/lで、22例(66.7%)が基準値以下であった。B群では48.2±16.0μmol/lで、1例のみ軽度の低下を認めた。次に、抗てんかん薬の影響を検討するため、VPAとphenobarbital (以下、PB)に注目し、VPAとPBを併用している場合をVPA(+)PB(+)群、VPAを内服しPBを内服していない場合をVPA(+)PB(−)群、VPAを内服せずPBを内服している場合をVPA(−)PB(+)群、両方とも内服していない場合をVPA(−)PB(−)群として比較したところ、VPA(+)PB(+)群は、その他のVPA(+)PB(−)群、VPA(−)PB(+)群、VPA(−)PB(−)群に比べて遊離Carの平均濃度は有意に低下していた。また、経口摂取者では、VPA(+)PB(−)群においてもVPA(−)PB(−)群に比べて有意な低下がみられた。低Car血症の症状の検討では、 血清遊離Car濃度が20μmol/l未満の低Car血症群(32例)と20μmol/l以上の非低Car血症群(46例)で比較検討したところ、低Car血症群でもEF%55以下となる心機能の低下した症例はなかったが、空腹時低血糖と高アンモニア血症の症例が非低Car血症群より多い傾向があった。またVPA内服32例では、血中アンモニア濃度と遊離Car濃度には負の相関を認めた。さらに、L−カルニチン補充により、麻痺性イレウスなどの腹部症状が改善した症例があった。また、Car添加経腸栄養剤使用群でのL−Carの補充量について、経管栄養剤の添付成分表から体重当たり1日のL−Car補充量を計算すると、0.8~3.5mg/kg/dayであった。この群では、VPAとPBを併用していた1例のみで軽度の血清Car濃度の低下がみられたが、それ以外の症例は抗てんかん薬内服に関わらず血清Car濃度は正常範囲内であった。今回の検討から、Car非添加経腸栄養剤使用、経口摂取者でのVPAとPB併用およびVPA内服中の高アンモニア血症では、L−Car補充が必要であると考えられた。L−Carの補充量は、Car添加経腸栄養剤使用例ではL−Car 0.8~3.5mg/kg/dayと少量の補充で血清Car濃度が維持されていたことから、毎日のL−Carの補充量は比較的少量でも血清Carが正常に保たれることが示唆された。一方で、経口摂取者でもVPA内服例やVPAとPB併用例で血清Carが低下を認め、また、Car添加経腸栄養剤使用例でもVPAとPBを併用している1例で、血清Car低下がみられたことから、こうした例では、もう少し多めの補充が必要である可能性が示唆され、今後、検討が必要と思われる。
略歴 1996年 旭川医科大学卒業 1996年 金沢大学医学部小児科入局 2004年 国立病院機構金沢医療センター小児科 2006年 金沢大学大学院医学部医学科卒業 2008年 国立病院機構医王病院小児科専門医;日本小児神経学会専門医、日本小児科学会専門医